第3話 五機のヒドラ、現る!


『全兵士に継ぐ!! 緊急事態発生!! 第一区画、重要兵装格納庫においてテロリストの侵入を確認!! これは訓練ではない!! 繰り返す!! これは訓練ではない!!』



 無情に鳴り響くサイレンと、どこか遠くから聞こえる銃声に相次ぐ爆発音。

 硝煙とビームの焦げた香りがくすぶり、自らの機体へと全力疾走する私を嘲笑うかのように爆風が彼女の髪を煽った。


 飛来する砲弾。

 目視した私は、決死の覚悟で目前まで迫った格納庫へとダイブした。


 地から足が離れた瞬間に、灼炎が背後で爆ぜ、凄まじい熱を孕んだ爆風に押し上げられる。


 格納庫へ転がるように辿り着いたはいいが、激しく咳き込む。

 あのときの整備班の男が、大慌てで駆け寄ってくる。格納庫にいるのは彼一人。若い衆たちを先に逃がしていたようだ。


「嬢ちゃん! なんで戻ってきたんだ!」

「私の機体、出してください! 早く!」

「無茶言うな!! 敵の素性も知れないんだぞ!!」

「いいですから!! 早く!!」


 男の反対を押し切って、自らの機体に軍服のまま搭乗する。


 機体はモノアイの量産機 バーク。

 しかし、そのカラーリングは従来の物と悉く異なっていた。

 返り血を浴びたかのような真紅。所々に黒い塗装が施された”狂戦士”と揶揄するに相応しい機体。


 コックピットに搭乗し、すぐにメインシステムを起動させ、OSのチェックを行う。


「ドライヴチェイサー回転率四十五%……!? こんなのじゃすぐ追いつかれるよ……!!」


 そう吐き捨てながら、脚部に備わった電磁回転ホイール ドライヴチェイサーの出力を八十五%にまで上昇させた。

 これは、基準を大幅に上回る数値である。


「コーティングジェル分布正常、イオン濃度に異常なし、セフィラムクラウド力場発生システム正常、駆動系統オールグリーン、スパーク反応炉臨界」


 整備班の男に、早口でそう告げた。万全な状態での発進が彼の仕事だ。それを果たしたことを伝えてやらねば。


『無理はするなよ……今基地は大混乱だ』

「貴方も早く逃げてください……最後まで付き添ってくれて、ありがとう」

『その機体、派手にぶっ壊して帰ってこい!!』


 真紅のバークが、ハンガーデッキから解き放たれて、開かれた隔壁の先に広がる惨状を鮮血のまなこで捉えた。


 大きく息を吸い、操縦桿を握る。



「ミハイル・バジーナ、バーク、行きます!!」



 駆動を始めるドライヴチェイサー。鋼鉄の大地を削り、火花を散らし、背部スラスターが溢れんばかりの蒼炎を吐き出せば、真紅の狂戦士は音を置き去りにして戦場へと猛進していった。



 襲撃を受けたのは、基地の第一区画――すなわち基地の中心部にある重要兵装格納庫。

 敵の戦力も素性も何もかも不明であったが、もう敵の狙いが何なのかだけははっきりとしている。



 ――五機の新型〈ディノスドライバ〉。



 今日、この基地へ運ばれたばかりの機体。

 わざわざパシフィクスの一端にあるここをピンポイントに狙う理由は、それしかない。情報が漏れていたのだ。


「ここでもテロだなんて……何も変わらないって、分かってるくせに……!!」


 ペダルを押し込み、操縦桿を最大まで倒した。

 スラスター出力を更に上げたバークは、華麗な疾走を見せながら、第一区画へと急行する。


 刹那、切迫した電子音が私を煽る。


 熱源感知。

 バークは急停止し、その勢いを跳躍へと転換した。


 二本のビームが交差し、倉庫の壁を焼く。


 地上へ降り立つバークは既に臨戦態勢を整えていた。


 その瞳に映る敵影。

 無骨な兵士のようなフォルムの、ゴーグル型複眼を有するグレーカラーの機体。


「この機体……フィヨルド連合の」


 フィヨルド連合の主力機体 スティーク。その量産性と汎用性を高く評価された次世代型の〈ディノスドライバ〉だ。

 だが、その搭乗者がフィヨルド連合の軍人だとは到底考えにくい。


 オープンチャンネルを開き、通過儀礼を行う。


「パイロットに告ぐ。貴官は秩序管理機構〈フォーチュナー〉の領域に侵入している。速やかに戦闘行為を中止――」

『舐めるなよ!! クソアマが!!』


 耳を劈く怒号の後、再び閃光が放たれる。

 バークは目にも止まらぬ速さで回避。その最中ビームサーベルを引き抜いて、敵機との間合いを瞬きする余裕する許さぬうちに詰めた。


『なにっ……!?』

「沈め」


 動揺の見える敵機。しかし、もう既にどうにかできる状況ではなかった。


 泣き別れになり、宙を舞うスティークの上半身。その灯火を絶やした複眼が割れた時、もう一機のパイロットは怒りに震えた。


『貴様ぁぁぁっ!! よくも!!』

「それは――」


 怒り狂う敵兵。

 その様を目の当たりにし、私は煮えたぎるようで、どこか懐かしい感覚を抑えられなかった。


「こっちの台詞だァァッ!!」


 激突し、光の刃が鍔迫り合う。

 コーティングジェルの内側から放たれる熱が狂うまでに美しい光の群像を成す。


 しかし、せめぎ合いに勝ったのは、スラスターのドライヴチェイサー出力を最大にし、猪突猛進に突っ込んだバーク。

 敵の手からビームサーベルが離れた瞬間、そのコックピットを貫いた。


『うわぁァァァァァっ!!??』


 爆破する敵機。無慈悲に響く敵の悲鳴がノイズによって掻き消された。降り注いだ鉄片を見届けた後、彼女は自らの目的に思い出す。


「急げ……絶対に、こんな奴らに渡しちゃいけない」


 息を荒げ、バークを格納庫へと走らせた。距離、残り三百メートル。足止めを喰らったが――間に合うか。



 また、一際大きな爆発が少し遠くの方で巻き起こった。

 既に戦闘が起こっている。あれほどの爆発を引き起こせる物など、新型以外にあそこにあるものか。

だとしたら、あの爆発は?。


 新型機へ搭乗した味方が敵を迎撃するべく放った一撃によるものなのか、或いは――敵によって奪取された新型機が放った味方を葬るための一撃なのか。


 考えているうちに、その答えはすぐに分かった。


「……! そんな……!」



 原型を留めていない格納庫周辺で繰り広げられていたのは、血を血で洗うような、惨たらしい戦闘だった。


 そこに立つは、五機の〈ディノスドライバ〉。

 総じて、V字型のブレードアンテナとツインアイ式の複眼を備えた、とても兵器と思えないヒロイックなフォルム。


 白とエメラルド色の機体と、真っ赤に染まった機体は他の三機に追い詰められているように見えた。 


 絶句していたがすぐさま我に返り、無線を通じて味方にコールする。


『そこの新型機、応答せよ!!』



 新型機五機のチャンネルを拾った。 

 今の今まで、回線を繋いで通信し合っていた様子であった。


『ちっ、味方かよ……!』

『たかがバーク一機だ!! この新型機の敵じゃないだろうさ!!』


 味方の物と思えぬ、邪悪で吐き気を催すような会話……それが、本来味方であるはずの新型機から聞こえてくる。


 もう既に新型機は敵に奪取されてしまっていた。



『――オイオイオイ……待てよ。なんだ、その赤いボディは』

『赤い〈ディノスドライバ〉……!? まさか――いや、ありえない。俺達をバカにしてんのか!? ”調律者”どもが!!』



 機体の色を見て反応している。

 ――四年も前のことを、よくも親の仇かのように覚えているものだ。

 腸が煮えくり返る感覚に悶える彼女に、ノイズと共に無線が入ってきた。


『そこのバーク、増援か!? 下がれ!! 一機でどうにかなる相手ではない!!』


 エメラルドの装甲を纏いし騎士――〈ジェネラル〉の無線から、聞き覚えのある声が。

 サブモニターに展開された軍服姿を見て、浮かんだ疑念は確証へと変わった。


「石動くん……?」

『バジーナ大尉……!?』


 お互いの姿を認識すると、戦闘中にも関わらず驚愕する。


『ルカァっ!! ぼさっとすんな!!』


 紅の戦士――〈アレス〉から響く怒号。サブモニターにそのコックピットに乗る者の姿が映る。

 短い金髪に、橙の瞳。同じく軍服姿の彼は、彼女を見て怪訝そうに眉をひそめた。


『……バジーナ大尉と言ったか? 大尉、悪いが〈ヒドラ〉にバーク一機で挑もうなんざ無謀が過ぎますぜ』

「〈ヒドラ〉……?」


 彼の言い振りから察するに、それがあのヒロイックなデザインの〈ディノスドライバ〉に与えられた名称だろう。

 彼は「下がれ」とでも言いたいのだろうが、生憎ここまで来るのに苦労した。易々引き下がるわけにはいかない。


『何をしている。迎えが来るぞ』


 その声を聞いただけで、悪寒が走った。

 声からも隠しきれない殺意が漏れる、敵のパイロットが仲間にオープンチャンネルで告げた。


 そうこうしている内に、奪還されたであろう三機が動き出す。

 取得した情報より敵機の詳細を知る。

 紫と黒を基調とし複雑な関節を持つ〈アラクネ〉に、蒼とグレーの装甲に包まれた〈クロス〉、そして真冬の雪景色に似た色彩の〈ファントム〉。


 ドライヴチェイサーを用い、奴らは瓦礫を掻き分けて逃亡を開始した。


「このっ……!!」


 すかさず迎撃。

 出力八十%超えのドライヴチェイサー駆動は、臓物が全部潰れそうな圧が自らにかかる。


『なんて速さ……』


 逃げ出した三機のうち、その装甲故に速度が緩やかだった〈アラクネ〉を射程距離内に捉えた。


 ビームライフルを構え、エイムシステムに頼らない、それでいて的確な射撃をお見舞いした。

 標準は的確に敵を捉えた筈――しかし、敵はそれを避けた。それも、彼女の予想を上回る手段で、だ。



『悪いが、こいつの使い方はもうマスターできたぜ!! つまりはこういう事だ!!』



 〈アラクネ〉は二足歩行から、まるで蜘蛛を彷彿とさせるような四足歩行のフォルムへと変形。

 背負った大口径のビーム砲が赤熱し、ドライヴチェイサーを駆使して全てを薙ぎ払おうとする。


 回避行動を取るバークの放ったビーム。

 それは、なけなしの抵抗に思えたが敵のビーム砲を貫き、赤熱する砲筒を一瞬の内に沈めた。


『なっ……!?』

『下がれウスノロ!!』


 無力化された〈アラクネ〉の影から、赤い眼光を孕んだ〈クロス〉が突撃してくる。

 底部を連結されたビームサーベルを振りかざし、華麗な二連撃を私の機体へとに叩き込む。

 だが、強烈な連撃を全て彼女のビームサーベルによっていなし、反撃に強烈な足蹴を叩き込んだ。


『こいつ……』

『オイ、まさか本当に――』

『あり得る筈がないだろう!!』


 ――敵の言い合いの火種が、彼女の機体色であることを彼女本人が知る術はない。



『大尉、お下がりください!!』

『そうだぜ大尉!! 機体が保たないぞ!!』

「そう思うなら援護を!! まだ動くでしょ!!」


 サブモニター越しの二人は、息を呑んだ。

 その後、停止していた〈ジェネラル〉と〈アレス〉の二機は駆動を再開。たいそうな武装を携えて戦場に再入する。


「白い機体の詳細は分かる?!」

『……すいません、我々もよく分かっておらず』

『武装は大口径のビームスナイパーと近接用のビームナイフだけだ。その他特性は知らない!』


 ルカが口を閉ざす隣、青年――レオン・アルバートがそう助言した。


「ありがとう。それだけでも戦いやすい」


 礼を告げた時――後頭部に焼ける様な感覚を覚えた。いわば”殺気”をたしかに捉えたのだ。


『大尉!! 危ない!!』


 割って入った〈ジェネラル〉が彼女のバークを押し出す。

 次の瞬間、どこからともなく現れた〈ファントム〉のビームナイフと〈ジェネラル〉のビームサーベルが激突。膨大な火花を放ちながら、その場でせめぎ合った。


「一体どうやって……!?」


 自分はともかく、彼らは最大限警戒はしていた筈。それなのに〈ファントム〉の接近に、こんな間近になるまで察知できなかった。

 〈アラクネ〉の変形、〈クロス〉の高速旋回――これまで対峙した〈ヒドラ〉にはそれぞれ特異性があった。


 この〈ファントム〉にだって、おそらくは。



 鍔迫り合いは呆気なく終了した。

 素早くその場から後退する〈ファントム〉の装甲が徐々に。紅い眼光だけを虚空に残し、やがてはそれすらも微睡みの中へ葬り、奴は完全に姿を消す。


「消えた……!?」


 高速移動でも無い。確かに

 これが〈ファントム〉の能力――よりによって、一番厄介な機体が敵の手に渡ってしまうとは。


 立て直した〈ジェネラル〉に、援護に来た〈アレス〉が合流。


『くっそ!! 一番厄介じゃねぇか!! アリサは何やってたんだ!!』

『あいつを責めるな。集中しろ』


 怒りを吐露するレオンを、ルカが抑える。

 元のパイロットは――こんな事態など予想できるはずもないだろう。


 〈ファントム〉を殺る方法。

 私はただそれだけを、光線と爆炎の交う戦場の中で見定めようとしていた。


 虚空を裂き、赤き眼光と共にその輪郭を確固とさせる〈ファントム〉。ビームナイフを振り払い、〈ジェネラル〉と刃を交え、背後から降り注がれる〈アレス〉の腕部ビームサーベルを避けてから、また虚空へと消えた。


 消える最中、静寂が全てを支配する。


 そんな中で、私はレオンが告げた奴の武装の情報と今の情景を結びつける。


(姿を消して、遠くから狙撃でもすればいいはず……なのにどうしてそれをしない?)


 奴の武装にはビームスナイパーがある。

 姿を消せるという能力は、狙撃と相思相愛――のはずのに、奴は一向にその戦術を使おうとせず、近接戦に持ち込んできている。


(何が目的だ……?)


 そう考えた途端、一つの結論にたどり着いた。

 それは、笑えるほど簡単な、極端な理由。

 だからこそ、早急に奴をができた。


(イチかバチか!!)


 真紅のバークは片手にサーベル、もう片方にはライフルを携え、鮮血を溜め込んだかのようなモノアイをぎろりと忍ばせる。

 奇襲を仕掛ける〈クロス〉。その斬撃を見向きもせずに、地面を抉り取って駆け出す。


『逃がさん!!』


 〈クロス〉のパイロットは、執拗に彼女を狙う。

 されど、その目論みは行く道を塞ぐ〈アレス〉の機影によって阻まれる。


 荷電粒子の煌めき孕む光刃と、真紅の脚部に展開した燃え盛る炎刃にも似たサーベルの放つ力場が干渉し、焔の爆ぜるような音が絶えず鳴り響いた。


『いい加減返しな!! お前には向いてねぇよ!!』

『下手な挑発を……!!』


 〈アレス〉と〈クロス〉がアクロバティックな激闘を繰り広げる最中、バークと〈ジェネラル〉は消えた白き悪魔の気配を探る。


「石動くん、聞いて。奴の動きがおかしい。多分、もうすぐが来る」

『……見込みは確かですか』

「〈ファントム〉は、わざわざ私達に撹乱を混じえた近接戦を仕掛けてきてる。狙撃と透明化を活用しない理由……多分、逃走用の潜水艦とかの到着を待ってるんじゃないかと思う」


 いつ敵の奇襲が来るか定かではない中、ルカはその言葉に耳を傾けていた。


「石動くん、もし私が仕留め残ったら、君に頼んでもいいかな」

『……? 何をする気です!? 大尉!!』


 彼の声に焦りが見えた。

 ……どうしてかはよく分からないが、ミハイルはとにかく覚悟を決める。

 


 全神経を研ぎ澄ませた。

 姿を消しても、奴はいる。

 つまりは、姿が消えていようがいまいが関係ない。


 

 交戦中の〈アレス〉が、敵機に向けて投擲した円盤状のビーム兵器。それは一度敵に猛進してから、二度、狙いを定めて彼の手元へと戻って来る。


「ブーメラン……似たようなことができれば」


 戻ってこなくなっていい。大切なのはただ一点。


 研ぎ澄ませ、神経を。

 あの時感じた奴の殺気は尋常ではなかったが、それを隠せないのは素人の証だ。


 耳に感じる灼けるような感覚。


 そしてすぐさま、彼女の脳裏に電撃が走る。


「そこだぁぁぁぁぁっ!!!!」


 自らを昂らせる雄叫びと共に、ビームサーベルが投擲される。

 矛先を標的へと向けたまま、凄まじい速度で突き進んでゆく光の刃。

 それはやがて、目に見えぬ対象を的確に捉えた。


『何っ……!?』


 同時に、姿を現す〈ファントム〉。

 しかし時は遅く、その腹部へビームサーベルの先端を掠めて、一瞬だけ隙を見せた。


 だがそれは、間合いを詰めるには十分な距離。


 怒号を上げるように駆動するドライヴチェイサー。それは、真紅のバークを討つべき敵の元へと押し出さんと火花を上げて大地と拮抗する。


 瞬く間に間合いを詰めたバーク。

 腰にマウントされた斧型兵装――ビームトマホークを抜斧。刃が展開された直後に振り下ろし、敵の脳天を捉えた。


 しかし、ビームナイフがそれを受け止める。


 激しくぶつかり合う光の刃。この至近距離だと、コックピットまでその衝撃がひしひしと伝わってきた。



『マティアス!!』

『お前らは行け……!! 作戦を忘れたか……!!』


 仲間を逃がす〈ファントム〉のパイロット。生き残る可能性が最も高いのは、姿を消せる自身の機体のみ。なら、他の機体を逃がすことに専念するほうが得策だ。


『赤い機体か……!! お前は、お前はの亡霊だ……!!』


 

 力負けしたのは、〈ファントム〉だった。

 刃が空を刺し、その懐を敵へ曝け出す。

 真紅の狂戦士が狙うはただ一点――忌まわしきテロリストの乗り込む、鉄の胃袋のみ。

 振り翳されたビームトマホーク。

 それが鮮やかな軌道を成そうとした瞬間の出来事であった。


『大尉、下がってください!! 早く!!』


 ルカの助言虚しく、私の機体は突如大きく揺れた地面に足を取られ、攻撃の手を止めた。


 まさか――そう思い空を見れば、が私達を覆い尽くしていた。


 船だ。

 空を舞う鯨と揶揄してもいいような、巨大戦艦。セフィラムクラウド力場の力で浮遊する、その巨大な武装戦艦が、パシフィクス基地上空を通過しようとしていた。


 戦艦の砲手の一部が、大地に向けられた。


「マズい……!!」


 そう呟いた時――空気が轟く。


 轟、という音と共に大出力のビーム砲が天の裁きかのように大地を薙いだ。

 コックピットが激しい揺れに襲われ、モニターの映像すら確認することすら危うくなる中で私が見たのは、微睡みの中へと消えてゆく〈ファントム〉の姿のみだった。

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