02.かりの生活《お題:日常》
小人の娘は、起きてすぐ小瓶を背負い、窓辺の植物から朝露を集めてきます。二滴もあれば、小人一家には十分でした。
小人の母親は、娘が集めてきた朝露を鍋に移し、マッチの火で沸かしました。それから生活の水と飲み水に分け、一家揃って顔を洗います。
母親がスープを煮込む間、小人の父親はドールハウスの中を見回ります。危険はないか、傷みはないか、じっくりと確かめます。
少し前まで、彼が朝一番にやるべきことは外の見回りでした。以前は木の
『すっかり暮らしが楽になった』
父親は気の抜けた様子で、スープを口に運びました。
娘はパンをちぎりつつ、父親に同意します。
『必要なものは、あの子が持ってきてくれるもん。わざわざ大変な思いをしなくていいし、助かるね』
『でも、それもいつまで続くかしら』
母親は、娘の皿にスープを継ぎます。その顔は浮かないものでした。
『人間の子どもは気まぐれでしょう。それに、あの子の親が私たちのことを知っているとは思えないわ。この暮らし、きっと長くないわよ』
『お母さんったら。そんなの――』
娘が眉をひそめたときです。
ドールハウスの持ち主が、ぬっと顔を出しました。
「朝ごはん? 美味しそうだね」
持ち主の少女を見て、両親は飛び上がりました。娘は少女の元に駆け寄り、尋ねます。
『今日は学校、っていうのは行かなくていいの?』
「ううん」
少女は肯定とも否定ともとれない、曖昧な返事をしました。
両親は身を寄せ合って震えます。少女が学校というものに行かなければ、きっと彼女の親が部屋にやってくるでしょう。そしたら、自分たちのことが人間の大人に知られてしまうのでしょうか。
「昨日失敗しちゃって。それで今日、行くのが怖いの」
『今日、何か嫌なことが起きるの?』
「分からないけど、心配で」
それを聞いて、娘はまた眉根を寄せました。
『そんなのね、心配したって仕方ないのよ。うちの親もずっと不安そうにしてるけど、それでも淡々と繰り返すのが日常ってもんなんだから』
「たんたんと、って?」
『頑張って生きるってこと』
少女は少し考え、それから部屋を出ていきます。
娘は何か言いたげな両親の視線をかわし、再び食卓につきました。
一日は、まだ始まったばかりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます