第29話 急報
なんだか最近、フェニの様子がおかしい。
僕が何か話を切り出そうとする度に、何やら警戒したような、不自然な態度を取るのだ。
いつもは人の話を聞いているのか聞いていないのか分からないようなポンコツメイドの癖して、どうやら一丁前に何事かを考えているようだ。
「ま、別にいいんだけどね」
例え、誰が止めようと僕の悪役街道は終わらない。果たしなく長いこの坂道を、僕はまだようやく登り始めたばかりなのだから。
「ご主人様、何を現実逃避してるんですか」
「うるさいぞ、フェニ。僕は今、己が人生を振り返っている最中でだな……」
「それはいい。それよりも、どうするつもりなの。あの人、ついに本腰入れてきたけど。例の結婚の話」
彼女は目の前の封書に視線を落とした。中身は、フェルドラ王女からの招待状だ。
次の祝祭日に王家が社交パーティを主催するので、是非顔を出してほしい。ついては、その場で僕らの婚約を正式に発表したいと申し出てきたのだ。
「はあ……。王家からの正式な招待状とあってはまさか断るわけにもいかないよな。父上にご迷惑をかける事にもなりかねないし……。そもそも、僕は社交会みたいな面倒事は好きじゃないんだ。こないだの誕生日だってメイド長が僕の体面に拘らなければもっと地味にだな……」
「愚痴ばかり言っても解決しない。あの人は強引だから行ったら最後、結婚まで一直線。ご主人様はそれでもいいの?」
頬杖をついてぶつくさと文句を垂れる僕を、フェニが窘める。
にしても、曲がりなりにも王女殿下をあの人呼ばわりって……。まあ、フェニは会う度に理不尽な因縁を付けられてるからな。反感を抱いていても仕方ない気もするけど。
「ええい、分かってるよ。今から対策を考えるところだったんだ。それよりお前も何か良い案出せよな」
「もう大人しく婚約しちゃえばいいと思う。王家の監視付きならご主人様も悪さが出来なくなってちょうどいいし」
「バカモノ。それが嫌だって言ってるんだ。もしも王家に婿入りなんぞしてみろ。四六時中行動を見張られて王家に報告される事になるんだぞ。それで僕の自由は一体どこにあるっていうんだ?」
僕は何もフェルドラ王女の事が嫌いで彼女から逃げ回っているわけではない。彼女は美人だし、出るとこ出てるし見た目だけで言えば最高だ。
性格に大分難があるとはいえ、大いなる美点は百の欠点を覆い隠すものだ。しかし、彼女を受け入れるという事は、すなわち王家の紐付きに甘んじるという事でもある。そんなのはごめんだった。
「でも、何だか意外」
「ん? 何がだ?」
フェニは不思議そうにそう言った。
「ご主人様の事だから、これで王家の権力で悪い事しまくれるぞヒャヒャヒャ。とか言い出すのかと思ってたから」
「ヒャヒャヒャて。僕、そんなに品の無い笑い方してるか?……まあ、いいや。フェニ、お前も僕の従者を務めるなら覚えておけ。僕が求めているのは、悪の道を自分の力で突き進む事であって、他人に与えられる立場に意味なんてないんだ」
僕が物語の悪役たちに憧れたのは、彼らがとても自由を謳歌しているように感じたからだ。僕もああいう存在になりたい。だから、王家に飼い慣らされるような事態は避けなくてはならないのだ。
「はあ……だからといって、招待を断るわけにもなぁ……。うーん……」
「結局堂々巡りだね」
とはいえ、まだまだ王家に逆らう力を持たない僕のような地方の弱小領主は、王家の意向を無視してはやっていけない。僕は面倒な事態になったと改めて溜息を溢すのだった。
――しかし。
結果として、この時の僕の悩み事は解消される事となる。
何故なら、悩みの原因であった王家主催の社交パーティが急遽、中止の運びとなったからだ。そして、その原因というのが。
「何、隣国が攻めてきただと!?」
僕は王都からやってきた使者に詰め寄った。
「はい。突如として東の隣国が我がフェルダゴ王国の国境を侵し、攻め入ってきました。国境での争いは現在のところ、我がフェルダゴ王国側が優位に立ってはおりますが。しかし、隣国の思惑や目的も定かでない現状において、王都は混乱の只中にあります。この状況下では、とても社交会など開いている余裕はありません」
「まあ、それはそうだろうな」
おかげで僕の悩み事は解決したわけだが。しかし、代わりに国が戦争状態になるとすればただ事ではない。
「西方に位置するアルファンド領が戦火に巻き込まれる事は恐らくないでしょう。しかし、最前線に出て祖国の為に殉じていった兵士たちの為にも、ご領主には是非とも民草に教会で戦勝を祈願するよう呼び掛けていただきたいという、王家からの要請です」
「分かった。私としても無辜の命が失われるのは心苦しい。進んで教会に参り、天に祈る事としよう」
国が一丸となって侵略者に対抗できるように、民や地方領主の意識を統一したいというわけか。地味だが、自国内の意志がバラけていては、勝てるものも勝てなくなる。コストが掛かるわけでもないし、無関係面で居られるよりはいいのだろう。まあ、お前の所からも兵を出せとせっつかれるよりは何倍もマシだしな。
「それと、出来れば食料の一時的な供出を願いたいとの事です。突然の事で、最前線に送った分王都の食料が不足しがちなのです」
「ふむ。なるほど分かった。それに関しては後でメイド長と相談してくれ。良いな?」
僕が視線を向けると、側で控えていたメイド長がこくりと頷く。僕が実務を投げ出しがちな分、この領の実質的な管理運営は彼女の手腕に任せている。僕に話すより、彼女と相談して決めてくれた方が何事もスムーズだろう。
「さて……。王家からの要請があった以上、僕もやるべき事をやらないといけないだろうな」
王国から緊急でやってきた使者が帰った後、僕は自室に戻るとフェニを引き連れてさっそく教会に向かう事にした。
悪役転生に憧れて!~最強無双のぽんこつ奴隷、悪役街道いざ往かん~ もち沢 @higeoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。悪役転生に憧れて!~最強無双のぽんこつ奴隷、悪役街道いざ往かん~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます