03.理想の空《お題:窓越しに見えるのは》
梅雨が嫌いだった。
低気圧とか、足元がぐずつくとか、そういう理由もある。けど何より嫌いなのは、あの暗い暗いねずみ色の空だった。ほこりのような厚い雲を見ているだけで、具合が悪くなった。
今日もまた、梅雨前線の真っ盛り。私は起き上がる気力もなく、ベッドでスマホをいじっていた。
ふと、その手が止まった。偶然開いていたフリマアプリで、偶然開いたページで、私は運命の出会いを果たしたのだ。
『雨空が嫌いなあなたへ! いつでも晴れ空を見せてくれる不思議な窓はいかがでしょう。お使いの窓枠にはめ込むだけ、工事は一切要りません』
私は迷わず購入ボタンを押した。
数日後のよく晴れた日、巨大な段ボールで窓は届いた。業者の手を借りて、えっちらおっちら部屋へ運ぶ。それから、ふうふう言いながら梱包を解く。
ごく普通の、というのも変だけど、実際本当に普通の窓に見えた。キャンバスのような大きさの窓枠に嵌められたガラスは、光が当たるとオーロラのように輝いていた。
透かして見た景色は、現実と変わりがない。半信半疑で部屋の窓にはめ込み、次の雨を待つことにした。夜の空も、いつもと同じように見えたので、私はいよいよ不安になり始めていた。
二日後、窓の向こうから雨音が聞こえた。けれど、それにしては部屋が明るい。私は跳ね起き、カーテンを開けた。
窓の外は、晴れ空が広がっていた。あの愛しい薄青の空が、優しく光を放つ太陽が、窓越しに見えている。なのに、雨音は絶えず聞こえている。窓を開けると、外は薄暗い雨空だった。
すごい掘り出し物を見つけた。私は部屋着で小躍りした。
それから何日も雨が続いたが、私の心は晴れやかだった。
どんなに外が土砂降りでも、部屋からはいつでも晴れ空が見えるのだから。私は極力外出を避け、部屋にこもって過ごした。
さらに数日経ったある日、気が付くと雨音が止んでいた。
やっと梅雨が終わったのだろうか。窓を開けた私は、目の前の景色に目を奪われた。
大きな虹が、消えかけながらも空に架かっていた。虹なんて久しぶりだったので、思わず見入ってしまう。
ふと思い立って、窓を一度閉じてみた。窓越しに、穏やかな晴れ空が見える。でも、そこに虹は見えない。
もう一度窓を開けた。しかし、虹はすっかり消えていた。もともと薄れていたのだから、いつ消えてもおかしくはなかった。
もっと早く窓を開けていたら、もっと虹を見られたかもしれない。
そう考えたら、ため息がこぼれた。
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