第19話 赤銀と剣魔


「勇気くん!」

「めぐみちゃん!?」


私たちは無事物語の世界に辿り着けた。

誰かの受け売りだとかで、

アデーラが森の木々を

風で揺らして見えた家に入り、

その中にあった歪みを通ってここに辿り着いた。

ここにいる人達を驚かせてしまっただろう。

アデーラは何かを察知し

家から出ていってしまった。


「勇気くん、今どんな状況?」

「あのね、

シルファンがドラゴンとたたかってるの」

「うん、やっぱりそうなんだね」


原本と内容は相違ない。

だがアデーラが来たからには、

相打ちは免れられるだろう。



最短の防御魔法で、ドラゴンの火球を防ぐ。

熱線や放射炎ではないので、即座に解除する。


「た、助かった。あんたは…?」

「アデーラ、しがない魔法使いさ」


これが騎士シルファン。

左腕をだらりと下げ、白い物体が突き出ている。

『潔白の証明』くらいはかけてやりたいが、

今はドラゴンだ。


「grrrrrrr」


赤燐の翼竜。

魔法が使えないため



腕を飛ぶことに特化させた翼竜。

赤燐はその中でも凡庸な種であり、

先日の銀鱗のドラゴンとは

比べ物にならないほど低級。

だが侮っていい相手ではない。


『城塞』


前方を固め、火球その他の攻撃を未然に防ぐ。

ドラゴンが城塞に対し牙や爪を立てている時、

何かが煌めいた。

ドラゴンの首、

逆鱗の辺りに何かが刺さっている。

シルファンを見ると、

右手に折れた剣を握っていた。

つまりは、そういうことだろう。


『手探り』


刃の詳細な位置を感じ取り、固定する。

そして手を振る。


「g」

『自転』


刃が回転し、ドラゴンの首を断つ。

よく切れる剣だ。

それが折れるのは、ドラゴンの挟み込む筋力か、

はたまたシルファンの腕力か。

辺りにドラゴンの血が飛び散る。

もう生きてはいまい。

振り向き、シルファンを診る。

やはり骨折しており、骨が飛び出している。


「あんたすごいな…」

「どうも、それより動かない方がいい」


シルファンの患部に手をかざす。


『潔白の証明』


そして。


『手探「おやおや可哀想に」


背後から、聞いたことのある声。

声帯と魔法を駆使した、人ならざる人語。


『生者の邁進』


それが言った高等の回復魔法。

怪我の深度に比例して寿命を削るが、

即座に完治させられる。

その魔法が行使される際の仄かな光が、

赤鱗のドラゴンを包み込んでいる。


『手探り!』

「うっ!?」


振り向かず、

即座にシルファンの骨を元の位置に戻す。


『安息の家!益荒男の二日!』


中級の漸次回復魔法と

低級の即時回復魔法を重ねてかける。


「まだ動かすんじゃないよ」

「…ああ…」


承諾か、

あるいは目の前の光景に

絶望しているのだろうか。

こちらはもはや振り向かずとも、

その状況がわかる。

だがやはり、振り向かずにはいられない。

銀鱗が煌めく。

私の世界にいた、

私を殺しにかかってきたドラゴン。

一体いつから、どうしてここに。

歪みの世界の奴の差し金か?。

そして先程首を断った赤鱗のドラゴンの、

健在な様子。

状況は、およそマイナスまで降下しただろう。


「gggggggg」


「おいおいそう唸るな愚物、

敵と味方の区別もつかぬか?」

「grow!」

「原始的な奴め」


銀鱗のドラゴンは同胞をこちらに蹴り飛ばす。

城塞に当たり、赤鱗のドラゴンは唸る。


「ここは一つ、一対一ずつでいこうじゃあないか、

勝った方がもう一組の戦いに

参戦できるという決まりで」

「その提案を飲む義理があるか?」

「やれやれ、貴様のか弱い同胞を

直ぐに焼き殺さなかった礼がそれか?」


純粋悪。

おもむろにそう思った。


「畜生め…」

「理解してくれたようで助かるよ」


未だこの銀鱗は、

何か遊びに興じるような雰囲気で臨んでいる。

人質の力だろう。


『手探り』


落ちている刃を、魔で掴む。


『妖精の仕業』


物体移動の低級魔法。

刃をシルファンの元にやる。


『槌と炉』


熱と物体移動の複合による金属具の修復。

復元とまではいかないが、

刃と柄の接合はできた。


「ふむ、まあそれくらいは許してやろう」


銀鱗は赤鱗と距離を置く。

渋々それに従う。

一対一と一対一。

奇しくも、同じ世界の者同士がまた相対す。



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