第3話 冒険者ジャッコウド
ぼうけんしゃ【冒険者】
①危険を冒す人
②山師、ごろつき、墓荒らし等
――『〈内つ国〉現代用語辞典』より引用
〈転移の
転移した建物は白鴉教団の礼拝堂だ。といっても木造校舎の教室に毛が生えたようなもので、木の椅子が並び、教壇のかわりに祭壇がある。轍がここにいたころは、じっさいにここで授業をうけていた。ほどよく色あせた
「おいこら、放せ! 放しなさいって、いい子だから!」
「俺たちの神様を返せ!」
祭壇の上で、男の子が不審者のローブをつかんでいる。勇敢だが、蛮行。
男が轍の転移した音に気づき、こちらを見た。
「おお、我が友ワダチじゃないか! 運命の巡り合わせだな。元気でやってるか?」
轍は術具をかまえた。
「その子を放せ、ジャッコウド」
「客観的に物事を見る癖をつけろ! 放してほしいのは俺のほうだ!」とジャッコウドは身をよじって、自分の紫のローブを引っ張る。
「轍の兄ちゃん! こいつが神様の像を盗んだんだ!」と男の子は彼のローブにしがみついて叫ぶ。
「その男はどうでもいい。こっちに来い、
「でも、こいつ――」
「いいから早く。天降石が心配してる」
轍の硬い声色に、男の子はしぶしぶ英雄になるのをあきらめ、ローブを手放し、祭壇を降りた。だが、雄々しく振りむき、ジャッコウドをキッとにらむ。そういうのはいいから早くしろ。
「動くなよ」
轍は新月刀の切っ先をジャッコウドへ向ける。お
「おまえ、騎行師になったんだって? 向いてないよ! ラピュタを探すのは諦めたのか?」
30代後半の
ホウジュ・ジャッコウ
「君は現実的に物事を考える癖をつけたほうがいいぞ、ジャッコウド。大人しくひざまずいて、手を頭の後ろに組め。そして、
「まあまあ落ち着け。犬を放ったのは俺じゃない。ほかのバカどもがやったことだ。それを止められなかったことについては謝罪する。便乗してちょっとまぁ拝借したいものがあったんで、ここに寄っただけだ。冒険者ってのは、火事場泥棒みたいなものだからな。そうだろ?」
「冒険者協会の次は、クトゥルフ教団に入信か?」
「利用させてもらってるだけだよ。俺がタコとコウモリの神様を崇めるタイプに見えるか?」
「じゃあなんで〈白鴉の像〉を盗む? ここの信仰対象だぞ」
と言われると、ジャッコウドはローブの不自然なふくらみを居心地悪そうに隠した。
「ちょっとした考古学的な興味だよ。お前には関係ないだろ。夢をあきらめたおまえにはさ」
〈紫電の
だが、その前に〈転移〉されたら終わり。さらにまずいことに、この大金持ちは1発百万の宝石を平気で乱発する。この寺院をちょっとしたクレーターに変えられる威力の〈
ジャッコウドが体のどこかに隠した術具から、コリアンダーとラブダナムの
ハイエナの笑い声が外から聞こえる。入り口を探している。飛びかかればステンドグラスを割れるが、それに気づくほど賢くはない。だが、背後の小さな勇者をかばいながら撤退できるか? そこまで
轍は消極的な判断をくだした。時間を稼ぐのだ。2分たっても連絡をしなければ応援をくれるかもしれない……。
「へえ、だったらジャッコウド。君はまだラピュタを探すのを諦めていないのか?」
轍は煽るように言った。話を引き延ばせ……。
「
時間を稼いでいたのはジャッコウドだったと気づいた瞬間、祭壇が吹き飛んだ。ちがう。その後ろの壁そのものが粉砕されたのだ。轍は騎行師協会の講義でならった市街戦の基礎を思い出した。建物に突入する際に――〈転移〉で入れない場合は――扉や窓ではなく、壁を爆破して突入し、
「さがれ!」轍は背後の少年に叫び、じりじり後退する。「に、兄ちゃん!」「さがるんだ!」
木屑のシャワーと埃のカーテンから、ぬっと
「
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訳註
*極東の島大陸……
*ホウジュ・ジャッコウド……
*冒険者……多目的民間軍事会社〈王立冒険者協会〉の構成員。遺跡の盗掘や粗悪な傭兵業で悪名高いが、遺跡の発見や革新的な技術開発などでも名高い。原作では頻繁に「犯罪者」扱いされているが、職業としては合法である。原作者による偏見も多分に含まれているのであろう。
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