13 続きの歌詞は地方ごとに違うらしいよ

「どーれーにーしーようかな」


 目の前に並ぶのは、鳥の形をした可愛らし入れ物に入ったドリンク。

 それを一つ一つ指さしながら、古来より日本に伝わる格式高い呪文『どちらにしようかな』を唱える。


「あーるーしーえーらーさまの言う……」


 呪文を唱え終わろうとした、その時。

 このままでは、鮮血の様な赤に染まった禍々しいボトルを選んでしまうことに気づく。


「とーおーりーにしようと思ったけど、みーねーぶぁーさーまーの……」

「長いわ!」


 虹が詰まったようなパステルカラーのドリンクを選ぼうとしたが、その前に背後から、モフモフによる猫パンチが飛んできた。


「あははは! そんなに迷うなら、これを飲めば良い」


 この様子を見た店主は一本のボトルを掴むと、こちらに差し出した。


 夕方までシャナの家事を手伝い、夕食を終えた私と一匹は流星群を見るべく外に出た。

 その際、シアンも誘ったのだが「別に家でも見られるからいい。丘を登った方に普段人が集まらない広場があるから、コハクさん達はそっち二行けば?」と言われ、半強制的に家の外に出されてしまった。


 こちらとしても、開けた場所で星を眺めたいので、得に思うところは無いが。


「可愛いドリンクですね」


 受け取ったボトルには、まるで闇夜を閉じ込めたような漆黒の中に小さな光がきらめくゼリーと、黄金の蝶――の形をしたゼリーが詰まっていた。


「そうだろ。こいつは観光客に人気があるんだ。名付けて『蝶夜パピヨン・ヌース』なんつってな」


 アルシエラから拝借したお財布から金貨を取り出し、代金を支払うと、屋台の店主は「まいどありっ!」と言いながら片手を上げた。

 金貨を取り出す前に、こっそりアルシエラにこの世界での通貨単位を聞こうとしたが、何故か、なにも考えなくとも代金を支払うことができた。


 さぁて、これで飲み物も買ったことだし流星群を見に行こうか。


 ふと、空を見上げると、どこまでも高くそびえ立つフランドレアの町並みが目に映った。


 建物自体はゴシック調なのに、高さはこのデザインが主流だった時代の技術力では実現できないレベルだ。



――魔法で積み上げたのかなぁ……。



 何となく、そんなことを考えながら人混みを通り抜けてゆく。

 購入した飲み物を口に含むと、甘酸っぱい味が口に広がった。



*


 やっとの思いで丘の上へ登ると、そこにはもう既に先客が何人かいた。

 穴場スポットとはいえ、人がいない訳では無いらしい。


「思ったよりいるなぁ」


 ポケットからアルシエラが、顔を見せる。


「コハクは人が少ない方がいいのか?」

「別に居るのが嫌な訳じゃないけど、どうせなら人気が少ない方がいいかな」

「そうか。ならば街の中央に戻れ」

「今から?」


 思わず叫びそうになる。

 なにせ、ここまで、長い、長い、道のりを歩いてきたのだ。

 今更戻りたくは無い。


「隠遁魔法をかけて、空中を歩けばすぐに戻れる」

「空中って歩くものでしたっけ?」

「やろうと思えば出来るはずだ。呪文は今から教える」


 そんな。私は裁定神であるアルシエラと違いただの凡人だ。

 出来ることが前提で話さないで欲しい。


「仕方がないな。人目につかない場所へ移動してくれ。オレがなんとかする」


 人目につかない場所?

 そんなこと急に言われても。

 周囲を見渡したが、人気が無い場所といえば森の中ぐらいしかない。

 

 こうなれば、仕方あるまい。

 しぶしぶ草むらを分け森に入る。


 こういった場所は虫が多いので正直好きでは無い。


「さてと」


 ポケットから飛び出したアルシエラが目にもとまらぬ早さで人型に変化した。


「手をつないでいいか?」

「別に構わないですけ……」


 返答し終えるより前に、アルシエラは背後から右手を握ってきた。

 反射的の言葉が詰まる。

 急に右手を握られたからでは無い。

 アルシエラの手が、腕が、思っていたより痩せ細っていたからだ。


 普段。運動していないのだろうか。

 それにしても、ここまで細くなることがあるだろうか?


「よし。オレの後に続いて呪文を唱えろ」

「このまま空中散歩するつもり?」

「当然だろ」


 そのまま左手も握られる。

 待って。まだ心の準備ができていなんですけど!


 

 


 

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