04.かげをおくれ《お題:日差し》

 よく晴れた日のことでした。

 天気が良かったので、わたしは外をお散歩することにしました。


 公園のそばを歩いていると、同い年の子たちが「かげおくり」をして遊んでいました。

 「かげおくり」は、近所の子たちの間で流行っている遊びです。今日みたいによく晴れた日、地面にある自分の影をまばたきせず十秒じっっと見ます。それから空を見ると、自分の影が空に浮かんで見える、らしいのです。


 前に学校で「かげおくり」をしたときは、あんまり上手くできませんでした。その日はくもりで、影が見にくかったのです。

 だからまた「かげおくり」がやりたくて、公園の子たちに声をかけました。


「いーれーてー」


 けれど、みんなはわたしを見るなりびっくりして、逃げていってしまいました。どうしたんだろう。いつもみんな遊んでくれるのに。

 わたしは自分をじっくり観察しました。くるりと背中を向いて、思わず飛び上がりました。なぜなら、自分の影もぞもぞ動きだしたからです。


 影の方もさぞ驚いたのでしょう。夏のプールサイドにいるみたいに、ぴょんぴょん飛び跳ねていました。もしかしたら逃げたかったのかもしれません。でも、ここはだだっ広い公園。影の居場所はどこにもありません。影は縮こまって、ぽつぽつ身の上を話し出しました。


 どうやらこの子は、影に隠れて暮らす「影の子」なのだそうです。

 しかし、今日は天気がよく、隠れる影が見つからずに仲間とはぐれてしまったようでした。おまけに、日差しが強くて自分の姿がくっきりしてしまい、わたしに見つかった、というわけだったのです。


 仲間に会いたいとめそめそする影の子に、わたしは提案しました。


「わたしが「かげおくり」であなたを空まで送ってあげる。

 ね、空から仲間を探してみようよ」


 わたしはお日さまに背中を見せて、影の子をじっっと見ました。


「動かないでね。上手くできないかもしれないから」


 わたしがそう言うと、影の子はぴたりと止まりました。まばたきしないよう気をつけながら、しっかり10秒数えます。

 それから勢いよく、顔を上げました。青空がちかちかと瞬いて、白い影がすうっと浮かびました。


「やった!」


 喜んでいると、浮かんだ影の子がせわしなく動き始めました。

 しかも、よく見るともぞもぞ動く影は一つじゃありません。


「あれ、もしかして……」


 気づいた途端、おかしくって大笑いしました。

 影の子たちはどうやら、ずっと一緒にいたみたいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る