第30話 文化祭の終わりと後夜祭
「終わったわね〜」
ツバメは感慨深い声を漏らしながら笑みをこぼす。
時刻は18時半。既に空は黒く染まり、文化祭の終わりを告げる後夜祭が催されていた。
校庭の中心にはキャンプファイヤー……ではなく、安全を考慮してなのか、キャンプ用のLEDライトが幾つか設置され、白色の光を放っている。
その明かりを取り囲むように各生徒は集まり、友人と語り合ったり、恋人と過ごしたりなど、各々の時間を過ごしていた。
そんな光景を、俺たちは校舎の屋上から眺めていた。
他の生徒は誰も居ない。俺とツバメの二人きりだ。
「そういえば、サク。屋上って侵入禁止じゃないの? よく鍵を持っていたわね」
「委員会の仕事だよ。数年前に鍵をこじ開けて侵入した先輩が居たらしくてさ。誰かが入ってこないように見張りが必要なんだよ」
「あら、そうなの? 役得ね〜。アタシは文化祭の事前準備の仕事だけだったから」
「その代わり、色んな雑務を押し付けられたけどな。色々と忙しかったよ」
それこそ、江波先輩経由で色々と仕事を回されたっけ。思い出しただけで苦笑いが出てしまうが、おかげで、堀道の断罪には成功したわけだし良しとしよう。
安心した俺は背伸びをしながら、息を吐き出す。
「いや〜、開放感が凄いなぁ。まあ、堀道が気絶するとは思わなかったけど」
「ドギツイ一撃だったわね」
つい数時間前。
俺たちは堀道の二股を白日の元へ晒した。
最後には、理兎音さんの拳により、堀道は気絶へと至ったわけだが。
流石に気絶者が出てしまえば、先生に報告しなければならなかったが、江波先輩がフォローをしてくれた。
表向きの理由は、プロレス部の催しで「体験参加者の堀道に技が綺麗に決まりすぎて気絶した」として、処理してもらっている。
「江波先輩には改めてお礼を言わないと」
「そうね。事後処理も、理兎音さんへのフォローもしてくれたわけだし」
断罪後、江波先輩は気絶した堀道が救急車で運ばれるまで付添をしてくれた。また、先生へ事件の経緯説明も必要だったので、委員会の仕事を他の生徒へ引き継ぎを実施。その後、傷心した理兎音さんを連れて帰宅している。
先輩にとって、これが高校最後の文化祭だったのに、俺たちに協力したばかりに思い出を残せなかった。
しかし、先輩は「妹のためなら、どうってことないさ。それに、お前らと居るのも楽しかったぞ」と気さくに笑ってくれた。先輩には頭が上がらないな。
「ひとまず、今は後夜祭を楽しもう。変に遠慮したら、かえって先輩に失礼だ」
「そうね。細かな事後処理は必要だけど、難しく考えるのは後にしましょう」
事後処理か……。
ふと、堀道の顔が脳裏にちらつく。
アイツが二股をしていた噂はクラスどころか、学校中で拡散されていた。どこかの1年が二股を暴露されて、ぶん殴られて気絶をしたらしい……と。
「しかし、堀道は今後、どうなるんだろうな。想定していた以上に噂話が広がってしまったし」
「まあ、あれだけ派手に制裁を行えばねぇ〜。まあ、少なくとも逮捕になるんじゃないかしら?」
「性的暴行未遂の件か……」
二股も悪いが別に校則を破ったわけでも、犯罪に手を出したわけでもない。暴露されても、せいぜい、謹慎程度の処分になると思っていた……。
だが、性的暴行未遂については擁護不要な犯罪行為である。
すると、ツバメがスマートフォンを取り出して、とある音声を再生する。
『お〜い、ツバメちゃん〜? 寝ているのかな〜?』
『薬が効いたみたいだな』
聞こえてくるのは堀道と谷地の声。
ツバメが強姦未遂のときに録音されたものだった。
「ツバメ、まさか……」
「ええ、学校と警察に報告したわ。アタシは堀道と、そのお友達に薬を盛られて、強姦未遂に遭いましたってね。未遂とはいえ性犯罪に関しては学校も黙ってはいないでしょ。少なくとも堀道と谷地はすぐに追い詰められるわ」
「ツバメは辛くなかったのか。あまり思い出したくもない事件だし、気持ちに整理がついてからでも良かったんだぞ?」
そんな心遣いがツバメは嬉しかったのか、人差し指で俺の頬を優しく小突いてくる。
「サクが助けてくれたじゃない。だから気にしてない。だけど、堀道が犯した行為については許してないわ。アタシは運が良かったからいいけど、このまま彼を野放しにしたら、別の女の子が同じ被害に遭うかもしれないから」
ツバメは目を細めながら言葉を続ける。
「堀道が断罪された時、理兎音さんに一切謝ろうとしなかったじゃない? 自分の身を案じた行動を見て、決心がついたのよ。ああ、コイツは性根が腐っているから、時間を与えず徹底的に追い詰めないと駄目だろうなって」
ツバメはハァ……という大きな息を吐き出して「先生も事件については凄く怒っていたから、堀道の処分も確定ね」と、付け加える。
普段から優等生なツバメは先生からの評判も良く、信頼も厚い。おそらく、堀道は言い逃れも出来ないだろう。
「とりあえず、これで計画は殆ど完了したな。後は、最後の一つを済ませれば終了だ」
ポツリと呟くと、タイミングを計ったように、屋上扉をコンコンとノックする音が耳に届く。
「稲瀬くん、居る?」
扉越しから聞こえてきたのは三ヶ島さんの声。
俺は扉に掛けられた錠を外して、彼女を出迎える。
「ようこそ、三ヶ島さん」
これが最後の仕事になる。
『ねえ、稲瀬くん。私に想いを伝えたいのはいつかな?』
三ヶ島さんとデートへ行った時、堀道の策略によって、俺の恋慕は彼女にバレてしまった。だが、彼女は俺自身の口から告白を聞きたいと言ったのだ。
俺が指定したのは文化祭当日。
『三ヶ島陽歩に告白をして、フラれる』
それが、俺に残る最後の仕事なのであった。
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