第3話 木原進【Walker】2

 暴言タンクVS暴言サポートの戦いが幕を開けた。


 『ベータ・リンクス(通称BL)』は盾役タンク一人、火力役DPS二人、支援役サポート二人の計五人で戦うゲームである。


 勝利条件やルールがいくつかある。

 今回は陣地占領戦ハードポイントルールのゲームだった。


 ハードポイントは陣地を占領すると自チームのスコアが加算され続け、占領ポイントが一〇〇%になるとラウンドを獲得。

 先に二回ラウンドを先取したチームの勝利となる。


 マップは基本的に左右対称の形となっており、とりわけどちらが有利かという偏りもなく、純粋なぶつかり合いが要求されるルールだ。


 次にキャラクターについて、『BL』はロールごとに決められたスキルと、スキルが付随した武器が割り振られており、自身のアバターに反映させて戦う仕様となっている。


 Walkerこと木原進はDPS役を好んでやっており、その役割は相手チームへダメージを与えキルを稼ぐことにある。


「関係ない。俺は俺のやることをすればいいんだ、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ」

 そう自分に言い聞かせた。



『ハロ~! こんにちは? どうもチャットバトルしてたサポートですよろしくお願いします』


 陽気な声でゲーム内ボイスチャットが流れてきた。


『あれ、日本語で大丈夫すかここ?』

 釣られるようにチームメンバー達もVCを入れていた。

『大丈夫です』『よろしくお願いします』と、小さな声で応えている。

 いや、普通はこんなものだろう。

 この暴言サポートの声がずば抜けて良く通っているのだ。


『すんません。敵のタンクさっき同じ試合でトロールされたもんで、ちょっとバトってました』


 低すぎず、不快に思うほど高くなく、芯の通った聞きやすい男性の声が謎の親しみやすさを覚えさせる。


『多分あいつ今めちゃめちゃ怒ってるんで、俺たち後衛にめちゃくちゃ絡んでくると思います。それが見えたらボコボコにしてもらえるとありがたいっす』



 開始前のカウントがゼロになり、戦闘が始まった。

 マップ中央にある占領エリア目掛けてチームが前進を始めていく。

 最初にエリアについたのはウォーカー達のチームだった。

 

 少し遅れて敵チームが辿り着く。

 早速エリアを占領すると、味方のタンクはエリアのやや前方敵陣側の方で勝負を始めた。


 このゲームの特徴はリソースのサイクルにある。

 タンクが前線を張り勝負する場所を固定し、DPSがダメージを加えて敵のキルを狙い、傷ついた味方をサポートが回復するという、美しい循環で完成されている。


 そのため、他のFPSゲームと比べるとゲームの展開スピードが極めて遅く。

 そして一人当たりが敵に与えるゲームの影響力が小さかった。

 ウォーカーの知る中で最もチーム連携の必要なゲームだった。


 タンクは互いに同じ武器を使っていた。

 近距離戦特化のハンマー型武器『トロルハンマー』。

 スキルは左手から前方への『巨大な盾』の展開と、正面方向に向けての『突撃』、そして五〇メートル先までハンマーの衝撃波を飛ばす『遠当て』だった。


「勝負は拮抗状態だ。このまま占領しきれればいいけど」


 そんな事を相手が許すはずもなく、仕掛けが始まった。


 敵タンクの『突撃』が発動し、陣営を突っ切ってエリアへと向かっていく。

 接触すると拘束され、大ダメージを負ってしまうためチームは全員回避した。

 その事でチームは分断され、敵がつけいる隙が生まれる。

 それに続くように敵のDPSやサポートが流れ込んでくる。

 

 対応するように味方のタンクが一対多を引き受けるが、さすがに回復量が間に合わずやられてしまった。


 勝機と見るや否や、敵のタンクはチームに一対一を仕掛けて全滅を狙っていた。

 近くにいたウォーカーが狙われた。


 まずいと思い、射線を切りながら移動していく。

 摩天楼を意識したこのマップでは、占領エリアの周囲に吹き抜けになっている部分があり、脚を滑らせればマップ外に落ちて環境キルをされる。


(どうする? ぎりぎりまで粘ってからリスポーンしてくるタンクを待つか? いや、すぐに死んでリグループするべきか?)


 そうこう悩んでいる間にとうとう追い詰められてしまう。

 ハンマーもニ度食らってジリ貧になっているところだった。


 そこへ壁を走って飛んでくる一つの影があった。

 暴言チャットバトルをしていたサポートだった。


 ブオーンという音が鳴ると、タンクの体は宙を舞い、摩天楼から投げ出されていた。

 環境キルが発生したのだ。


『ウォーカー一緒に来て。このまま全滅取るぞ』

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