第3話 木こりの男 3

 それからしばらくして木こりの家は栄えた。

 魔法のオノを手に入れてから、木こりの男はたくさん働き、たくさん報酬を得ていた。


 木こりの男は綺麗な妻を向かい入れた。

 金に釣られたと内心思いながらも、三人の子供に恵まれて、それなりに充実した毎日を過ごしていた。


「あなたは本当に仕事熱心なのね。そんなあなたがとても好きよ」

 妻はある時、木こりの男に話しかけた。

 その言葉は頭の片隅に引っかかり、ずっと堂々めぐりとなっていた。


 今日も森でオノを振っていると、木こりの男はある時気づいた。


 振るオノに重みを感じなくなっていた。

 まるでただの木の棒を振るうようにして、木々は皆倒れていく事に気づいた。


 スコーンスコーンと、四度振るとたちまち木々は倒れて行った。


 仕事は早くなっていた。

 全て上手くいっていた。

 金にも文句はなかった。

 だがこの田舎の村では他に娯楽もなく、木こりの男にとっては自然の中で木々の機嫌に耳を傾けて生きていることが好きだった。

 その事に気づいた。


 スコーンスコーンと、三度オノを張り、あと一振りというところで手を止めてしまった。


「ああ、何という事だ。私は木を切ることが好きだったはずなのに、今は何も感じられない。手に反響する痛みも、鉄を振るう重みも、木々の声も聞こえない」


 木こりの男は家に帰ると、妻に魔女の話をした。魔法のオノの事も全て話した。


 妻はそれがどうかしたかというように応えるが、木こりの男が一言告げると態度を急変させた。


「私は今の私に意義を感じない。このオノは捨てて、普通のオノを振るい生きていきたい」


 それは明らかに仕事の稼ぎが以前より減ることを示していた。

 妻は顔を強張らせると、怒鳴るように声をはった。


「ふざけないで。子供も三人いる状態で、稼ぎが少なくなるなんて馬鹿な話があるわけないでしょう。そのままでいいじゃない、お金は稼げるし仕事が続く事に何が不満があるというの」


 その後二人は激しい言い争いをしていた。

 途中からなぜ怒鳴りあっているのかもわからないまま、木こりの男は家を飛び出した。


 夜の森は静かで、風の音が木々を撫でる音が聞こえる。


 どれだけの距離走っていたかは覚えていない。


 走り疲れると木こりの男は木を背にして眠っていた。

 それに気づいた木こりの男は、飛び起きると手元に魔法のオノが握られていた。


「飛び出して来た時に置いて来たはずなのだがな、何故今ここに」


 家に帰ることも億劫になり、途方にくれた男は自制心を取り戻すように、木々を切る事にした。


 魔法のオノからは重みを感じない。

 体も軽くなったような浮遊感がある。

 いつものように担ぎあげるとオノを振った。


「おや、何ということだ。たった一振りで切れるようになってしまった」


 スコーンと一発で細い木を切り落とした。

 次はどうだろうと近くにあった木を二本、三本と切り落とす。


「この少し大きな木はどうだろうか」


 先までの木々よりも一、二周り大きな木にオノを打ち付ける。

 これもまた、一振りで切り落とされた。


「あぁ、魔女様。私は何でも切れるオノを願うべきではなかった。私はただ、自然の中で木を切る木こりであれば幸せだったのです。このオノはもう二度と誰も使えないように、森の近くの湖に投げ捨てましょう」


 

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