第10話 繋がって、ウルティメット(7)
〔レイスドール〕の速度は依然として変わらない。まるで己の姿を見せびらかすようにゆったりと歩いていた。
図らずしも〔レイスドール〕との接触地点は〈B-Laster〉のデビューライブ会場の付近であった。あのとき眺めた景色の中にたった一機の異物が混ざるだけで、平和な街並みに硝煙の臭いが漂う。そしてあの中に自分が飛び込むことで、この街は戦場と化すのだ。主水は巨大ロボットが社会に与える影響力を改めて痛感した。
だが、後戻りはできない。
「白縹主水、これより降下する」
〔フォルティード〕からフライトパックを切り離す。地上戦──それも建物が立ち並ぶため行動範囲が狭く、火器の使用が制限される市街地──では、空中戦用のバックパックはデッドウエイトになるからだ。
主水は〔フォルティード〕本体のブースターを操り、緩やかに着地した。
「こちらは地球防衛軍だ。許可なく市街地で巨大ロボットを動かすことは禁じられている。ただちにロボットから降りて、こちらの指示に従え」
「うわ、もう来たんだ。時間はたっぷりあると思ったんだけどなぁ」
「頭の中に声が響く……テレパシーか?」主水は動揺を隠しながらいった。
「うふふ、おじさまってば強がっちゃってかわいい」
「……最終通告だ。ロボットから降りるんだ」
「おじさまにも見せてあげたでしょう? 私は、変身なんですよ」
〔レイスドール〕は両手でスカートの両端を持ち上げた。
「もっと良いものを見せてあげますよ」
スカートの内部から勢いよく飛び出したのは、鋼鉄の触手だ。無数の触手はひとつひとつに制御AIが組み込まれているかのように自在な動きで〔フォルティード〕を狙う。
「踏み込みが甘い!」
主水はハーモニック・ブレードを発振させた。高速で振動する刀身は鉄塊すらバターのように切り裂く。その切断力は鋼鉄の触手にも存分に発揮された。
左右をビルに囲まれる限られた空間の中でも巧みなステップで触手を誘導し、一本ずつ着実に切り払っていく。
「あははっ、素敵なダンス。おじさまってば、まるでアイドルみたいですね」
主水の身のこなしを見た少女は愉快な声をあげた。
「こんなダンスでは通用しないがな」
「語るぅ~」
会話の中でも二機の動きは止まらない。火器を制限する主水とは逆に、触手は周囲への被害を顧みることなく暴れ回る。その猛攻に主水は近付くことすらままならず、延々と剣を振るい続けられることを強いられていた。
「くっ、あの触手に限りはないのか……!?」
あのスカートの中にはどれほどの触手が隠されているというのか。既に10本以上の触手を切り捨てているにも関わらず、〔レイスドール〕の攻撃は激しさを増すばかりだ。剣だけでは凌ぎきれず盾も併用するが、触手を完全に防ぐには至らず、少しずつ〔フォルティード〕の装甲が削られていく。このままではジリ貧だ。
「ああ、そうだ。おじさまは〈B-Laster〉のマネージャーなんですよね」いきなり少女は口を開いた。
「……それがどうした?」
「私をマネジメントしてくださいよ。そうしたら、命だけは助けてあげるかも」
主水は間髪いれずに答えた。
「悪いが、作り笑いから本性が透けて見えるようでは、アイドルとしてやっていけないな」
「……ぶっコロ決定~」
スカートから伸びる触手が逆立ち増える。その全てが〔フォルティード〕に牙を剥いた。
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