人になる魔法

第5話 流れ者の小鬼 1

 そのゴブリンは群れの中でも変わり者で、人の作る道具が好きだった。


 そのゴブリンはある時、気がついた。

 自分は周りのものらと違うということに。


 ゴブリン達は森や洞窟、廃墟などに集まり集団で生きていた。

 人が怖かったからだ。

 だがそのゴブリンは人の住む生活圏が気になって止まなかった。


「俺たちは嫌われている。だから人間が嫌いだ。だから人間達とは一緒にいられない」

 親のゴブリンから聞かされた話だ。


「なぜ僕らは嫌われてるのか?」

 そのゴブリンは尋ねた。


「知らない。どうでもいい。それより今日の食料を探そう」

 どのゴブリンに聞いても納得のいく答えは得られなかった。


 だからある日旅に出た。

 人里へ降りようとしたのだった。


 道なき道を歩き続け、人や馬車が通る道までやってきた。

 ちょうどそこに馬車がやってくる。

 流れ者のゴブリンは人里への行き方を訪ねようとしたが、馬車は泥水を跳ねながら横切っていく。


「ひどく嫌われているのかもしれない」

 流れ者のゴブリンはまた歩き出した。


 なんとか歩いていると人里までやってくることができた。

 農民たちが牧畜をしている様子が見れた。

 流れ者のゴブリンは人に話しかけてみることにしてみた。


「牛飼いの人、僕は流れ者のゴブリンだ。人の作るものは好きで、ゴブリンの集落を抜けてここまで来た」


「おや珍しい。随分と物好きなゴブリンだ。だが残念ながら歓迎することはできない。悪いことは言わないからおとなしく仲間の元にかえりなさい」


「歓迎されていないことは知っている。仲間たちがそうだったからだ。だけど僕はそこいらのゴブリン達とは違う。僕は人間に興味がある、人間の作るものが好きで、人間のことを理解したいと思っている」


 牛飼いの男は驚いたような顔をして、次に考え込んだ。

 数分考え込むと結論を出した。


「やはりもてなすことはできない。君のことを知らないからだ。この牧畜に使う柵越しで良ければ、話をすることくらいはできる。まずは話をする仲になろう。そこから先はこれから考えよう」


 流れ者のゴブリンは大きな一歩だと思った。

 その提案を受け入れた。


 牛飼いの男は午前の仕事を終えると柵のそばまでやってきて、自分より小柄なゴブリンに目線を合わせるように腰を下ろすと、日が暮れるまでゴブリンの話を聞いてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る