09.だんだんいなくなる《お題:冬休み》
「おはようございまーす」
「あら、おはようございます」
ある日の朝。寒さに震えながら電車に乗り込むと、偶然職場の先輩と鉢合わせた。
珍しいことに車内が空いていたので、先輩と隣同士で席に座る。椅子の下にある暖房のおかげで、ふくらはぎがよく暖まった。
「ていうか電車ガラガラですね」
「クリスマスも終わったし、もう冬休みの時期だものね」
「あーなるほど。学生さんが居ないんですね」
言われてみれば、制服の子が見当たらない。
普段は人が多すぎて車内がぎゅうぎゅう詰めなので、何だか贅沢な気分だ。
「出勤してる時点で贅沢とは程遠いんですけどねー」
「はいそこ、ヤな事考えないの」
「でも年明けから春まで、しばらく電車空きますよね多分」
先輩は私の言葉に「確かにね」と頷く。
あ、分かってくれるんだ先輩は。これ言ってもなかなか伝わらないのに。
「受験終わった高校生とか、早めの春休みに突入する大学生とか、学生の数が段々減ってくるのよね。分かるわよ」
「あっ、そっちでした? 確かにそれもありますけども」
「あらゴメンね。違ったかしら」
「何というかリタイアというか」
今度こそ伝わらなかったんだろう。先輩が小首を傾げてこちらを見てきた。
余計なこと漏らさなきゃ良かったな、と少し後悔する。
「落単とか、留年とか、退学とか。
社会人だったら、休職とか退職とか」
「あらまあ随分とネガティブね。経験者?」
「私自身は経験してないですけど。
出身校が割と荒れてて。毎年知り合いが一人二人余裕で消えてくんですよ。
学力だの出席日数だので」
「高校生くらいからなら、よくある話だわね」
あーあ。気まずい。
先輩にめっちゃ余計なこと言っちゃった。
会話がそれとなく流れるのを祈りつつ、窓の外のビル群を黙って見続ける。
横目で、先輩が口を開いたのが分かった。
「門出よ門出。この電車から卒業しただけ。
だからどんな理由で居なくなっても、きっと悪いことじゃないわよ」
「……それだと、私達すっごい留年してるみたいじゃないですか?」
「ふふ。私はこの電車何留かしらね」
先輩は口元を押さえて笑う。私も笑った。
ふっと肩が楽になったような気持ちだった。
「高校の時に退学しちゃったAちゃんとか、退職しちゃった元同僚のB君とか、良い門出を迎えてますように」
「うん。皆んな良い年を迎えられますように」
ふふ、と二人で顔を見合わせてまた笑った。
「ところで先輩。私達、あと何日で冬休み入れるんでしたっけ?」
「うふふ」
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