第13話 成果報告と次へのアクション

「……というのが、この前の日曜日に起こった出来事だ」


「頭痛が痛い話だわ」


 三ヶ島さんと日曜にデートをした翌日。

放課後になり、俺はツバメを空き教室へと呼び出していた。

理由はもちろん、三ヶ島さんとのお出かけと、堀道と出会ってしまった事件についての報告だ。


そして、全てを伝え終えると、ツバメは頭を抱えながら渋い顔を作りあげる。


「まさか、サクが三ヶ島さんをデートに誘っていたなんてね。しかも、堀道が現れて脅しを仕掛けてくるなんて。よく退けられたわね」


「三ヶ島さんのおかげだよ。でも、俺の恋慕は知られてしまったけどな」


「結果的に良かったじゃない。もし、陽歩さんがアンタをなんとも思ってなかったら、今頃は失恋していたわけだし。でも、残念。傷心したアンタの傷口に塩を塗ってあげられないのだもの」


「とどめを刺しにくるなよ」


 するとツバメは「冗談よ」と意地悪な笑みを返してくれる。

まあ、本当に振られていたら、コイツはきちんと慰めてくれるだろうけど。


「さて……と、陽歩さんの気持ちについては、ほば確定みたいなものね。三ヶ島さんはアンタに惚れている。それこそ、昨日は堀道と出合うまでは楽しく過ごせたでしょうね。何か買い物でもしたの?」


「ああ、まあ……な。スポーツ用品店とか行ったけど」


 流石にツバメの誕生日プレゼントを買いに行ったとは言えない。一応、いつでも渡せるように常にカバンには入れてるけど……。


 そんな歯切れの悪い回答にツバメはジト目で睨みつけてくるが、すぐに話題を切り替える。


「まあ、いいわ。三ヶ島さんがサクに惚れているなら、あとは10月まで好感度を維持するだけだし」


「それって、三ヶ島さん攻略については大きなアクションは必要ないって意味で良いんだよな?」


「そうなるわね。アンタが三ヶ島さんに嫌われるような行動や言動をしなければだけど」


「肝に銘じておくよ。そうなると、残りは堀道の二股を暴露する準備か……。ちなみに、浮気相手の江波さんは俺たちの文化祭に来る気配はあるのか?」


 その質問にツバメは首を横に振り否定をする。


「残年ながら来れそうに無いわね。江波さんは友達に“バイトのシフト入れ間違えた〜。彼氏の文化祭に参加出来ない〜”って愚痴をこぼしていたらしいのよ」


「さしずめ、堀道が、わざと間違ったの文化祭開催日を伝えたってところか。バイト中なら相手を監視せずに拘束できるしな。でも、別のバイトの人とシフトを入れ替えたりとか出来そうなもんだけど」


「それが無理なのよね〜。だって、江波さんのバイト先、もう一人のアルバイトが堀道だから。そもそも、彼女らのバイト先って個人経営の飲食店で、アルバイトも3人だけなのよね。そして、残りの1人も予定を決めてしまったらしいから、江波さんはシフトが代われなくて友達に愚痴っていたわけ」


「そりゃあ、難しそうだな。そうなると、江波さんはバイト中だから文化祭は参加できないわけか」


「まあね。でも、考えてみなさい。アルバイトは必ずしも江波さんじゃないといけないわけじゃない」


 どうやら、ツバメは会話の流れを想定していたのか、自慢するようにフフンっと鼻で笑ってみせる。リアクションからして、手は回してあるのだろう。おかげで、彼女の考えが漠然と読み取れた。


「なるほど、分かったよ。つまり、その日のバイトを埋め合わせる人員が居ればいいわけだ」


「そういうこと。いわゆるヘルプ要因ね。幸い、少しお金に困ってる学生なんて多いし、代わりの人員はすぐ見つかったわ。ちなみに、江波さんには“バイトシフトをこっそり代わって、文化祭で彼氏を驚かそう”って、口止めをしているから、堀道にもバレる可能性はない。彼が泣いて叫んじゃうくらいのサプライズね〜」


 そう告げるツバメは人差し指を口元に当てて、悪女みたいに微笑む。頼もし過ぎて怖い。


 だけど、これなら堀道の意表を突けるはず。

なにしろ、文化祭に居ないはずの浮気相手が存在しているのだから。想像するだけで背筋に嫌な汗が出てくる。


「まあ、わざとバイトと文化祭の日を被せるように工作するくらいだ。堀道は江波さんと三ヶ島さん、2人が同じ空間に居るのは避けたいのだろうな」


「そうね〜。口が達者な堀道でも、その状況になれば言い訳は難しいだろうし。あとは文化祭当日に、クラスメイトが沢山居る場所でスクリーンに二股証拠写真でも映し出せば完璧……といいたいけどね」


「急に言い淀むなよ。不安になるじゃないか。懸念でもあるのか?」


「大ありよ。アンタ、昨日の出来事で堀道に目をつけられたじゃない。ああいうタイプはプライドが物凄く高いから、必ず報復してくるわよ。……というより、既に行動してきたわ」


 すると、ツバメはスマートフォンを取り出して、とあるメッセージ画面を見せつけてくる。


『今週、暇な時に二人で一緒に遊ばない?』


 簡素とも呼べるメッセージ。それだけなら問題はない……送信者が堀道という点を除けばだが。


「アタシは二股ならぬ、三股目の候補として堀道に選ばれたらしいわ」

「どう考えても罠じゃないか!!」


 あっけらかんと話すツバメに対して、俺は即座にツッコミを入れてしまう。


 ”絶対に後悔させてやるからな。覚えておけよ”

同時に思い出すのは堀道が俺に耳打ちした言葉。

それこそ、堀道は三ヶ島さん経由で俺とツバメの関係を知っている。直近の出来事から考えてみれば、この誘いは裏があると言っているようなものだ。


しかし、肝心のツバメは、まるで熊と相対し、狩猟銃を構えるハンターみたいな冷静さである。


「まさか、クラスの人気者にお誘いを受けるなんてね。モテる女は辛いわ〜」


「この誘いを受けるのかよ? アイツに何をされるか分からないぞ」


「それはアタシだって分かっているわ。だけど、チャンスでもあるのよ。もし、堀道がアタシに暴行なり恐喝なりをしてきたら、写真や録音をして証拠にすればいい。ヤツを追い詰める追加の武器が手に入るわ」


 そして、ツバメはスマートフォンの画面を堀道と江波さんが写る二股写真に切り替え、人差し指で押し付ける。


「この証拠写真だけだと、最悪言い逃れされる可能性がある。悪い言い方になるけど、クラス内で発言力の低いアンタが撮りましたって言うのと、人気者の堀道が”パソコンで加工した偽物”って発言するのと、どちらが信用されるかしら?」


「そ、それは……」


 ツバメの言葉に反論が出来ずに口を閉ざしてしまう。悔しいけど、証拠写真としての効力は確実とは言い難い。


 それこそ、『ツバメが浮気の真実を確かめる為、堀道に近づいたら脅された』という内容で証拠が残せれば、ヤツを追い詰める強力な材料となる。交友関係が広いツバメなら発言力もあるし、効果は絶大だろう。


「決まりね。もちろん、アタシ1人で突っ込むような無茶はしないわ。サクも尾行しながらついてきなさい。だからね……」


 ツバメは「背中は任せたぞ」と言わんばかりに俺の肩を叩く。


「アタシがピンチになったら助けてよね」


 そう告げてニッコリと笑ってみせる。

一度決めたことは曲げないんだよな、ツバメは。こうなったら、割り切って付き合うしかない。


 俺はため息混じりに了承すると、ツバメは深く頷き、堀道へ了承のメッセージを送るのであった。

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