第22話 勝鬨
「ふぅ…」
やった…のか?。
あの赤鱗のドラゴンを?。
それよりも強そうな、銀鱗のドラゴンを?。
目の前の首は、両方動かない。
また新たなドラゴンが現れて、
復活させたりはしない。
勝ったようだ。
本当に勝ったのか?。
ドラゴンを見る。
動かない。
どうやら本当に勝ったらしい。
腹から歓喜が湧き上がる。
それが声に出る前に。
「「うおおおおおおお!!!」」
歓喜の声が聞こえてくる。
我が家から人が溢れ出し、
喜びを分かちあっていた。
その群れから、
小さな影がこちらに向かってくる。
その影は、脚をひしと抱きしめた。
ユウキだ。
「怪我は無かったか?」
頭を撫でる。
「うん」
大きな影が寄ってくる。
アデーラ殿だ。
いつの間にかローブを着ている。
アデーラ殿はユウキに向かって、
自分もと言わんばかりに指を自分に指している。
「んっ」
ユウキはアデーラに抱きつく。
「よしよし〜」
「アデーラもありがとっ!」
「お易い御用〜あ」
突然アデーラ殿が着ていたローブが、
ユウキ達の物にすげ変わった。
杖も消えた。
「一時的なものだったか…」
落胆するアデーラ殿の後ろから、
また一つ大きな影。
「んっ!」
「あらあらどうしたの?」
こちらは知らない人物だ。
どうやら両方ユウキの知り合いのようだ。
なんだ。
それなら安…心…
「シルファン!?」
騎士が突然地面に倒れ込む。
そこから襤褸同然の甲冑から連想される事柄は、
数少ない。
ユウキは泣きそうな顔で騎士に近づく。
私も駆け寄り、胸と口に手を当てる。
「…生きてる、気絶しただけ見たいだ」
「ほっ…」
「よかったぁ」
ただ怪我は無視出来ない。
『安息の家』
中級の漸次回復魔法をかけたところで、
思い出す。
気絶していない。
その予兆もない。
本当に、
ユウキの鼓舞で魔力が湧いたのだろうか。
ユウキを無性に褒めたくなる。
その欲を、許可なく頭を撫でて解消する。
「んへへ」
撫でていた手を、メグミに向ける。
『安息の家』
凍傷の手に施す。
「あ、どうも…」
「あの時はありがとう」
「いえいえ…」
正直な話『極地の山嶺』が
破壊されるまでには
攻撃は完了する手筈だったが、
メグミの行動で賭けから確実な
勝利になったのは事実だ。
すぐ近くからは、
村民たちが健気に勝利を分かちあっている。
踊りで地面が震える程だ。
怪我人もいるのだから
正直抑えて欲しいところだが。
ドラゴンの死骸を見る。
まだ首は血を出している。
この銀鱗は一体どこからやってきたのだろうか。
奴の差し金だと最初は思ったが、
本人が自らやってきた線も捨てきれない。
そもそもあの歪みの空間が、
どれだけど広さを有しているのか
見当もついていない。
多少調べる必要がありそうだ。
『ズッ』
揺れる。
流石に看過できない。
「ちょいと、怪我人もいるんだから大人しく…」
村人たちは狼狽しながら、たじろいでいる。
「いえ、我々では…」
じゃあ誰が?。
『ズッッ』
また揺れる。
『ズンッッ』
またまた揺れる。
一定間隔で揺れている。
村人を見る。
先程から体勢が変わっていない。
ドラゴンの骸を見る。
動いていない。
血も枯れ始めている。
『ズンッッッ』
徐々に近づいてきている。
自然由来ではない、人工的な揺れ。
以前どこかで味わったような、
そんな気がしてならない。
『虫の皇』
高所から原因を探る。
までもないような、
大きな塊が地平線を埋めつくしている。
「なんだ…?」
塊に目を合わせてから、
揺れの原因が塊であるようにしか思えなくなる。
塊は徐々にこちらに近づいてくる。
『地平線上の蟻』
目の筋肉を操作し、
遠くの物を見えるようにする。
前のめりになり目を細めながら、微調整する。
人だ。
黒い塊は、人の群れだ。
何処で感じたというのは、
この群れが行軍しているからなのだろう。
突然現れたかのような、不自然な行軍。
未然に気づける状況はいくらでもあったはず。
着地し、メグミを見る。
既に原本を開いていた。
「歓喜も束の間、村に隣国の軍隊が侵攻する」
「その数五十万…」
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