第8話 三ヶ島陽歩は稲瀬とツバメの関係に嫉妬する【三ヶ島陽歩視点】

「あ〜疲れたぁ」


 私は自室のベッドに飛び込むようにポスンっと座り込む。

スマートフォンを覗き込むと時刻は22時。つい数時間前まで自然公園にあるランニングコースで走り込みをしていたんだよね。

一日があっという間だったな……。


「今日は稲瀬くんとツバメさんと一緒に走れて楽しかった〜」


 それこそ、部活でも誰かと一緒に走っているけど、自主練を付き合ってくれる友だちは稲瀬くんが初めてだったから。それと、ツバメさんも凄かった〜。流石はバスケ部員って感じ。ゴールまで一緒に走れて嬉しかったな。


「ふふ……足がパンパンだ。稲瀬くんはもっと疲れてるかも」


 もしかしたら、稲瀬くんは筋肉痛で明日の早朝ランニングをお休みしちゃうかも。


「そうなったら、明日は私1人だけの朝練か……」


 その言葉を口にすると、胸のあたりがキュッと掴まれたみたいに小さな痛みが走る。


 今までだって一人きりで走っていた。いつも通りに戻るだけ。なのに、隣に稲瀬くんが居ない景色を想像すると胸が痛くなる。


 同時に脳裏によぎるのはツバメさんと稲瀬くんが仲良さそうにしている光景。


 稲瀬くんとツバメさん、幼馴染なんだよね。お互いに名前呼びだし、仲良さそうだったな。


「サクくん……」


 試しに稲瀬くんを名前を口に出してみると、身体中がブワッと熱くなる。


 あ、これ……思った以上に恥ずかしいかも!!


「きっと、あれだよね。二人が仲良くしてたから寂しくなっちゃったんだ」


 うん、きっとそう!! 

 そうに違いない!!


 頭の中で必死に言い訳をするけど、かえって体温が上昇するのを覚えてしまう。

 うう……これは勘違い、勘違い。


 そう言い聞かせるけど、一向に私の中にある熱が冷える気配は訪れない。

むしろ、どんどん状況が悪化しているような気さえする。


「きっと、堀道くんと話せば気のせいだって分かるよね」


 思いついたら即実行。私はさっそく堀道くんへ電話をする。

そして、数コール鳴ったのち、『もしもし? 陽歩?』っと、いつもと変わらない彼の声が耳へと届く。


「堀道くん、こんばんは。少しだけお話したいけど、いいかな?」


『何をいまさら。毎日、連絡をしているじゃないか。今日は友だちと走りに行ったんでしょ? 夜には陽歩が連絡をくれるんじゃないかって予想して待っていたくらいだ』


「あはは……私って分かりやすいみたい。今日、行った自然公園がとても良くてね……」


 そうして、私はいつもと変わらない心持ちで堀道くんと会話をする。

 公園の景色が綺麗だったとか、ツバメさんと仲良くなれたとか。


 そんな他愛のない話を堀道くんは適度に相槌を打ちながら聞いてくれる。

おかげで、私の中にある火照りが徐々に落ち着いていく。


 やっぱり、勘違いだよね。

 堀道くんと話して、落ち着いてきたし。


「今日はすっっごく楽しかった~」


『陽歩は本当に走るのが好きだな~。そういえば、夏休みもラストだけど、最終日まで部活はあるの?』


「うん、31日までみっちり部活があるよ。3年生の先輩も引退して2年生中心の新体制を慣らさないといけないし、秋の大会も近いから。ごめんね、いつも練習や部活動を優先しちゃって」


『構わないよ。陽歩に告った時、部活を最優先にするって条件だったし。付き合いだってお試しみたいなもんだから深く気にしなくていいよ。それに、俺も夏休みの最後まで友だちと遊ぶ予定いれちゃってるからな。付き合っている人を放置しているのはお互いさまだ』


「ふふ……そうだね。その代わり、秋の大会が終わったら沢山遊ぼうね」


『ああ、楽しみにしているよ。それじゃあ、そろそろ切るよ。陽歩、頑張れ、応援しているよ』


「……」


『陽歩?』


「あ、ごめんね。うん、頑張るよ!! お休み、堀道くん」


『お休み、陽歩』


 そのお別れの言葉をした後、ピコンっと通話の終了を知らせる電子音が鳴り響く。

そして、通話終了の文字が映る画面を見つめながら、私はポツリと呟いてしまう。


「どうしちゃったんだろ、私……」


 ”頑張れ、応援している”

さっき、堀道くんにかけられた言葉を耳にした時、胸の奥がギューッと掴まれたみたいに苦しかった。

どうしてなんだろう?


「やっぱり、今日の私、変みたい。早く寝た方がいいよね」


 そう思い、ベッドに身を預けようとした瞬間、スマートフォンから1件のメッセージが届く。誰からだろう?


 私はさっそくメッセージを開いて、内容を確認する。


『明日、たぶん筋肉痛になっているから、朝練はお休みします 稲瀬』


 それは稲瀬くんからのシンプルなメッセージ。

 なんてことのない質素な内容なのに、私の中で消えかけていた感情に再び熱が通る。


「そっか……稲瀬くん、明日は居ないんだ」


 その事実を言葉にして、今度はモヤモヤとした息苦しい寂しさが訪れる。

さっきまで堀道くんと数十分も話していたのに、心は落ち着いていた。

でも、稲瀬くんからの届いた一通のメッセージを見た時には心臓が忙しなくざわついてしまう。


「ううう~~、違う、違う~~」


 私は枕に顔を埋めながら何度も何度も否定の言葉を口にする。

だけど、私の感情は高揚感に包まれ、一向に静まる気配は訪れない。


「稲瀬くんは友だち、友だち……」


 そう言い聞かせれば、言い聞かせるほど、私の頬の熱はどんどん上昇していくのでした。




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