第9話 繋がって、ウルティメット (6)

「──間一髪だったね、白縹特佐」


 銀色の髪が風になびき、キングスシリーズの「赤い暴君レッド」モデル特有の荒々しいエンジン音が追従する。


「助かりました、仙部長」タンデムシートに座る主水はいった。

「しかし驚いたよ。まさか街中にいきなり巨大ロボットが現れるだなんてね」


 仙はミラーに映る巨大ロボットを一瞥した。

 黒色を基調とした装甲に、白色がアクセントして散りばめられている。腰部にかけてスカートのように膨らむシルエットに、レースのようなパーツで顔を隠す姿は、ゴシック系ファッションのようにも見える。


「あれは少女が変身した姿です」

「なんだって?」仙は珍しく驚きの声をあげた。

「客観的事実のみ報告します」主水は事のあらましを伝えた。

「ヤツはどこに向かうと思う?」

「十中八九、〈B-Laster〉の収録スタジオでしょう」


 先の男たちのように、〈ウルティメット〉の価値を知る組織がみのりと円を狙って来ることは予想できた。そのために主水とルイが二人の護衛に当たっていたのだが、まさか巨大ロボットまで持ち出してくるとは。主水は己の見通しの甘さを恥じた。


「こんなこともあろうかと、防衛機セイバースを用意してある」

「本当ですか?」

「『フォルティード』は扱えるな?」

「……流石です、部長」


 〔フォルティード〕とは、地球防衛軍の主力防衛機だ。SRCの本分は超常現象の調査であるため、戦闘用巨大ロボットを有していない。だが仙はこのような自体を想定し、予め手配していたのだろう。仙の先見の目に、主水は称賛の声をあげた。しかし、仙から返ってきた声は冷たかった。


「予め伝えておくが、フォルティードではあのロボットには勝てないだろう」


 主水からは仙の顔が見えない。だが、仙の言葉に間違いはないと思った。


「キミの役目は、応援の部隊が到着するまでの時間稼ぎ──つまり、捨て石だ」


 主水は首を横に動かした。黒い人形のようなロボットは予想どおり〈B-Laster〉の元へと向かっている。無暗に周囲の建物を破壊することはないが、進行の速度が落ちていないということは足元にいる、休日の街並みを歩いていた人々の悲鳴など気にも留めていないのだろう。

 主水は首を戻す。仙は、ただ真っ直ぐ前を向いていた。何故かその姿が、スタジオに入る〈B-Laster〉の三人と重なって見えた。


「問題ありません。私は軍人として、どのような任務も全力を尽くす……いえ、ぶっ放すのみです」


 仙の頭が前方に傾いた。

 

「これよりキミに四つの指令を伝える。

 一つ、少女がロボットに変身したのは『魔剣』が原因であると推測されるが、そのような力を持つ物質は前例がない。よって、部長権限により現時刻をもって魔剣を『超常現象』と認定する。

 二つ、あの巨大ロボットを『レイスドール』と呼称、同時に『超常災害』に指定する。

 三つ、超常災害に対し『超常正常化指令』を発令する」


 超常正常化指令――それはSRCに与えられた、対超常現象限定特別対応権限の行使を意味する。超常現象が社会に甚大な被害をもたらす恐れがある場合、SRCはあらゆる手段を用いてこれを正常化させなければならないのだ!


「白縹特佐、キミがこの任務で最も気を付けねばならないことは覚えているかい?」

「赤羽根みのりと群青院円をアイドルとして大成させること、ですか?」

「三人を悲しませないよう尽力すること、さ」

「……失礼しました」主水は恥ずかしさで俯いた。

 仙はくつくつと笑い、「キミは彼女たちから慕われているそうじゃないか。だったら、どうするべきか分かっているね。それが四つ目の指令さ」

「了解!」

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