湊 凛香編 1章

第12話

 みなと 凛香りんかは、目覚めると同時に辺りを見回した。

白玉しらたま火伏ひぶせも姿がえず、ただの日常が戻ってきたように感じられた。

彼女は頭を振って、いつものように朝の準備を始めた。

キッチンに向かうと、何かが足元をすり抜ける感触があった。

驚いて下を見ると、白玉しらたまが丸くなって寝ていた。

「おはよう、白玉しらたま凛香りんか微笑ほほえんで声をかけた。

「んー、おはよう、凛香りんか」白玉が眠そうな目をこすりながら起き上がった。

「今日も一日、がんばるぞ〜」

朝食を終えると、凛香りんかは学校に行く準備を始めた。

いつもと同じ制服を着て、いつもと同じ道を歩く。

しかし、今日は少しだけ違う。

彼女の後ろを、白玉しらたまがぴったりとついてくるのだ。

「学校には来なくてもいいんじゃない?」凛香りんかは振り返りながら言った。

「いやいや、ミーはお前を守るためにいるのだよ。それに、学校って面白そうじゃないか!!」

白玉しらたまは興味津々に周りを見回している。

「まぁ、いいけど。でも、目立たないようにね」

「安心せい!!狐の姿はヒトにはえん。」

 学校に到着すると、凛香りんかは友人たちと挨拶を交わした。

白玉しらたまは少し離れて観察している。

授業が始まると、白玉しらたま凛香りんかの隣の床に座り、静かにしていた。

しかし、授業が進むにつれて、白玉しらたまはだんだん退屈そうに見えた。

昼休みになると、凛香りんかは友人たちと一緒に昼食を取ることにした。

白玉しらたまも興味津々で、お弁当の中身を覗き込んだ。

「これ、美味しそう!!」白玉しらたまはおにぎりを指差した。

「食べる?」凛香りんかが差し出すと、白玉しらたまは嬉しそうにうなずいた。

「ありがとう!!」白玉しらたまはおにぎりを頬張りながら、幸せそうに微笑ほほえんだ。

午後の授業が終わり、放課後になると、凛香りんか白玉しらたまと一緒に帰宅のについた。

途中で、ふと火伏ひぶせのことを思い出した。

「そういえば、火伏ひぶせはどこにいるの?」

凛香りんかが尋ねると、白玉しらたまは少し考え込んだ。

火伏ひぶせはまだ休んでいるんだ。彼はあまり人混みが好きじゃないから、しばらくは家で待っていると思う」

家に帰ると、火伏ひぶせがリビングでくつろいでいた。

火伏ひぶせ凛香りんかを見ると、軽く手を振った。

「おかえり、凛香りんか。今日の学校はどうじゃった?」火伏ひぶせが尋ねた。

「普通かな。でも、白玉しらたまが一緒だと少し違ったかも」凛香りんかは笑顔で答えた。

「それは良かった」火伏ひぶせ微笑ほほえんだ。

「これからも、ワシ等は凛香りんかの側にいる。共に楽しい日々を過ごそう」

「そういえば凛香りんか、親はどうしたの?ヒトって親が居るんでしょ?ミーたちが来てからまだ見てないけど...」

凛香りんかは、言葉を躊躇ためらった...

その姿を見た白玉しらたまは、気不味くなり言った。

「...無理して言わないでもいいか...」

凛香りんか白玉しらたまの言葉を遮り言った。

「あのね、居ないの...お父さんは交通事故で幼い頃に居なくなって、お母さんは...倒れたまま目を覚まさなくなっちゃった...死んじゃったの。」

「その...凛香りんか、ごめん...」

「いいの、今はあなた達が居るから、寂しくなんてない...思い出したの、何であの時神社に行ったのか...お母さんの病気を治してもらいたかったのよ...でも、駄目だった...」

白玉しらたま火伏ひぶせは、凛香りんかの告白を静かに聞いていた。

部屋の中に重い沈黙が漂ったが、やがて白玉が口を開いた。

凛香りんか、本当に辛かったね...でも、ミーたちがいるから、もう寂しくないぞ」

「ありがとう、白玉しらたま凛香りんか微笑ほほえみながらも、その瞳には一抹いちまつの寂しさが残っていた。

「ところで、凛香りんか火伏ひぶせが真剣な表情で話し始めた。

「お前には特別な力があることを知っているか?」

「特別な力?」凛香りんかは驚きながら尋ねた。

「そうだ。わし等の封印を解く程のチカラじゃ」

「でも、私は普通の高校生だよ。特別な力なんて感じたことない」

「それは凛香りんか、お前が自覚していないだけじゃ」

火伏ひぶせが続けた。

「それもそのはず、その力は、まだ開花したばかり。そして、それはただの始まりに過ぎない」

「始まり…?」私はその言葉に興味を引かれた。

「でも、私が持ってる力って、具体的には何なの?」

「それはまだ完全には明らかになっていない。だが、凛香りんかの力が成長すれば、霊的な存在と強く結びつき、さらなる力を引き出すことができる」

「具体的にはどうすればいいの?」

私は好奇心を抑えきれずに尋ねた。

「まずは自分の内面と向き合うことじゃ、瞑想や修行を通じて、自分の心と体の調和を保つことが大事であろう。そうすることで、内なる力を引き出すことができる...」

「わかった、やってみる」

凛香りんかは決意を新たにした。

「どうすればいいか教えて」

「まずは簡単な瞑想から始めよう...心を静かにし、呼吸を整え、自分の内面に意識を集中させるんじゃ。」

凛香りんかは言われた通りに座り、目を閉じた。深呼吸をしながら、自分の心を静かにしていった。

周囲の音が徐々に遠ざかり、自分の内側に意識が集中していく。

「いいよ、その調子!!」

白玉しらたまが静かにささやいた。

しばらくして、凛香りんかは瞑想を終えた。

彼女は何かが変わったような気がしたが、それが何なのかはまだはっきりとはわからなかった。

「これからも毎日、少しずつ修行を続けよう。お前の力を完全に引き出すには時間がかかるが、焦らずに進めば必ず成果が出る」

「うん、頑張るよ!!」凛香りんかは力強く応えた。

次の日から、凛香りんかは学校と修行を両立させながら、少しずつ自分の力を引き出すための訓練を続けた。

白玉しらたま火伏ひぶせの助けを借りて、彼女は次第にその力を自覚し始めた。

 ある日、凛香りんかは学校の帰り道で、突然強い霊的なエネルギーを感じた。

その方向に目を向けると、小さな子供が一人で泣いているのを見つけた。

凛香りんかはその子供に近づいて声をかけた。

「どうしたの?迷子になったの?」

凛香りんかが優しく尋ねると、子供は泣きながらうなずいた。

「お母さんとはぐれちゃったの…」

子供は涙を拭いながら言った。

「大丈夫、私が一緒に探してあげる」

凛香りんかは優しく微笑ほほえんで言った。

その瞬間、彼女の内なる力が自然と引き出され、周囲の霊的な存在が彼女に力を貸してくれるように感じた。

凛香りんかは子供の手を握り、周囲のエネルギーを感じながら歩き出した。

やがて、彼女は公園の端にいる子供の母親を見つけた。

母親は心配そうに周りを見渡していたが、子供の姿を見つけると、ほっとした表情で駆け寄ってきた。

「お母さん!!」子供は嬉しそうに叫び、母親の元に駆け寄った。

「ありがとう、本当にありがとう」

母親は涙を浮かべながら凛香りんかに感謝した。

「いいえ、大したことじゃありません」

凛香りんか微笑ほほえんで答えた。

 その日の夜、凛香《りんか

》は白玉しらたま火伏ひぶせにその出来事を話した。

白玉しらたまは興奮した様子で言った。

「それだ、凛香りんか!!それがお前の力だ!!周囲の霊的な存在と共鳴し、助けを求める人々を導くことができるんだ!!」

「そうか…」凛香りんかは驚きと感動で言葉を失った。

「私の力って、こんな風に使えるんだ」

「その通りだ」火伏ひぶせうなずいた。

「お前の力は、他人を助けるためのものじゃ。これからもその力を磨き、たくさんの人々を助けていくんじゃ」

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