第6話 流れ者の小鬼 2
流れ者のゴブリンと牛飼いの男が出会ってから、ひと月が過ぎた。
流れ者のゴブリンは自分の見つけた人間の道具についてを紹介した。
金属の薄板の先端が四つに分かれた道具や、木を削って丸く成型されたもの、動物の胃を使って作った袋など。
それらの良さについてを熱弁していた。
牛飼いの男は黙ってうんうんと頷いたり、その道具の正しい使い方を教えたりしていた。
時折流れ者のゴブリンは人間の生活について聞き、牛飼いの男は答えていた。
ある時流れ者のゴブリンは聞いてみた。
「なぜ僕らは嫌われているのだろう。人間はゴブリンの事が嫌いなのだろうか」
「昔は戦い合った仲だからだろう。敵同士だったからだろう。人間はゴブリンがまだ怖いのだろう」
「だが今は魔王もいない。戦争もしていない。僕は戦争に参加したこともない」
「それでも怖いのだろう。緑色の肌。鋭い爪。巨大な牙が。どうしても怖いのだろう」
「牛飼いの人、今でも僕は怖いか」
「君が少し他のゴブリンとは違うことを、理解し始めたつもりだよ」
それでもまだ怖い、と牛飼いの男は答えた。
「わかった。僕はまた旅に出る。どれくらいかかるかわからないが、また君のもとへやってこよう。その時にまた僕と話をしてくれるだろうか」
「もちろんだ友よ。またこうして、仕事が終わったら日が暮れるまで話そう」
それから一周間、ゴブリンは歩き続けて大きな森へとやってきた。
『魔女の家』がある森にやってきた。
願いを叶えてくれる魔女の家を探して、魔法をかけてもらおうと思ったのだ。
そこから二日、探し続けると質素な家がある空間にたどり着いた。
黒染のワンピースにトンガリ帽子を付けた、少女が庭園を弄っているところが見えた。
「流れ者のゴブリンか。ここには何をしに来た?」
「魔女に願いを叶えてもらいに来た。ここが魔女の家で違いないか?」
「如何にも。ここが魔女の家だ」
「僕は人間になりたい。人と同じ姿になりたい。人間の友人と、柵を越えて肩を並べて話がしたい。もっと人間のことを知りたい」
魔女は珍しく悩むような素振りを見せた
「それを叶えると、君はもとの姿には戻れなくなる。それでもかまわないか?」
「かまわない」
ただ一言、流れ者のゴブリンはそう答えた。
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