第2話 美人のパンティを集めようぜ

「え? はぁぁぁ!!? び、び、び、び、美人のパン、パンっ、パン……」


 僕はあまりの恥ずかしさにそれをはっきりと言葉にすることができなかった。


「美人のパンティ五枚だ。しかもそれぞれ別人のものでなければならない」


「な、何でそんなものが必要なの?」


「さあな、俺様にもよくわからん。神という奴によれば、パンティ一枚いち枚には神聖なる力があり、それを五枚合わせることで偉大なる力を呼び起こすことができるという」


 そんなの、ただの変態じゃないか。


 カールが生き返ってしゃべるようになったことは現実として受け入れるけど、パンツを集めれば100%告白がうまくいくとか信じられない。


「でもそれって、パンツを盗んでこいってことだよね。政治家の裏金問題並の犯罪じゃないか」


「ふむ……例えば、見るがいい」


 カールの目が光ったかと思うと、その身体が宙に浮いた。


「え、すご!」


「これも神から与えられた力だ。その他にもいろいろなチート能力が与えられた。その気になればこの町を一瞬で焼き尽くすこともできるぞ」


 いや、やばいって。


「ひとまず、神の力を信じることはできたか?」


「ま、まあ……」


「俺様も芳昭にパンティを集めてもらわねば困るという立場ではない。お前が100%で透子といちゃラブ生活ができるようになりたいと願うなら、その方法があるぞと提案しているだけだ」


「ちょっと考えさせて……」


「ふ、まあ次の寿命がくるまでには返事しなよ。さっきも言ったが、俺様はお前と透子がつがいになるのを楽しみにしてるんだ」


 ◇◇◇


 学校に行くと、僕は僕で新しい友達と過ごし、透子は透子で新しい友達と過ごす。


 とくに何かを意識してるわけじゃなく、当たり前のようにそれぞれの時間が流れている。


 ――美人のパンツかぁ……


 よくよく考えると、美人がなんなのかわからない。


「なあ、あの子かわいくね? たしか倉中とかいったよな」


「そうかな、俺は隣の組の宮脇って子が好みだな」


 いかにもな年頃の男子の会話だ。みんないろんな中学からきてるからこんな会話でもしながら距離感を測ってる感じ。


西館にしだてはどいつが好みなんだ?」


 そして当然のように僕にも話を振られる。


「え? 僕わかんないよ」


 この返事が一番つまらないのはわかってるけど、透子しか意識したことがないからどの子がかわいいとか考えたこともない。


「なんだよそりゃ」


「初心だねー」


 まだ新学期が始まってばかりということもあり、それ以上きつい突っ込みはなかったけど、ノリの悪いやつとか思われたんだろうな。


「ねえねえ、よしくん」


 そんなやり取りをしていると透子が話しかけてきた。彼女とは別のクラスなので、友達はまだ彼女のことを知らない。


「コンパスもってない?」


「ああ、あるよ」


「次の授業でいるみたいなの。貸してよ」


 さっと筆箱を開けて渡す。


「透子、行こうよ」


 彼女の友達が声をかける。


「あ、待ってー」


 そのまま行ってしまった。


 そのやりとりを僕の友達はしっかりと見ていた。


「おいおい! めっちゃかわいいじゃねぇか!」


「西館お前、もしかして彼女いたの?」


「ええ? ち、違うよ! ただの幼馴染みだよ」


 僕は反射的に答えていた。


「へえ、あんなかわいい子が幼馴染みか。うらやましいなぁ」


「ポニーテールかわいい」


「“よしくん”か、俺もあんな感じで女の子に呼ばれてみたいなぁ」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ」


「お前と付き合ってないってことは、彼氏もいないってことでいいのか?」


「今の子、狙っちゃおうかなぁ」


 はうあ!!


 ◇◇◇


 僕は家に帰って布団の中でガクガクブルブルと震えた。


 透子が誰かに取られるかもしれない!


 いや、僕が知らないだけでもう誰かと付き合ってたりしたらどうしよう!


 そうか、透子はかわいいんだ。


 うかうかしてると彼女はどこかへ行ってしまうかもしれない。


「人生は言った者勝ち、早い者勝ち」


 謎の声に驚いて僕は絶叫した。


「うぎゃああああああああああああ!!」


「芳昭、うるさいわよ!」


 母ちゃんが怒鳴ってくる。


「は、カールか」


 ハムスターだから気づかれずに僕の布団の中にもぐりこんできたんだ。


「そこまで悩むならさっさと透子とつがいになっちまえばいいじゃねえか。つがいになったらほかのオスは近づきにくくなるからな」


「断られたらどうするんだよ」


「だったら、パンティを集めてお供えすればいいじゃねぇか」


「そんなことやっぱりできないよ」


「つまんねぇな、できないできないって。そんなんじゃ誰かに透子取られちまうぞ」


「うぎゃあああああああ!!」


「うるさいわよ、芳昭」


 でも、確かにこんなことやっててもいいことがあるわけないのはわかる。


「前も言ったが、俺様はパンティを集めてくれないと困る立場じゃない。だけど、うじうじとなんもしないでいるお前を見ているのは、せっかく生き返ったのにそれを否定されたような気分だ。ひとまず、美人のパンティを集めるところから始めようじゃないか」


「なんでそうなるんだよ」


「だってそうだろ? 芳昭が透子に好きだって言ってしまえば、もうOKかNOかの二つの未来しかなくなる。OKならいいが、NOだったらアウトだ。しかし、パンティを手に入れることに成功しようが失敗しようが透子との関係が壊れることはない」


「ばれたら変態だって嫌われちゃうよ」


「ばれなかったらいいだけじゃないか」


 なんて卑劣な考え方だ。


「パンツ盗んだら警察に捕まって死刑になっちゃうよ」


「ということは裏金やってた政治家も死刑なのか?」


「当然だよ」


「なるほど。しかしまあ、別に盗まなくても拾うかもしれない。ひとまず外に出てみようじゃないか。うじうじしてるよりは一億倍ましだぜ」

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