第五章③
テュランたちが混戦を繰り広げる中、”支部隊長”のヴァイオレットは、あっけなく〈
ところが、洞窟内をすべて見回ってみたが、お目当ての〈契約書〉はどこにもなかった。手掛かりを失い、途方に暮れた彼女は、生け捕りにした〈
「〈契約書〉はどこにあるの?」
声をかけると、満身創痍だった〈
「それを知ってどうするつもりだ?」
「告発するわ。〈
「小賢しい真似を……。パッツァオ様を脅かす者は絶対に許さない。死んでも在り処は話さないからな」
男の顔は、強い決意に充ちていた。パッツァオに対する忠誠が伺える。
「どうして〈
「口を慎め、愚か者。パッツァオ様は腰抜けじゃない」
「随分と好いているのね」
「当たり前だ。あの
男の熱弁に、ヴァイオレットは鼻で笑って言った。
「あんたたちも、人間
「好きに貶せばいい。俺は吐かないからな」
男は毅然とした態度を貫いた。ヴァイオレットはため息を吐いた。
「でも……その様子だと、この洞窟には無いみたいね。大事な〈契約書〉をたかが一人の〈
「勝手に考察してろ。俺は何も話さないからな」
「そうね。でも、あんたのその余裕な態度も長くはもたないわ。今頃、私の部下がもう一つのパッツァオ洞窟に侵入してる。〈契約書〉はそこにあるんでしょ?」
高飛車な態度で尋ねられると、男は勝ち誇ったように笑った。
「〈
「”
まだ仲間がいるんだな、とヴァイオレットは思った。
「やたらと仲間が多いのね。やっぱり、ザコほど群れるってのは本当なのかしら」
「群れてんのは
「いいえ。母数が違うから比較にならないわ」
ヴァイオレットは強気な口調でそう言った。ギロリとした目つきで男を見下し、剣を引き抜いた。
「あなたはもう用済みね。知りたいことは聞けたし。楽にしてあげる」
「は……? 俺はあんたに何も教えて——」
言い終わる前に、ヴァイオレットが男の首を切断した。血しぶきが飛んで、力尽きたように〈
死体を眺めながら、ヴァイオレットは厳しい顔で哀しげに眉を下げていた。青黒い液体の付着した剣を鞘に戻して、大きなため息を吐く。
どちらの洞窟にも〈契約書〉は無いんだな—―と、彼女は考えた。
それは、この男の発言からも明白であった。おそらく〈契約書〉は
そして、これが事実だったならば、イカロゼは嘘をついたか、もしくはイカロゼ自身がパッツァオに騙されていたことになる。どちらにせよ、状況は最悪だ。
——テュランが危ない。
事の重大さを理解したヴァイオレットは、即座に馬車に乗って、もう一つのパッツァオ洞窟へと向かうのであった。
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