第12話 尾行開始!

 今日、早川さんは佐宮さんと遊ぶらしい。早川さんの事をもっと知るため、俺は2人が遊ぶ様子を尾行する。帽子を深くかぶってからマスクをして変装する。


サングラスも一応考えたが、そこまですると犯罪者に見られると思い止めた。何事もやり過ぎは厳禁だ。なるべく自然を意識しないとな。


万が一2人にバレた時は“偶然”を装うつもりだ。早川さんは俺の今日の予定を知らないから、たまたま同じ場所にいても反論できないはず。


…これで計画は完璧だ。2人の集合時間・場所は9時に○○駅だったな。早めに着いて待っておくか。



 8時30分に○○駅に着いた俺は、改札から少し離れたところにあるベンチに座って、早川さんと佐宮さんが来るのを待つ。


駅前には地元のマスコットキャラの像があるから、おそらくそこに集合すると思う。さて、最初に来るのはどっちかな…?


そして45分になり、見覚えのある女子がやってきた。最初に来たのは佐宮さんで、可愛らしい私服が印象的だ。大人しい性格の彼女に合っている。


佐宮さんは着いてから携帯を操作し始める。着いた事を早川さんに知らせるためだろう。友達をなるべく待たせちゃダメだぞ。


なんて心の中で世話を焼いた時…。


「お待たせ~。ごめんね待たせちゃって」


人混みの中から早川さんが現れた。…彼女は俺に見せた事がないレベルのオシャレをしている。これはどう判断するべきだ?


俺にオシャレな姿を見せる必要がないぐらいか、か…。良い意味にも悪い意味にもなり得るのは確かだろう。


「わたしも今来たところだから。着いたのを“はーちゃん”に知らせようと思ったところなんだよ」


佐宮さんは早川さんを“はーちゃん”と呼ぶのか。これも新情報だな。


「そうなんだ。行こうか、さーちゃん」


「うん」


2人は並んで歩き出し、ICカードを使って改札の中に入って行く。俺も見失わない程度の距離を取りつつ付いて行こう。



 早川さんと佐宮さんと同じ車両に乗った俺。とはいえ、最前と最奥ぐらいの距離は置いてある。念には念を入れないとな。


【次は〇△駅~】


電車のアナウンスの後、座っていた2人が席を立つ。この駅には確か大型ショッピングモールがあるはずだ。ネット通販が大半の俺でも知ってるぐらい有名だ。


きっと友達同士で色々買い物するんだろう。まさに青春だな~。


なんて妄想してる場合じゃない! 降りた2人を見失わないようにしよう!



 俺の予想通り、大型ショッピングモールに入った2人。エスカレーターでどんどん上の階に行ってるが、どこに行く気なんだ?


「ふぅ。やっと着いた~」


早川さんがあるエリア階に着いてからそう言って、奥に向かって行く。この階は映画館か。2人は何を観る気なんだ?


「…はい、予約したチケット」

早川さんは人気のない所に移動した後、カバンからチケットを取り出した。


「ありがとう。今年も“〇リキュア”に付き合ってくれて嬉しいよ」


「気にしないで。アレ子供向けなのに面白いよね~。去年初めて観てから、あたしもファンになっちゃった。あの時は誘ってくれてありがと」


2人にはそんな一面があるのか。そういう好みだったら、昨日の洋画は退屈だっただろう…。早川さんには悪い事をした。


「映画の後はお昼だから、何も食べないよね? はーちゃん?」


「そのつもりだよ。さーちゃんはポップコーンとか食べる?」


「ううん、食べない」


「そっか。そろそろ入場しようか」


2人はチケットを持って、入場口に向かって行く。俺はどうしようかな? 映画が終わるまで別のところで時間を潰すか…?


いや、それはダメだ。〇リキュアを観ている2人の反応が気になる。近くの席になれる保証はないが、おみくじ感覚で席を取ろう。


もし遠ければ、俺も純粋な気持ちで楽しめば良い。最近は少年漫画が大ヒットしているし、子供向けと侮ってはいけないよな。


なんて決意したが、ある事に気付く。チケットを買うために、窓口の人に〇リキュアを観る事を言わないといけないぞ! 買う時にどう思われるだろう…。


……待てよ? そんなの気にしなくて良いな。何故なら窓口の人と2度と会う事はないからだ。2度と会わない人にどう思われようと問題ないじゃないか。


結論が出たので、早速チケットを買いに行く。だがそこで別の問題が生まれてしまうのだ…。

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