3 『家に帰るまでが遠足』なら『準備をし始めてからが旅路』でしょう
千里の道を歩くなら、まずは一歩目から。
旅をするなら、まずは準備から。
アルシエラから提供された謎のスープを食し、彼に「まずは旅に必要な物を準備させて」と伝えると、アルシエラは城の最上階にある部屋まで、私を連行した。
その部屋には、古今東西様々な衣服が並んでいる。
白色のフリルがふんだんに使われたワンピースから、サリーらしき服まで、衣服の種類は多種多様だ。
ハンガーに掛けられた衣服が並ぶ様は、セレブ女優が使うウォーキングクローゼットの様だ。
そして、部屋の端には魔法の杖らしき物も並んでいた。
「好きな物を持って行くと良い……ただし、限度は考えろよ?」
振り返るとアルシエラが部屋の入り口で、腕を組みながら立っていた。
「あの、アルシエラ様」
「何だ?」
「ここにある服、レディースしかないけど……もしかして女装趣味……」
「ちげぇよ」
*
一時間ほど部屋の中に並ぶ服を試着して回った私は、結局、胸元に巨大な空色のリボンがついたワンピースを選んだ。
少し肌面積が広すぎる気がするが――旅の恥はかき捨て。この際、恥など捨てて、好きな服を着てしまおう。
そして、杖は衣装に合わせて金と空色の物を選んだ。
杖といっても、木の枝などのポケットに入りそうな小型タイプでは無く、錫杖ぐらいのサイズがある大型タイプである。
金色の細長い体の上には、細かい花柄の模様が彫られている。そして、先端には、空色の宝石が付いている。
球形の宝石は不思議なことに桃色や、黄金色の光りを放っており、その周りには、半透明の輪っかが幾重にも重なっていた。
その姿は、惑星の模型に似ていた。
試着した服を眺めながら、ふと、先ほどアルシエラと交わした会話を思い出す。
アルシエラは、私の名前だけではなく『異世界』という言葉には似合わない『クーリングオフ制度』について知っていた。
――神話の中には全知全能と言われる存在もいるけど……それでもねぇ。
選んだ杖を手に取り、部屋の外に出る。
すると、アルシエラが退屈そうに、廊下の窓から景色を眺めていた。
「お待たせしました」
こちらを一瞥したアルシエラの表情が、少し面食らった様に変化する。
そして、こちらの腕を引っ張り、そのまま部屋の中へ連行された。
「えー、えっと、どうしたんですか?」
「いいから、これ着ろ」
そう言ってアルシエラが持って来たのは、星座模様の刺繍が施されたケープ。彼はそのケープを広げると、そのまま、こちらの肩にかけた。
「どうしてですか?」
アルシエラが拗ねたように口を尖らせる。
「ほら……そのままだと日焼けしそうだろ」
相変わらず淡々とした口調で語るアルシエラであったが、彼の本音が「気にしている部分は日焼けでは無い』ことは何となく分かった。
勝手に人間を治療して、対価を求めてくる神様でも、紳士的な一面はあるらしい。
なので、仕方なく、ケープのリボンを丁寧に結ぶ。
「これでいいですか?」
「あぁ、さっきよりは良い」
「あの……私もアルシエラ聞きたいことがあるのですが」
「どうした?」
そう。この部屋で着替えている間。
私には気になって仕方が無いことが一つあった。
「どうして、ここにある服は全て私のサイズにピッタリなの?」
普通、服屋には様々なサイズの商品――あるいは、フリーサイズが置いてあるだろう。
しかし、この部屋にある服は全てジャストフィット……まさか……。
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