第24.5話 政元は、おもてなしに失敗する
永禄5年(1562年)3月中旬 近江国小谷 浅井政元
ああ……勢いで言ったものの、本当にあのような可愛い女の子を我が家に泊めることになるとは。はぁ……どうしてよいものか、わからない。
「何を申されますか、若!ここは、漢を魅せるところでしょう!!」
「漢を……魅せる?」
「もちろん、やるんですよね?よ・ば・い」
はぁ……真面目に訊いた俺が馬鹿だったようだ。頭を悩ましているのは、この男所帯でどうもてなせばよいのかということなのに、この樋口三郎兵衛……一体何を考えているのだ?
「そうは申しても、若。その股にぶら下がっているご子息は正直者のようですな。いやあ……元気があってよろしいかと」
「な……何を馬鹿なことを言っておるのだ!第一、この顔であのような可愛らしい女の子が好いてくれると思うか?腹を切って、生まれ変われと……冷たく言われるのがオチだろうが!」
「そうですかねぇ。この世の中、男と女ってやつはとどのつまり、やったもん勝ちだと俺は思いますけどね。まあ……童貞の若様に言ってもご理解頂けないでしょうが……」
くっ!童貞なのは事実だから、樋口の言葉を否定することはできない。
「何を馬鹿なことを申しておるか、樋口は」
「げ……これは、殿」
だが、ここで彼の主にして俺の傅役である堀遠江守が姿を現したことで、この如何わしいやり取りは終焉を迎えて、真面目な話に移ることになる。
「それで、兄上は何と?」
「明日、城に来て直々に皆の前で説明せよと……。ただ、あまり良い気はされておりませんでしたが……」
「そうか」
まあ、それはそうかもしれないなと俺も思う。何しろ、寧々殿はまだ年端のいかぬ少女だし……しかも、その身分は、織田殿の妹付きの一介の侍女となれば、舐められていると思われても不思議ではないだろう。
だが、それでも俺は寧々殿が只者ではないと感じている。歌も見事だったが、その立ち居振る舞いは年端のいかぬ少女と侮るべきではないと。何故だかわからないが……
「そう、見た目は美少女、でも中身は老獪なおばちゃんのような……」
「おばちゃんとは失礼ですね!目が悪いのならば、お医者様に見てもらった方が良いと思いますよ?玄蕃頭様」
「え……?なぜ、寧々殿がここに」
「お花を積みに行く途中で通りがかったら、夜這いとかどうとか聞こえたので、身の危険を感じて隣の部屋で聞いていたのですよ。それにしても……おばちゃんって」
あれ?今の言葉は口に出していたのか。確認するように樋口を見ると、うんうんと呆れたように頷いている。はぁ……どうやら、間違いないようだ。
「……誠に、誠に申し訳ございません!どうか、お許しを!!」
「ふんだ!」
プンスカ怒っている姿も可愛らしいが……寧々殿は機嫌を損ねられて、俺の前から立ち去られてしまう。ああ、一体どうすればいいのか?
「そりゃあ、若。ここは漢を魅せるためにも、全力で土下座して謝るしかないでしょうな」
「左様。あと、謝罪の品も必要ですな。至急、城下から甘い物を買って参りますゆえ、どうかそれを差し出して、ご機嫌を取られますよう……」
樋口と遠江守が呆れるつつも、そのように進言してきたので俺は項垂れて受け入れる。はぁ……やらかしてしまった。これできっと嫌われたに違いない。
だから心配していたのだ。モテない俺に可愛い女の子のもてなしができるのかって……。
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