第20話 銀魔と赤剣


もう訳が分からない。

銀鱗のドラゴンが主導権を握り始めてから、

蚊帳の外だ。

注目も、実力も。

我が家の中の村人の存在を、

銀鱗のドラゴンは知っている様子だった。

かといって私には、

奴をどうにかすることも出来ない。

目の前の赤鱗のドラゴンでさえ、

盾がなければ正面から太刀打ち出来ない。

火球を避けながら、機会を伺うのみだ。



『寒冬の城塞!』


銀鱗の火炎をすんでのところで防ぐ。

杖無しで正面からこいつと戦うには、

出力が足りない。


『極地に城を構える冷酷な女王よ!』

「その手は食わん!」


ドラゴンは獄炎を出し、温度を相殺してきた。

やはり対策される。

このドラゴンと拮抗、

あるいは上回っている部分は

やはり魔力しかない。

それを分かってか、

ドラゴンは先程から

低燃費の火炎攻撃を吐き出し続ける。

ドラゴン本来の技のアレンジに対し、

こちらは傷を負わないよう固く守る。

こんなやり方では、瀕するのは目に見えている。

方法を模索しなければ。

ひとまず銀鱗は人のいる家屋に背を向け、

こちらを向いている。

シルファンは回避に専念して善戦している。

こちらを向いてはいない。


『閃き!』


『蛍烏賊』の数十倍強力な光魔法。


「ぐっ」

『脱兎!』


目をくらまし、銀鱗の懐に潜り込む。

だが銀鱗は防御する素振りも見せず、

真後ろを振り向き喉を燻らせた。

そんな無体な。


『疾く守れ!』


加速と体の防御。


『氷!』


そして冷却を行い、

銀鱗の口の前に立ちはだかる。


「ッッッ!」


全てが中途半端だったため、

熱が体に浸透してくる。

それでも、

人が耐えられる温度まで凌げてはいるが。

炎が止み、防御を解除する。

どうやら家屋から炎を反らせたようだ。

両腕に軽度の火傷を負ってしまったが。


「あまり卑怯なことはするんじゃないぞ?

手元が狂ってしまう」

「どっちが…!」


銀鱗は舌をチラつかせ、大きく口を開けた。


『ベテルギウス』


銀鱗が初めて詠唱した。

初めて聞いた文言だが、

喉を燻らせているあたり炎が出てくるのだろう。


『極地の山嶺!』


炎が来るまでに放てる最広最冷の防御魔法。


「ハァ!!」


来る。

獄炎のさらに向こうの、宙の熱。

壁に当たった瞬間に炎は立ち上り、

地面が溶け始めた。


『寒冬の城塞!寒冬の城塞!』


上部と下部を塞いで、ようやく炎の進軍を防ぐ。

だが炎は防げたが、

炎から伝播する熱が


空気を熱するのは一手遅れる。


「ゲッッ」


喉が焼かれる。


『寒冬の…王国…!』


雑に周囲を冷やす。

家の中の人間やシルファンに、

熱が来ていなければ幸いだ。

銀鱗が炎を収めたので、

こちらも壁の維持を止める。

喉に激痛が走る。

呼吸が痛い。

詠唱に支障が出るだろう。

それが狙いか?。



もう何度転がっただろう。

甲冑のまま転がって、火球を回避する。

それを繰り返す事に、甲冑が重たく感じる。

対照的に、赤鱗は溌剌と火球を撃ち続けている。

火球ならまだいい。

喉の温度が最大まで達した後に訪れる、

翼や牙の対処は、盾がない現状防ぎようがない。

その時の体力では、避けようもないだろう。

アデーラとやらに任せたいが、

先程からの熱気と嗚咽で、

見ずとも銀鱗に苦戦していることがわかる。

左腕は治してもらったが、未だ力が入らない。

両手持ちでなければ、

先程のような一撃は叩き込めないだろう。


「hyyyyyyy」


何度か火球を避けた後、赤鱗は囀り始めた。

その時が来たようだ。

赤鱗は突撃してくる。

剣を斜めに持ち、

左肩で支えながら剣脊を盾がわりににし、

いなす。


「ぶっ」


だがやはり、雄牛を華麗に躱すようにはいかず、

勢いを正面から受け取ってしまう。

吹っ飛ばされた、転がる。

何度も。

何度も。

その拍子に、右手の篭手が取れた。

経年劣化か、あるいは金属疲労か。

男爵に謝らねばならない。

せっかく譲り受けた物を壊してしまい、

申し訳ないと。

だがその前に。

派遣された村を守れずに死んで、申し訳ないと。

そしてユウキに。

ここから逃げて、

無事両親の元へ帰ることを祈る。

最後に赤鱗は、私を見下ろし大口を開ける。



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