第9話 意識の先
3連休の初日の金曜日。俺は朝でも昼でもない、9時30分頃に起床した。今起きたとなると、早川さんに来てもらうのは昼あたりが良いかな。
昼か…。彼女は昼食のアテはあるのか? ご両親が旅行中だから、自分で何とかしないといけない。タイミングを見つけて訊いてみるか。
そんな事を思いつつ集合時間について〇インしたら、すぐ電話がかかってきた。
「昼にするって事は、今起きた感じ?」
「ああ。早川さんはいつ起きたんだ?」
「いつも通り起きたよ。『休日でも規則正しくしなさい』ってお母さんに言われてるから」
「そうなのか、立派なお母さんだな」
話が逸れてしまった。本題に戻ろう。
「もし良ければ映画とかアニメを観る前に、俺の家で一緒にお昼食べないか? 何か作るぞ?」
俺が軽く朝食を食べて時間調整すれば良い。食事も“おうちデート”の一環だ。
「えっ!? 颯君って料理できるの!?」
すごく驚かれてる。そんなに意外か?
「早川さんのお母さんに比べたら全然だろうがな。平均以下だと思ってくれ」
ハードルを上げると苦労するので、程々にしておく。
「それでも凄いよ。ずっとカップ麺かお弁当だと思ってたから…」
「そんな生活を続けてたら、あっという間に体壊すぞ」
体験はした事ないものの、容易に想像がつく。
「確かにそうだね。…いくら出せば、あたしの分を作ってくれるの?」
「金なんてとらないよ。俺の家に来る手間賃だと思ってくれれば良い」
その代わり好感度が欲しいかな…。
「さすが颯君! それじゃあ、お言葉に甘えるね」
「わかった。だったら12時30分に来てくれ。すぐ食べられるようにする」
「うん。また後でね~」
「ああ」
さて、早川さんが来るまでに準備をしないと!
人生で初めて、年下かつ女子に料理を振舞う…。本当はメニューにこだわりたいがそんな腕はないので、男の料理で定番の“炒飯”にする。
やはりこういう時は、作り慣れている料理に限るな。失敗すれば、好感度を上げるどころか下げかねないし…。
約束した12時30分の数分前に炒飯を完成させる。後は早川さんが来るのを待つだけだ。
【ピンポーン】
ちょうど良いタイミングで来てくれたか。早速彼女を家に上げよう。
「…めっちゃ良い匂いがするね~♪」
部屋に入った早川さんが嬉しそうに反応する。
「炒飯にしたんだが良かったか?」
「うん。あたし炒飯好きだから」
「それは良かった」
彼女をテーブルに待機させてから、急いで準備する。
「見た目もおいしそうじゃん。こげまくってるかと思った」
「炒飯は何度も作ってるから、そんなミスはしないよ」
過去に失敗した経験が活きている証拠だ。
「そっか。…いただきま~す♪」
俺も食べるとしよう。朝はほぼ食べてないから空腹だ。
早川さんが俺の作った炒飯を一口、続いて二口食べた。感想が気になる。
「…どうだ?」
「おいし~♪」
「気に入ってもらえて良かったよ」
とりあえず、第一関門はクリアできたな。
「こういう時って“お口に合って”みたいな言い方するけど、あれ意味深だよね」
何で急にそんな事言い出す? なんて思ったが、彼女の唇を見て昨日の行為を思い出す。早川さんの“口”は、俺に合っていたな。
「映画とかアニメを観るのは建前で、本当はシコシコしてもらうために呼んだんでしょ?」
なるほど。エロい妄想をさせるために、あんな事言ったのか。
「いや、建前じゃないよ。早川さんをもっと知りたいから誘ったんだ」
「そうだったんだ。まるで“おうちデート”みたいだね」
「……」
まさか彼女の口から、そのワードが出るとは…。
「黙らないでよ。意識しちゃうじゃん」
気まずいので、お互い黙る俺と早川さん。
「颯君はそういうつもりで、今日あたしを誘ったんだね。でも好きになるとは限らないよ?」
「もちろんそれはわかっている。だとしても、可能性はあるだろ?」
「まぁね。あたしと颯君は10歳差だっけ? それぐらいの差で結婚する芸能人は珍しくないし、確かに可能性はあるかも」
早川さんから“可能性はある”と聴けたのは何よりの収穫だ。焦らず彼女との距離を縮めていけばきっと…。
昼食の炒飯を完食した俺と早川さん。これでメインの映画やアニメ鑑賞に入れるな。作品選びは重要だから、慎重に選ぶとしよう。
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