12 難解な質問だよ。ワトソン君

 聖槍ユースティティア

 行方不明の幼なじみ。

 奇妙な噂。

 フランチェスコ。

 シアンの両親。


 考えれば、考えるほど、謎は深まるばかりだ。


 『事実は小説よりも奇なり』という言葉を耳にしたことがあるが、まさに、このような時に使うべき文句だろう。


「シアン君の話を聞いて、いくつか疑問に思ったことがあるの」


 空っぽになった皿を重ねるシアンが、首を傾げる。


「どんな疑問」


「まず、一つ目はベアトリーチェちゃんがフランチェスコを殺害できたこと」


「どういうこと?」


「当時、ベアトリーチェちゃんの年齢はシアン君と同じぐらい――つまり幼かった筈だよね。そんな小さな女の子が成人男性を殺害できるのかな?」


 パレットナイフは非常に小型だが、先が鋭利ならば人を殺すには十分だ。しかし、使用者は小柄な女の子。

 不意を突くなど、何かしら策を練らなければ殺害など出来ない。


「確かに。フランチェスコは大柄な男だった。毎朝、筋トレを欠かさなかったし」

「あまり体力は必要なさそうなお仕事なのに、筋トレをしていたの?」

「うん。重りを両端に付けた棒をゆっくり持ち上げたりしていたよ」


 結構、本格的な筋トレであった。


 先ほどから大人しくこちらの会話を聞いていたアルシエラが口を開く。


「だとすれば正攻法での殺害は無理だろうな」


 殺害方法に正攻法などない気がするが、今は気にしないでおこう。


「もしコハクさんがベアトリーチェの立場だったらどうする?」

「私なら……まず、酒を飲ませて眠らせて、その隙を突くかな」

「即答だね。まるで一人殺した事が……」

「あるわけ無いでしょ!」


 慌てて否定したが、シアンはからかうようにニヤけていた。


「そして二つ目は『呪いの絵画』の噂との矛盾。シアン君は当時ベアトリーチェちゃんが同じぐらいの歳だって言っていたよね?」


「そうだよ」


「そして、例の絵画は当時のベアトリーチェちゃんを描いているの?」


 シアンは頷く。

 そして、何かに気づいたかのように、息を飲んだ。


「そうか。どうして今まで、こんなに単純な矛盾点に気づかなかったんだろう」



*



「まぁー、美味しそう!」


 仕事から帰ってきたシャナに、魔法で保温した鍋の中身を見せると、キッチン中に歓声が響き渡った。


「あらあら、これはワタシが果実酒につけ込んでおいた肉じゃない。もしかしてビーフシチュー?」


「はい。私が住んでいた世界……じゃなくて、故郷風にアレンジしたビーフシチューです」


「へぇー、なら早速頂いちゃおっかな」


 満足頂けたようで良かった。

 実を言うと、私が作った料理が二人の口に合うかどうか少し心配だったのだ。なにせ、この世界にある食材の殆どは、見たことが無いものばかりだから。


「そうだ。コハクちゃんは、今夜には観光船に乗ってフランドレアを立つの?」


 首を横に振る。


「いいえ。まだフランドレア自体には滞在する予定ですよ」

「なら、どうして今日中にはこの家を出るなんて言ったの?」

「そりゃあ、いつまで居候するわけにはいきませんから」


 シャナは満面の笑みを浮かべると、そのまま私の方をポンポンと叩いた。


「あらぁ、そんな事気にしなくて良いのよ。次の都市へ向かうまで好きなだけここに居なさいな」


 うぅ。ここは、やはり遠慮して断るべきだろうか?

 でも折角のご厚意だし――。


「ワタシとしても、娘が増えたみたいで嬉しいのよ――だから、ね?」

「なら、お言葉に甘えて……」

「えぇ、そうしなさいな」


 シャナの気遣いは嬉しい……嬉しいが、ここまで親切だとかえって怪しい。まさか、シャナの正体は御伽噺に出てくる人食い鬼だったりして……。


「遠慮しないで。私としても、もう少し貴方の料理が食べたいし……そういえば今日は流星群が見えるのよ。折角だし、フランドレアの思い出作りとして見に行ってみれば?」


 流星群か。

 今思い返すと、私が住んでいた場所は、街灯や建物が放つ光のせいで、星自体あまり見えない場所だったなぁ。


「アル……モフたん。流星群だって」

「コハクは見に行きたいのか?」

「行きたいよ」

「そうか。なら行けばいい」


 

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