第5話 はつ恋

過去の恋


福山雅治のライブが進む中、スタジアム全体がその美しい歌声に包まれていた。次の曲「はつ恋」が始まると、観客たちはさらに感動の波に飲まれていった。この曲は、多くの人々にとって特別な思い出を呼び起こすものだった。


スタジアムの片隅で、一人の女性が涙を浮かべながら歌声に耳を傾けていた。彼女の名前は中村友美。友美はこのライブを楽しみにしていたが、特に「はつ恋」が流れると、そのメロディーに心が引き寄せられた。


「はつ恋……懐かしいな」友美は呟いた。


その時、彼女の後ろから声が聞こえた。「友美?」


振り向くと、そこにはかつての恋人、伊藤大和が立っていた。彼もまた、ライブを楽しむためにこのスタジアムを訪れていたのだ。


「大和……久しぶりね」友美は驚きと共に微笑んだ。


「本当に久しぶりだな。こんなところで再会するなんて思わなかったよ」と大和も驚きを隠せなかった。


二人は高校時代に付き合っていたが、進学や仕事の都合で別々の道を歩むことになった。しかし、互いに初恋の思い出は色褪せることなく心に残っていた。


「この曲、覚えてる?私たちが初めてデートした時に聞いた曲だよね」友美は懐かしそうに言った。


「ああ、覚えてるよ。あの時、君がこの曲を聴いて泣いてたのを思い出すよ」と大和も微笑んだ。


二人はしばらくの間、思い出話に花を咲かせた。高校時代の楽しい日々や、初めてのデート、そして別れの時まで。すべてが鮮やかに蘇ってきた。


「こんな風に再会できるなんて、本当に夢みたいだね」と友美が言った。


「そうだね。でも、どうして君はここにいるの?」と大和が尋ねた。


「福山雅治のファンだから、このライブを楽しみにしてたの。特に『はつ恋』が流れると、色々と思い出しちゃって」と友美は答えた。


「僕も同じ理由さ。彼の歌は心に響くから、どうしても聴きたくてね」と大和も共感した。


しかし、その再会には予期せぬ真実が待ち受けていた。ライブが進む中、友美はふと気づいた。「ねえ、大和。どうして君はここにいるの?確か、君は東京で仕事をしてるはずじゃなかった?」


大和は一瞬表情を曇らせたが、深く息をついて答えた。「実は、仕事を辞めて長崎に戻ってきたんだ。いろいろあってね……」


「そうだったの……何があったの?」友美は心配そうに尋ねた。


「会社が倒産してしまってね。僕も色々とショックだったけど、もう一度やり直そうと思って故郷に戻ってきたんだ」と大和は静かに語った。


友美は驚きと共に、大和の苦労を思いやった。「大変だったのね。でも、また会えて嬉しいわ。これからどうするつもり?」


「実は、新しい仕事を探しているんだ。でも、今はこのライブを楽しむことに集中しよう。君と再会できたことが何よりの励みだよ」と大和は微笑んだ。


友美も微笑み返し、「そうね、今はこの瞬間を楽しみましょう」と言った。


二人は手を取り合い、福山雅治の「はつ恋」に耳を傾けながら、過去の思い出と再会の喜びを分かち合った。スタジアムの片隅で、再び心を通わせる二人の姿があった。


福山雅治の歌声が響き渡る中で、友美と大和は新たな一歩を踏み出そうとしていた。再会したことで、お互いに支え合い、これからの未来に向けて歩んでいく決意を新たにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る