第4話 動甲冑との戦い
すかさずジャッコウドへ〈紫電の
「じゃあな、サンドー・ワダチ=エンジャク。我が心のライバルよ。ラピュタに一番乗りするのはこの俺だ!」
ジャッコウドは鉄の指のすきまから白い歯がきらめく無邪気な笑顔を見せ――消えた。今ごろは
だが、轍はそうは行かない。
「
「でも――」
「でもじゃない。さっきの勇気はどこへ行った。いいか、3秒数える。僕と自分の運命を信じろ」
動甲冑が本格的に駆動しはじめた。機械仕掛けの轟音がうなりをあげる。乾燥重量は3トン前後か。巨大な時計塔の
「――3!」
扉を蹴り開ける。3頭のハイエナどもがよだれを垂らして、“待て”をしていた。お行儀の良い畜生だ。流れるように〈叫喚の
「――2!」
“音の壁”にもろに当たったハイエナが口から泡を、耳から血を出してぶっ倒れる。だが2頭も逃した。2頭も! よろめき、身をよじりながらも、いまいましく距離を取る。さらにその後ろにウルフドッグがわく。口から血まみれの泡を吹いていない。狂犬病キャリアではない。
「……1」
ふるえる男の子の肩をつかみ、ありもしない自信がつたわるよう強く握る。頼む、信じろ。
轍は〈火線の
「0!」
背中をたたくと、10歳の男の子は白煙のラインの間を駆け出した。自分が10歳のころは腰抜けのクソガキだったのに、この子は本当に勇者だ。そう、轍は思った。
轍は中庭を〈転移〉で飛び越え、ゴールに先回りする。しかし他人を〈転移〉させることはできない。「こっちだ! 来い!」煙幕を抜けてこちらへ駆け寄る男の子へ叫びつつ、
ふりむくと、2メートル後ろで小さな勇者が転んでいた。シューズの紐がほどけていた。その両わきは運良く枯れた薔薇の
全高3メートルの動甲冑が中庭の中央に立っていた。
腕の長い類人猿型。
10年前の〈ひと夏の大戦〉で、
一体どこからの横流しだ? どうせ例の失敗国家、
動甲冑は明るい日の下で見ると、ずんぐりむっくりとした輪郭に、
ハイエナどもはマンモスサイズの鉄のパンダを仲間だと思うようには調教されていないらしく動甲冑の進路をふさぐように立ち塞がり――払いのけられた。大きいものは動きがゆっくり見えるので、まるで「ちょっとどいてね」と優しく脇に寄せただけに錯覚したが、湿った破裂音とともに中庭を囲む東の倉庫の壁に何かが叩きつけられ、血と肉のピザになった。5頭分の、生焼けの、血がしたたるほど新鮮な。
その勢いのまま、動甲冑が突っ込んでくる。
轍は
「こちら山道! クトゥルフ教団の動甲冑と交戦中! 至急応援を求む!」
『すまん、あと40秒だけ耐えろ』
「それは永遠です――交信終了」
壁の穴から動甲冑が這い出してきた。丸みを帯びた白黒の装甲が泥水にぬれている。こうしてみるとシャチにも似ている。轍は中庭を横切り、
雨だ。
山脈と地中湾に囲まれた
案の定、〈火線〉は雨粒に乱反射し、プリズムの虹をばらまき、動甲冑の頭に
動甲冑が振り向く。赤い
轍は中庭の反対側に〈転移〉する。後ろ姿の動甲冑が一瞬前まで彼がいた場所に鉄拳をふりおろし、逆さまの土砂の滝を噴き上げ――ギロチンと
轍は一瞬、あのカフェの前へ〈転移〉して、アメシストの叩き売りから宝石を接収したのち舞い戻り、感電死覚悟で〈紫電〉を零距離でぶっ放すか検討し――却下した。無駄で、無意味で、時間がない。
いや、待て。そろそろ40秒くらいは経ったのではないか……? そうだろう? いまにも先輩の騎行師たちが(騎行師
それに、いくらなんでもあの動甲冑だって、それほどひどいことはしないだろう。王朝末期の恐王の
「…………」轍は思う。陽光にきらめく横殴りの豪雨のなか、醜い左の半面が無益な液体を垂らす。屋根の上からみおろせば、霊園を兼ねる白い花壇の
轍は術具を起こした。
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訳註
*
*
*獅子工廠㈱……
*
*マンモス……北極大陸の
*境界警備隊……国境警備隊のこと。
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