第11話 欲求は進化する!

 アニメと映画を鑑賞し終えたところ、隣にいる早川さんが俺の肩に寄りかかってきた。昼食後だから眠くなるのはわかるが、この状況ならのでは?


いやいや、生徒相手にそれはヤバい。でも今しか出来なさそうだし…。



 そんな風に葛藤している途中で、すぐトイレに行きたくなってきた。肩に寄りかかっている早川さんをゆっくり寝かしてから向かう。


こうなったのは神の導きに違いない。なら従うしかないが、モヤモヤするな…。



 トイレを済ませて部屋に戻ると、早川さんは体を起こしていた。


「颯君偉い!」


何故か急に褒められた。どういう事だ?


「眠気が半端なくてつい寄りかかったけど、あたしに手を出さなかったね。すぐおっぱい揉んでくると思ったよ」


前言撤回。神の導きに従って良かった! ありがとう神様!


「やっぱり洋画は合わなかったみたいだな。悪かった」

彼女が寝たのは、昼食後以外の要素もあると思う。


「良いの良いの。あたしがそれにしてって言ったんだから」


「帰って寝るか?」

俺の部屋では熟睡できないだろう。


「ううん。ここで待ってる時にあの映画が見放題になってるのを確認したから、それ観てから帰る」


「あの映画?」


「【れんせい】だよ。去年か一昨年、めっちゃ流行ってたと思うけど…」


「すまないが知らないな。どういう作品なんだ?」


「男の先生と女子生徒の恋愛ものだよ」


「えっ…?」


よりによってこのタイミングで? これも神の導きなのか?


「この映画、さーちゃんと観に行ったの。久しぶりにまた観たくなってさ…」


「そういう事なら良いぞ。早川さんは選んでなかったからな」


その映画で、彼女と距離を縮めるヒントを得られるかも。なんて期待しながら邦画を視聴する…。



 「こんな、こんな事があるのか…」

先生の立場になりきると、せつなくて涙が少し流れる。


「颯君泣いてる?」


「だって可哀想だろ。せっかく良い関係になったのに、先生が異動になって離ればなれになるなんて…」


俺はこの先生みたいにバッドエンドにならないようにする! そう心に誓う。


「さーちゃんも同じ事言ってたし、泣いてたのを思い出したよ」


「佐宮さんも泣いていたのか…」


彼女とは、更衣室の件以降話していない。(2話参照) 早川さんの話が本当なら、意外に気が合うかもな。



 「じゃあ、あたしは帰るね」

早川さんは玄関でそう告げる。


12時30分に昼食を食べてから、アニメ1話・洋画・邦画を1作品観たからな。時間は既に夕方になっている。


「颯君。明日はさーちゃんと遊ぶから、誘われても行けないからね」


「わかった」

そうなると俺は1人確定だ。適当にのんびりして過ごすか。


「9時に○○駅で集合する事になってるんだ~」


「そうか。楽しんできなよ」


「うん、バイバ~イ♪」

早川さんは俺に手を振ってから、部屋を出て行った。



 早川さんが俺の家に押しかけてから、関係は変わってきた。そして彼女について少しずつ知る事ができている。


しかし、それには限界がある。何故なら同性の友達に見せる一面と、年上かつ異性の俺に見せる一面は違うからだ。俺は…、もっと早川さんを知りたい。


そのためには、明日遊ぶ様子を尾行するのがベストか? …って、いくらなんでも尾行はマズいだろ! もしバレたら…。


だが、それ以外の方法があるか? この件は早川さんはもちろんの事、佐宮さんにも知られる訳にはいかない。お互いでなければ意味はないんだ。


幸い明日は予定ないし、2人の集合場所の○○駅は何度も行った事がある。バレないように変装を徹底すれば大丈夫なはず。


俺は多少の罪悪感を抱きつつ、明日の尾行を決意するのだった。

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