第5話 俺の心は彼女に支配された

 早川さんに〇コキされた翌日。俺は何とか起床する。今日もロクに寝れなかったぞ…。


ついに、彼女と一線を越えてしまった。問題とは無縁の生活を送っていたはずなのに、どうしてこんな事になる? 人生は何が起こるかわからない…。



 朝の準備を終えた俺は、いつも通り出勤する。職員室に着いてから、俺のデスクの隣で仕事中の村松先生に挨拶してから席に着く。


……おかしい、彼女を見てもにしたい気持ちが湧いてこない。昨日出し過ぎたせいか?


「? 磯部先生、どうかしましたか?」

俺の視線に気付いた村松先生がこっちを見る。


「いえ、何でもないです。お邪魔してすみません」


「なら良いんですが…」


理由はよくわからんが、良い流れじゃないか。村松先生をにしなければ、モッコリを生徒に晒す心配がない。早川さんは「残念」と言っていたが、生徒全員そう思ってはいないだろう…。



 職員会議を終え、俺は2-Aに向かう。昨日と違って、チャイムと同時に入室して教壇に立つ。


「朝のホームルームを始めるぞ~」


……全員の着席を見届けた。これで本題に入れる。


「今日の連絡事項は…」

生徒全員を見渡してる時、一番後ろの席の早川さんと目が合う。その瞬間…。


「…なんだ?」


自分でもよくわからないが、心臓がドキドキし始めた。それにが大きくなり始めている。何故か彼女から目が離せない…。


「先生、どうかしたんですか?」

一番前の席の明石あかしさんが声をかけてきた。


彼女が声をかけてくれて助かった。これ以上の醜態は晒せない。


「ちょっとぼーっとしてしまった。ホームルームを続けるからな」


一体俺はどうしてしまったんだ? 最後に早川さんをチラ見したところ、彼女はクスクス笑っていた気がする。気合を入れてシャキッとしないと!



 1限は俺が担当する現代文なので、ホームルームが終わり次第そのまま始める。正直、今は早川さんの顔を見たくないんだよな…。なんてワガママを教師の俺が言えるはずがないので、意識しないように授業をする。


「えーと、この問題を…」

一方的な授業は眠気を誘う。なのでちょいちょい指名するのが俺流だ。


「あたしやります!」

早川さんが手を挙げる。


何でよりによってこんな時に? 普段は挙手なんてしないのに。


「じゃあ、早川さん解いてくれ」


彼女は席を立ち、黒板に向かって歩いてくる。いつも通り書く様子を見守ろう。


俺の葛藤をよそに、早川さんはチョークでスラスラ答えを書いていく。…正解してるので、後は彼女が席に戻ってから解説すれば良い。


「先生、これで合ってますか?」


何でここで声をかける? 声をかけられたら顔を見るしかない。…間近で見た事で、鼓動との膨張が復活する。


「……ああ」

直視できないので、やや視線を外して答えた。


「やった♪」

嬉しそうな様子で、早川さんは席に戻って行く。


ヤバい、ヤバいぞ。俺の心は彼女に支配されている。理由は絶対、昨日の〇コキだ! きっと道を踏み外した俺に神が罰を与えたんだろう。


「…今から、さっきの問題の解説をする」



 1限がようやく終わり、俺は急いで教室を出る。こんな状態をこれ以上生徒に見られたらなんて言われるか…。想像すらしたくない。


職員室に着き、自分のデスクで一息つく。教師で歳が近いのは村松先生ぐらいで、後はおじさんとおばさんばかりだ。今はそれがありがたいぞ…。


なんてホッとしたのも束の間、デスクの引き出しにある携帯が鳴った。防犯意識がないのでここに入れている。連絡相手に心当たりないから、きっと間違いだな。


そう思いつつも念のため確認すると“H・T”すなわち早川さんから〇インが来ていた。相坂高校は、授業以外なら携帯の使用を許可されている。


『さっきの颯君怪しすぎ。みんな困ってたよ?』


そうだろうな。我ながら恥ずかしい。


『「先生だけに見えるお化けがいたとか?」なんて話が出てたけど?』


マジか。そんな解釈をされるとは…。


『颯君がお望みなら、今日もしてあげるね♡』


今の俺に禁句が飛び出した。言うまでもなく心が揺れまくっているぞ。


『今日は止めておく』


さすがに3日連続は、周りの人に怪しまれる。わずかに残った正義が俺を引き止めた。


『じゃあ、あたしの家に来る? 明日から3連休だけど、お父さんとお母さんは2泊3日の旅行に行って1人なんだよね~』


この誘惑は、今の俺には強烈過ぎる一言だ。早めに答えを出さないと…。

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