第28話 文化祭当日、堀道への断罪①
『さあ、盛り上がってまいりましたよ〜告白大会!! 次の方どうぞ〜!!』
文化祭当日、体育館ステージ。
13時から3年生クラスの出し物である『告白大会』が催されている。
内容に関していえば、生徒が壇上で告白をするといった内容だ。
それこそ、高校生らしく好きな人へ愛の告白。はたまた、お世話になっている先輩や家族へ感謝を届ける等、多様な告白をしていく出し物である。
出る生徒は事前に決まっているので、告白する生徒が壇上に立つと、プロジェクターに用意された告白相手の写真と雰囲気に合わせたBGMが流れる演出となっている。
その様子を、俺は体育館の隅に立ち、トラブルがないか監視していた。
もちろん、文化祭委員として元々予定されていた仕事である。
「体が痛てぇ……」
昨日、堀道に受けた打撲部分を擦る。
本来なら安静にしておくべきなのだろう。
だが、やられたままで終わるわけにはいかない。
堀道を断罪するまでは。
二股をした事実も。
ツバメへの暴行未遂も。
そして、俺へ行った暴力も。
今日で全ての決着をつけてやる。
「そろそろだな」
腕時計を確認すると時刻は13時40分。
堀道の軽音部のステージは14時から。告白大会の後になる。
もちろん、堀道は証拠写真の全てが消えたと安心して、予定通り、舞台袖で仲間と楽器の準備をしている。
念の為なのか、直前になって軽音部からプロジェクターの使用は無しになったと報告は受けている。本来、プロジェクターに軽音部のPVを写し、その途中で二股証拠写真を映し出す予定であった。
残念ながら、証拠写真は消えているので、堀道の懸念も空振りに終わっているけどな。
「まあ、元作戦だけど」
堀道、お前が恐れている証拠写真に関しては、この世に存在はしてないよ。
だから、既に元々予定していた作戦は成り立たない。そこは安心しろ。
「その代わり、別の作戦を用意してやったからよ」
お前が体育館に入った時点で運命は決まった。作戦は始められる。
堀道がステージに立つときじゃない。今すぐにだ。
すると、スマートフォンから通知音が鳴る。ツバメからのメッセージだ。
『そろそろ理兎音さんが体育館に入るわ』
その内容を確認し、俺はステージの観客席へと視線を向ける。
観客席にいる生徒の中に、黒い黒髪にポニーテールを作っている女子の姿を捉える。
よし、三ヶ島さんも居るな。
確認を終えると、次に体育館脇に設営されたプロレス部のステージへとアイコンタクトを送る。すると、気付いた江波先輩はサムズアップをして、もう一人の部員である先輩と一緒に、体育館の出入り口へと待機してもらう。
さながら、門に立つ金剛力士像のようだ。
「あとは、彼女が来れば舞台は整う」
願うように呟くと、理兎音さんがツバメと共に出入り口から姿を現した。
よし、これで準備が整った。
俺は右手を大きく上げて、舞台に立つ司会者へ合図する。
『え〜、それではですね。そろそろ、終わりの時間も近づいてまいりましたので、次の人でラストになります。最後は別の高校から来ていただいた江波利兎音さんです。壇上へどうぞ〜』
司会者に促されて、理兎音さんはステージへと上がる。その表情は驚きに満ちていた。
そう、これが代替案である作戦だ。
委員会の仕事で告白大会があるのは知っていたし、内容もステージ利用の事前申請で確認済み。
生徒が壇上に立ち告白する。
これが利用できないかと考えたのだ。
主催である3年生クラスへは江波先輩経由で協力してもらった。内容は「妹が来るから、サプライズで舞台に立たせてくれないか? うちの学校に恋人が居るみたいなんだ」っと、伝えてもらった。
そして、事前の打ち合わせで、理兎音さんが体育館に来たら、ゲストとしてステージに立たせるといった手はずとなった。
ここまでは順調。
困惑している理兎音さんに代わり、司会者は簡単な自己紹介を始める。
『え〜、江波理兎音さんはですね〜、我が校の文化祭実行委員会の江波一虎くんの妹さんなんですよ。実は、お兄さんのサプライズでね、妹さんを舞台に立たせてあげようってなったんですよ〜』
「え、お兄ちゃんが!? マジ? あーし、めちゃ驚いてんだけど!!」
『あはは〜、美味しいリアクションども〜。それでですね、理兎音さん、彼氏さんが我が校の生徒さんなんですよね? だから、今日のステージで愛を叫んじゃいましょ〜!!』
「まっじでハズいんだけど。ま、いい機会だし、やっちゃおうかな!!」
『OK~です!! 盛り上がってまいりましたね〜。では、プロジェクターに写真を映し出すんで、愛しの彼氏との2ショットのご提供をお願いします』
「オッケ〜」
無垢な笑みを浮かべる理兎音さんはスマートフォンを司会者に渡すと、それをPCへと接続する。
すると、プロジェクターには幸せそうに満面の笑みを浮かべる理兎音さんと堀道の2ショットが映し出される。
そして、理兎音さんはマイクを受け取ると、元気な声で宣言する。
『あーしの彼氏はレオン……堀道レオンくんで〜す!!』
何もしらない理兎音さんはマイクを通して多幸感あふれる声を響かせる。
だが、その内容に観客席の一部から、どよめきが走る。
「ねぇ、堀道って……堀道くんのことだよね」
「写真もあるし、同姓同名ってわけじゃなさそう。でも、堀道って三ヶ島と付き合っているんじゃ?」
「じゃあ、二股ってこと!?」
そんなヒソヒソ話が漏れ聞こえてくる。どうやら、席にいたクラスメイト達が気づき始めたらしい。
ここからは臨機応変にいかなければならない。予想外の出来事に堀道が、どのようなアクションを起こしても対応できるようにしなければ。
壇上に上がりこんで言い訳を始めるか?
それとも、逃げ出すか?
舞台袖の入り口にある扉を注視するが、今のところ動きはない。
そして、事情を全く知らない理兎音さんは満面の笑みで告白を続ける。
『レオンーーー、大好きだよ〜〜〜!! 軽音部のステージも頑張ってね〜〜!!』
堂々たる真っ直ぐな告白と軽音部への応援。その言葉により、クラスメイト達の疑念は確信へと変わる。
堀道レオンは二股をしている……と。
だが、ここで終わりにはさせない。
未だに舞台袖から堀道が出てこないあたり、ヤツは相当混乱しているのだろう。
ならば、言い訳を思いつく前に追い詰める。
俺は観客席へと近づき、三ヶ島さんの肩に手を乗せて告げる。
「三ヶ島さん、行ってきて」
「うん!!」
それを合図に、三ヶ島さんは立ち上がり、ステージへと昇る。
そして、プロジェクターに映し出されていた堀道と理兎音さんの2ショットが、堀道と三ヶ島さんとの2ショットへと切り替わる。
「え? は、え!?」
いきなりの出来事に、理兎音さんは状況を飲み込めていないのだろう。プロジェクターと目の前に立つ三ヶ島さんを相互に見比べるように視線をキョロキョロと忙しなく動かしている。
驚きで放心する理兎音さんから、三ヶ島さんは軽く会釈して、マイクを受け取る。
『はじめまして。三ヶ島陽歩といいます。堀道レオンくんの彼女です。今日は彼に、とある告白をしたいと思います』
導火線についた火は止まらない。
三ヶ島さんは混沌と化す体育館のざわめきを気にする素振りも見せず、終止符を打つ真実をぶちまけるのであった。
『私が伝えたい告白。それは、堀道くんが二股をしている事実です!!』
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