第25話 政府系ダンジョンチューバー

 帰ってきて明らかに探索者の数が増えたのには気づいていた。大規模スタンピードで生命の危機を感じた国民が自主的に迷宮に潜り始めたんだろう。試練突破の確率が上がるので良いことだ。たぶん神的には尻を叩いてやる気を促したくらいの感覚なんだろう。そしてそれは効果が出ている。


 ただ困るのはゲームや漫画の売り上げが下がったことだ。ゲームや漫画の中のバトルより迷宮探索の方がよほどリアルだと冷めたのかあまり売れなくなったのだ。代わりに日常系とかほのぼのしたものは売り上げは上がったけど全体的には売り上げは下がった。


 代わりに台頭してきているものに一応投資をしておいた。と言うより俺が金を出してプロジェクト立ち上げさせた。



 政府主導のダンジョンチューバーを誕生させる。あんまりこういうのは政府でやるのはちょっと……と眉を顰める役人を(荒巻さんが)説得して作った。


 もともとダンジョンチューバーは存在していたし、それなりに人気もあったがが大規模スタンピード後から迷宮に関心がより集まったことでさらに大きな注目を浴びた職業だ。


 主にスター性のある探索者や初心者講座で名を挙げていたダンジョンチューバーが人気でアイドル的な探索者にスパチャしたり、初心者講座を参考に迷宮に潜るなんていう人が増えた結果人気になったらしい。


 正直上位探索者がダンジョンチューバーをやっていることはほとんどない。ダンジョンチューバーをやって得られる収入より普通に迷宮のドロップを売って得られる収入の方がはるかに高いからだ。だから人と交流するのが大好きという数人の物好きしかダンジョンチューバーをやらなかった。上位層の容姿の良さは間違いなく話題になるはずなんだけどな……俺も美形に化けることはできるが中身がこれなので絶対にやらない。この下の中くらいの山賊フェイスが俺の精神にはお似合いだ。ついでに千万単位の人数に干渉するような真似は神からやめるように釘を刺されている。迷宮での成長は可能な限り自身の行動によってするべしとかいうよく分からん縛りを課してきた。数十、数百人程度を多少鍛えるくらいならいいらしい。、あるいは末期患者回復プログラムもかなりの人数を相手にしているはずなのに何故かOKだった。


 ようは超越者を何百人も出すくらいみっちり鍛え上げるのはNGということなんだろう、たぶん。人類の進化を願っている奴らなのにこだわりがよく分からん。


 もしかしたら人類の進化を俺一人だけで左右するような状況になるのを嫌っているのかもしれない。



 まあそんな人を辞めて美貌を手に入れた話題性抜群になるはずの上位層の少なさを解消するための政府系ダンジョンチューバーだ。


 つまり政府のお仕事として上位探索者にダンジョンチューバーをやらせるのだ。


「国民に迷宮探索に興味を持ってもらうためのプロモーションを行いたい」


 と政府から頼まれれば断りにくいだろう。もちろん単発でも構わないといっておく。政府の覚えの良くなる小金稼ぎくらいの感覚でいてくれればいい。というより俺の目的はそれだし上への説得材料もそれだった。金が返ってくる見込みはこれで専業探索者が増えたらある程度金を返してくれるという約束にはなっている。政府も専業探索者の母数は増やしたいのだ。


 ……そんなこと思っていたのに思った以上に受けてくれる上位探索者はいなかった。


「面倒くさい」

「ただでさえ地上に帰るたびに騒がれているのにこれ以上話題になりたくない」

「中位の探索者で十分なのでは?」

「自分のチャンネルで好きにやります」


 と打診しても反応が鈍かった。いや、まあ地上に帰ってくるたび割と騒がれて纏わりつかれてること多いからね。今やってるやつら自分のチャンネルでやるだろうよ。


 ……よし、知り合いに頼もう。俺は楽な方に逃げた。



「は、初めまして。え、えと政府系ダンジョンチューバーをやることになってしまったさ、桜庭美音です。よ、よろしくお願いします」


 :政府は何で美音さんを起用したの?

 :どう見ても向いてない

 :せめてもっとハキハキ喋って?

 :でも可愛いからOKです

 :やっぱ上位層の戦闘力持ちは容姿凄いよな。美容目当てでダンジョン潜る人増えそう。

 :それをやめるなんてとんでもない! どもる陰キャなのがいいんじゃないか?

 :ダンジョン潜るにも才能が必要だから

 :可愛い顔を見るだけで満足します


「や、やっぱりやだ~っ! 黒さんやっぱり無理です! 何で私なんかに頼んだんですか~っ!?」


 :黒さんとやらナイス

 :知り合いの黒さんとやらに頼まれたのか

 :美音さん結構人見知りなのにこんなのに出てくれるほど仲のいい人がいたのか

 :黒さんとやらの人選ミスでは?


「上位冒険者の人が出てくれないから私に出てくれって頼まれました! でもうまくできる自信なんて全然ないので今から潜るダンジョンの風景を流して終わりにしますね! 黒さんの頼みですけどもう知らないです!」


 :開き直ったw

 :あかんやろ

 :まあ美音さんだし

 :上位冒険者の迷宮探索風景というだけで大きいよ。上位冒険者の人雑談配信ばっかりやってるし

 :美音さんの活躍みたいです

 :てか黒さんって誰やねん

 :美音さんのエッなピンチが見れればそれでいいです

 :知らない。でもなんか男の気がするので男に興味ないのでいらないです

 :上位探索者の男は興味あるのでいります

 :グロ配信にならなければなんでもいいです


 ……悪いことしたな。キャラが受けそうな奴というと彼女だったんだが性格的に向いてなかったかもしれない。案外図太いから行けると思ったんだけどな……




 桜庭美音。


 俺が超越者になって割と間もない頃にいじめられっ子だった彼女を鍛えた一応数十人いる弟子の一人のようなものだ。たぶん初期の方に入る弟子だ。黒の長髪で黒目、全身黒一色の服装でいつも活動している奴だ。


 当時はニキビも多いかなり太っていた子でかなり酷い怪我をするほど虐められていた。俺はそれをたまたま見かけたのでイライラして迷宮潜って体鍛えようぜ、と今と変わらず強引に迷宮潜りに連れていき鍛えたのだ。いじめはほとんどなくなり気にならなくなったと聞いて安心したのを覚えている。わざわざそういう奴を探しに行ってまで鍛えないあたりは偽善と言われそうだが。


 メインとしている能力は空間浸食であたりの空間を自分の莫大な魔力で侵食し、自分に都合のいい空間を作り出して敵を圧殺するスタイルだ。典型的な領域支配系の探索者で玉輝に近いかもしれない。あれは魔力を枯渇させるのでたぶん戦ったら相性が悪いので玉輝に負けるかもしれない。


そんな彼女は間違いなく迷宮じゃなく配信ドローンの先の視聴者にビクビクとしていた。


気を許した後に見せたあの図太さを見せたらいける! と今電話したら怒るだろうか? ……やめておくことにした。


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