第8話 流れ者の小鬼 4
朝になると牛飼いの男は提案をした。
「良ければここに住まないか。牧畜の手伝いをしてくれるのであれば食事や寝床も提供しよう」
流れ者の男は提案を聞き入れた。
最初は慣れない作業に戸惑ったが、徐々に仕事を覚えていった。
二月も経つ頃には充分に手伝えるようになっていた。
秋になる頃だった。
二人の住む人里で一つの問題が出てきた。
牧畜に必要な飼料が充分に用意できなくなりそうだった。
牛飼いの男は悩んでいた。
このままでは牛達が春を越えられるか怪しいと感じ始めていたからだ。
「何頭かを肉にしてしまえば、次の世代はなんとかなるだろう。だがそれで収入は安定するだろうか。乳牛も一つの収入だったのに、それで解決するだろうか」
「牛飼いの友よ。不安なのか」
「ああ、不安だ流れ者の友よ。次のことを考えるととても不安だ」
「そうか、なら任せてくれ。どれくらいかかるかわからないが、なんとかしてみせよう」
その晩、流れ者の男は家を出ていった。
それから三週間ほどして、流れ者の男は帰ってきた。
馬を引き、荷台に大量の麦束をまとめた流れ者の男が帰ってきた。
「牛飼いの友、牛飼いの友よ。流れ者のゴブリンが帰って来たぞ」
その声の主に牛飼いの男は目を輝かせていたが、同時に寒気を覚えた。
「友よ。その麦束はいったいどこで手に入れたのだ」
「少し先の村でもらった」
「その馬と荷台はどうしたのだ」
「少し先の村でもらった」
「初めて、人の姿であった時に服を着ていたな。あれはどこで手に入れた」
「裸で歩いていると人間はうるさかったからな。その辺を歩いている村人からもらった」
牛飼いの男の顔色がどんどん悪くなっていくのがわかった。
流れ者の男は心配して寄り添おうとすると、牛飼いの男は手で制止した。
「友よ、私は君と話し、君を理解したと思い、友になった。牛飼いの手伝いをしてもらって、食事を共にして、同じ人間になれたのだと思った」
「その通りだ友よ。そして僕は、君のために飼料を手に入れて帰ってきたんじゃないか」
「その柵からこちら側に来ないでくれ。すまない。君には仕事を教える前に、教えてやらなければいけないことがあったんだ。当たり前のこと過ぎて、私は教えることを怠ってしまった」
「何を言う友よ。自分の大切なもののために生きるのは当然の事だろう」
「その通りだ友よ。だが、他人から奪い取ることはいけないのだ」
「普段からそうするわけではない。生きる上で必要なら、仕方がないなら、少しくらい構わないだろう。これがゴブリンの仲間であれば、村一つでは済まない上に、女子供さえ犯し、食料にしていた所だろう。だが僕は彼らとは違うのだ。君が喜ぶと思ったからこうしたのだ」
「悪いことは言わない。すぐに目の前から消えてくれ。これが最後に友としての情けだと思ってくれ」
出ていけと牛飼いの男は叫び、流れ者の男は人里を後にした。
流れ者の男は涙を流していた。
「どうしてみんな僕たちを嫌うんだ」
馬車を引いてどこか遠くへ行ってしまった。
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