06.あれ、こんなだった?《お題:セーター》

「お?」


 収納から引っ張り出してきた、鮮やかなブルーのセーター。

 虫食いはないか、ほつれはないか、眺めていた時のこと。

 なんだか違和感を覚えた。


「こんな色だったっけ?」


 ベッドに広げてあちこちから見る。右から左から上から下から。

 なーんだか、違和感がある。


「なあ、コレこんな色だったっけ?」

「えー?」


 リビングに居る彼女を呼ぶ。すぐ、スリッパのぱたぱたした足音が近づいてきた。


「知らないよお。そんなセーター覚えないし」

「去年家でよく着てたと思うんだけど」

「去年は私、一緒に住んでませーん」


 そうだった。彼女と同棲を始めたのはつい最近だった。


「よく着てたんなら写真とか残ってないの?」

「あー」


 言われて、スマホの写真フォルダを漁る。

 一年前くらいの写真。同じセーターを着ている自撮りが運良く残っていた。

 残っては、いたけど。


「同じか……? いーや微妙に違わないか……?」

「もーめんどくさいなあ。普通に洗濯して色落ちしたんじゃないのお?」


 彼女は頬を膨らませ、リビングに戻ってしまった。

 やっぱ色が落ちたからちょっと違って見えるのか?


「……とりあえず一回着てみるか」


 着ている服を脱ぎ、ほんのり収納の香りが漂うセーターに着替える。

 それで姿見の前に立ち、色々ポーズをとってみる。


「分からん。同じ気もするし、違うような気もしてくる」 


 鏡に映った自分の姿をガン見する。遠くから近くから。

 やっぱり違和感が、いやゲシュタルト崩壊してきた。

 アレだ。朝靴下探してるとき、セットのはずなのに微妙に色違って見えるアレに近い。めっちゃ焦るよね、アレ。


「やばい沼にハマった。もう何も分からない」

「ウッソ、まーだそれやってんのお?」


 また、スリッパのぱたぱたした足音。振り返ると、彼女がひょっこり顔を覗かせていた。


「だってさあ」

「気にしすぎだって! 久しぶりだし違って見えても普通だって!」

「でもさあ」

「もー!」


 眉をきゅっと上げ、彼女が怒りだす。まずい、ダル絡みし過ぎた。

 しかし、彼女は突然近づいたかと思うと「うぅん?」と目を凝らした。


「何だ?」

「アナタそんなだった?」


 まじまじ見られて恥ずかしくなり、顔を逸らす。

 背後にあった姿見に自分の顔が映った。言われてみれば、何か違う気が。


「ちょっと思ったんだけどさ」


 目元に皺なんてあったか? と冷や汗をかいている中、彼女が畳みかける。


「アナタのその違和感って、もしかして加齢じゃ」

「よし、この話は終わりッ!」

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