第17話 仄かな光一二三四五
『コンコンコン』
…。
『ドンドンドンドン!』
「一体何だ!?」
家から男が出てくる。
「騎士様!?」
分かりやすいように甲冑をつけてきた。
「いや実はね、
知り合いの貴族から蜂蜜が送られてきたから、
私の家で皆で食しているところなんだ」
「はぁ」
「よければ一緒にどうだい?」
「いや…でももう夜も遅いですし…」
「そうか…折角村長のお墨を貰ったんだが、
残念だ」
「はぁ…分かりました、行きます」
「ああ」
この調子でもう数件は回った。
ユウキが立案した作戦だが、
存外上手くいっている。
ちなみに蜂蜜は実際にある。
勘違いした貴族の令嬢が送ってきたものだ。
食すか悩んでいたので正直大助かりだ。
『コンコンコン』
「どなたです?」
女が出てきた。
「知り合いの貴族から蜂蜜が送られてきたんだが」
「はちみつあるの!?」
女の脇から少女が顔を出した。
「ああ、家にあるよ」
「行こ!お母さん!お父さんも起きて!」
「えぇぇ」
これで全ての家に尋ねられただろうか。
家に戻り確認しよう。
家の前に着くと、話し声が扉から漏れていた。
もう既に始まっているようだ。
扉を開けると、すぐ側に村長が座っていた。
「おお騎士様、もう全員集まったようですじゃ」
「そうか」
見れば、
蜂蜜を酒に入れたりパンに塗っている者もいる。
別にそれらを咎める気はない。
ユウキもここにいる。
子供と戯れているようだ。
「すまん、ちょっと避けてくれないか」
鎧で迷惑をかけながら、家を通る。
そして立てかけてある剣と盾を持つ。
「どこかへ向かわれるのですか?」
「ええ、夜の警護に」
半分は本当だ。
「そうですか、お気をつけて」
それ以上追求しないことに、
村長の気遣いを感じる。
家を出ようと扉に手をかけたところで、
誰かに鎧を掴まれる。
ユウキだ。
鎧を着ているので、
しゃがんで目を合わせられない。
だが精一杯を。
「安心してくれ、絶対に死なない」
頭を撫でる。
「約束だよ」
「ああ」
家を出る。
今夜は満月だ。
雲ひとつない。
足元がよく見える。
適当な広場で立ち止まる。
抜剣し、刃を地面に突き立てる。
集中し、待つ。
傍から見れば、
銅像の振りをしている人間だろう。
明日たとえどんなうつけとなっても、
最善を尽くせるならそれでいい。
耳をすませ、月を中心に辺りを見回す。
ドラゴンといえば、空を飛び火を吐く怪物。
空を主に警戒しなければ。
そう考えていた時だった。
月の輪郭に、赤い光が現れる。
火の粉のように一瞬だけ仄かに光り、
直ぐに消えてしまった。
と思いきや、また光る。
今度の光はやや実体を伴って、
徐々に大きくなっている。
それが炎だと気づいたのは、
地面に着弾してからのことだった。
閃光。
爆音。
これは確かに、寝ている人間も飛び起きる。
空から来た炎は地面に当たり、
砂地を焦がしている。
家に当たれば炎上は避けられないだろう。
盾を構え空を見る。
一つ二つと仄かに赤が光る。
輪郭辺りで光ったので、
そう遠くには散らばらないだろう。
近くの家に駆け寄り、盾を掲げる。
実体を伴った光を視界の中心に据え、身構える。
極限まで集中し、炎を見つめる。
来る。
眼前に迫った炎を、
前のめりに受け止め横に弾く。
盾に触れて火球は爆裂するも、
勢いを逸らしたことで体に響いてはいない。
剣を受け流す要領と似ている。
二つ目は炎に飛び込むように受け、
家に着弾させなかったものの衝撃がもろに来る。
私の家から、
何だ何だと騒ぎながら
人が出ていく音が聞こえる。
その中で、また仄かな炎。
一、二、三四五。
「戻れ!!」
叫びに応じて、
村長らしき声が村人を私の家に戻す。
炎が家に当たるか当たらないかを、
見極める必要がある。
最初の炎の時点で、
三発目は初見と同じ場所で光った。
同じ場所に落ちてくれるだろう。
注視するのは、一、二、四、五発目。
一発目、盾で弾く。
二発目、飛び込んで弾く。
三発目、予想通り地面に着弾。
その隙に体勢を立て直し、
家の屋根に着弾しそうな四発目を、
剣の柄を足場にして屋根に登り弾く。
五発目、偶然か意図か、私の家に向かっている。
不味い。
最大限の力を振り絞り跳躍したいが、
それだと絶対に届かない。
盾を持ち替え、振りかぶる。
そして投げる。
見事空中の火球に盾が当たり、
炎の残骸も砂地に落ちる。
そして地面が大きく揺れる。
先程気になっていたことだが、
初弾から徐々に仄かな光が現れてから
火球が来るまでの時間が短くなって来ていた。
その疑問が今、解消された。
近づいてきていたドラゴンが、今地に足つけた。
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