塩谷 海人編 1章

第10話

 あの日から塩谷しおや 海人かいとは毎日とんでもない化け物をる生活になっていた。

そんな日が続いたある日、俺は久しぶりに追いかけられている...

「何なんだよ、しつこいな!!美味しくないぞ〜!!」

紫色の巨大なあやかしが今まさに俺をおうと追いかけてくる...

「どぅ゙ゔぁ゙ばじゃ゙がゔぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙」

言葉が理解わからないから説得しようにも話せない。

俺は白狐しろぎつねにこの前教えてもらった事をふと思い出した。

〔困ったら神社に逃げろ!!ミー達の様な神が助けてくれるであろう!!〕

「そうだ、神社に逃げれば...あれ?近くに神社無くね?」

今、俺が居る所は、町外れの田舎なのである。何故なぜそんな所に居るのか...それは、学校がそんな所に建っているからだ。

周りを見れば見渡す限り山か川、田圃たんぼや畑しかないのである。

そんな所を独り寂しく...妖いるから独りじゃないか...一人と1匹で走り回っている。

「回ってねぇよ!!追いかけられてんだよ!!」

そんなことを言っている間にも、どんどんとあやかしは近づいている。

「田舎ならその辺に神社が在るはず...」

と自分に言い聞かせながら、俺はさらに足を速めた。

背後からあやかしの不気味な音が迫ってくるのがわかる。

「このままじゃやられる…」

俺は必死に考えを巡らせるが、周囲にはただただ広がる田圃たんぼと畑しか見当たらない...

絶望的な状況の中、ふと遠くに一筋の光が見えた。

俺はその光に向かって全力で走り出した。

「あれは…神社か?」

近づいてみると、小さな稲荷のほこら田圃たんぼの端にひっそりとたたづんでいた。

ほこらの周りには古びた鳥居とりいと、少しだけ手入れされた石段が見える。

「ここに行けば!!」

俺はほこらの前に駆け込み、その前で必死に祈った。

「お稲荷様、助けてください!!」

すると、突然、ほこらの中から強い光が放たれ、黒い狐が現れた。

「何事だ...何だそう云う事か。はようほこらの中に入れ!!」

黒狐くろぎつねは状況を把握したのか、俺とすれ違い、すぐさま化け物に飛びかかった。

俺は黒狐くろぎつねの言葉に従い、安全なほこらの中へと逃げ込んだ。

しかし、あやかし咆哮ほうこうが耳に残り、心臓が激しく鼓動する。

「お稲荷様が勝ってくれるだろうか…」

不安がつのる中、ふと後ろを振り返ると、黒狐くろぎつねあやかしが激しく戦っている光景が見えた。

ほこらの中で息を整えながら、俺は外の様子を見守った。

黒狐くろぎつねあやかしの激しい戦いはまるで天地が揺れるかのようだった。

黒狐くろぎつねは素早く動き、あやかしの攻撃をたくみにかわしながら反撃を繰り返していた。

しかし、あやかしの力も並大抵ではなく、その一撃一撃が大地を震わせるほどの威力を持っていた。

「お稲荷様、どうか負けないで…」

俺は祈るようにつぶやいた。

その時、黒狐くろぎつねの目が鋭く光った。

突然、黒狐くろぎつねの身体から強烈な炎が放たれ、その炎があやかしを包み込んだ。

あやかしは苦しそうにうめき声を上げながら、次第にその姿を崩していった。

狐火きつねびが収まると、そこにはただの静寂せいじゃくが残っていた。

「お稲荷様!」

俺はほこらの外に飛び出し、黒狐くろぎつねの元へ駆け寄った。

黒狐くろぎつねは少し疲れた様子だったが、無事だった。

「何とか間に合ったようだな」

黒狐くろぎつね微笑ほほえんだ。

「本当にありがとうございます!お稲荷様がいなければ、僕はどうなっていたか…」

俺は涙を浮かべながら感謝の言葉を述べた。

「感謝はよい。だが、このようなあやかしが出るのは異常だ。何か大きな力が働いているのかもしれん...」

黒狐くろぎつねは真剣な表情で周囲を見渡した。

「大きな力...?」

「そうだ。お前が見えるあやかしたちはただの偶然ではない。この地に何かが起こっている。お前も気をつけることだ」

黒狐くろぎつねはそう言って、ほこらの中へと戻っていった。

「それなら、俺にあやかしと話せるようになる能力を授けて下さい!!俺、こんなんじゃ駄目だと考えたんです...一人でも解決出来るようになりたい...もう、守られる生活は嫌なんだ!!」

俺は涙ぐんで黒狐くろぎつねに抗議した。

「...お前じゃ危険すぎる!!やめておけ!!」

「...それでも、戦わなければならない...だからその為に、力が欲しいんだ!!」

「えぇい!!仕方のない奴だ!!」

そう言うと黒狐くろぎつねは俺に向かって光を放った。

「何だこれ...まぶしくて...それでも温かい...」

すると、そこら辺に居た小さなあやかしたちの声が聞こえてきた。

「おやおや、ヒトの子が光ってるぞ。」

「本当に大丈夫なのか?あの黒飛くろとび様のチカラを受け取るなんて。」

俺は驚きながらもその声に耳を傾けた。初めて妖たちの声がはっきりと聞こえるようになった。

「すごい...本当に聞こえるんだ。」

黒狐くろぎつねは光が収まると、真剣な眼差まなざしで俺を見つめた。

「これでお前はあやかしと話す力を得た。しかし、その力には責任がともなう。無闇にあやかしと戦うのではなく、まずは理解し、解決の糸口を見つけることを心掛けろ。お前の言葉であやかしとの関係が変わる場合もある…」

「分かりました。ありがとうございます、黒狐くろぎつね様。」

その後、俺は黒狐くろぎつねと別れ、辺りを見回した。

そこでは、周囲のあやかしたちの存在が以前よりもはっきりと感じられるようになっていた。

中には好奇心旺盛でコチラに近づいてくるなあやかしもいれば、警戒心が強く遠くから見ているあやかしもいた。

すると、小さな光のようなあやかしが俺の周りをくるくると舞い始め、その光が揺れるたびに柔らかな風が頬をかすめた。

彼らのささやき声が聞こえるような気がして、耳をますと確かに何かの言葉が風に乗っていた。

‘’ヒトは何も怖くない‘’と言わんばかりに、その光のあやかしは俺の手元にふわりと降り立ち、小さな温もりを感じさせた。

遠くから見ているあやかしたちも、少しずつその距離を縮めてきた。

好奇心と警戒心が入り混じる彼らの目に、俺もまた興味を抱かずにはいられなかった。

この未知なる存在たちとどのように交流を深めていけるのか、これからの人生に新たな楽しみをもたらしてくれる予感がした。

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