第162.5話 細川兵部は、その惨状に唖然とする

永禄11年(1568年)11月中旬 京・本能寺 細川藤孝


さて、そろそろかと思った。寧々殿が上様に呼ばれてからすでに1刻(2時間)。きっと、痛い目に遭われているから、お救いせねばと思って立ち上がった。


「これに懲りてくれたらいいのだが……」


なお、寧々殿が上様如きの手籠めに遭うとは思っていない。先の上様——義輝公に剣で勝った豪傑を寺で写経三昧の生活しか送っていなかった上様が、力づくでどうにかできるはずがないのだ。ただ……


「きゃはははは!チ〇チ〇だけにチンチン鳴るだなんて、面白いわね!ほら、チ〇チ〇♪」


「…………」


まさか、酔いつぶれた上様のアレに徳利を差し込んで、それを箸で叩いて遊ばれている寧々殿の姿があるとは、全く想像もつかなかったが。


「あっ!細川兵部じゃない。どう?あなたもお箸で叩いてみる?いい音が鳴るのよ、ほらチ〇チ〇♪きゃはははは!」


……ダメだ。手に負えない。そのため、俺は仕方なく前田慶次郎をこの場に呼んだ。


「こ、これは……」


「前田殿。一先ず、寧々殿を別室へ。俺は上様を……」


「承知しました。……寧々様?さあ、参りますぞ」


「ええー!!宴はまだまだこれからなのよ!慶次、邪魔しないでよ!!」


「もう十分ですよ。さあ、帰りましょう。半兵衛に叱られますよ?」


「は、半兵衛!?ま、まさか、あの鬼が……やってきたというの?」


「はい、先程到着なさって、寧々様にお仕置きをと……」


もちろん、竹中半兵衛はこの御所にはいない。ただ、効果はあったようで、寧々殿はこの後素直に部屋の外に連れ出されていった。そうなると、残るは上様の徳利をどうするかということだ。引き抜こうとしたのだが、どういうわけだか抜けなかった。余程強く無理やり押し込んだようだ。


「仕方ない。割るか」


俺は一旦部屋から出て、金槌を持って来るように小姓に命じた。そして、それを受け取るなり部屋に戻って、上様の股間にかぶさっている徳利を叩いた。


「なっ!?」


しかし、徳利は割れたのだが、口の部分は上様のアレに食い込んで、そのままになってしまった。さらに、今の衝撃で上様も目が覚める。


「兵部?これは一体……」


「寧々殿が徳利を無理やり上様のアレに突き刺したようでして……現在、その一部が抜けなくなっており……」


「なぬ!?」


俺の言葉に上様は慌てて、ご自分の下半身に目をやった。そこには、徳利の口の部分が変わらず残されていた。


「兵部……これでは、使い物にならぬぞ。何とかならぬのか?」


「とにかく、萎えさせましょう。さすれば、小さくなって抜けるのでは……」


だから、俺は上様に男同士が絡み合っている女性用の春画を見せた。どこの誰が描いたのかは存じないが、今朝偶々侍女たちが持っていたのを風紀が乱れるとして没収していたのだ。そして、これならば萎えると思っていたのだが……


「いたたたた!より大きくしてどうするんだ!?」


上様のアレは何故か大きくなって、俺は確信した。この人は、両刀使いなのだと。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。早くしないと、不能になってしまう可能性があるのだ。


「柳生!柳生はおらぬか!」


「これに……」


「すまぬが、上様のアレに食い込んでいる徳利の口を斬ってくれぬか?そなたならば、できるであろう?」


成し遂げれば、1万石を与えると言えば、この男は承諾して刀を抜く。そして、素早く一閃、それを振るうと……上様のアレに食い込んでいた徳利の口は、見事、真っ二つに割れた。


「ふっ……またつまらぬものを斬ってしまった」


ただ、その柳生の台詞を聞いて、本当につまらないものだけに、俺はつい吹き出してしまったのだった。

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