第4話 家族になろうよ
失踪事件
福山雅治のライブは順調に進行していた。スタジアムは熱気に包まれ、観客たちは一体となって歌に酔いしれていた。次の曲「家族になろうよ」が始まると、会場の雰囲気はさらに温かいものとなり、観客たちはそれぞれの家族や愛する人たちを思い浮かべながら聞き入っていた。
その中に、田中健二と妻の美佐子、そして10歳の息子、翔太がいた。家族で一緒に楽しむライブは彼らにとって特別な時間だった。特に翔太は、福山雅治の大ファンであり、このライブを心待ちにしていた。
「すごいね、パパ。こんなに大きなステージで歌うなんて、本当にかっこいい!」翔太は興奮気味に言った。
「そうだね、翔太。今日は特別な日だ。楽しもう」と健二が笑顔で応じた。
ライブの途中で、翔太がトイレに行きたいと言い出した。美佐子は心配しつつも、近くにいるスタッフに場所を尋ねた。「すみません、トイレはどこですか?」
スタッフは親切に案内し、翔太を連れて行くことになった。「この通路をまっすぐ行ったところにあります。お手伝いしますので、安心してください」
翔太はスタッフと一緒にトイレに向かい、美佐子と健二はその場で待っていた。しかし、しばらくしても翔太が戻ってこないことに気づいた美佐子は、不安に駆られた。「健二、翔太がまだ戻ってこないわ。何かあったのかしら?」
「すぐに確認しに行こう」と健二は答え、二人で翔太を探しに行くことにした。
スタジアム内は広く、観客で賑わっているため、捜索は容易ではなかった。美佐子と健二はスタッフに事情を説明し、協力を求めた。「息子が行方不明なんです。トイレに行くと言ってから戻ってこなくて……」
スタッフたちはすぐに動き出し、スタジアム内を捜索し始めた。「この辺りをしっかり探しましょう。防犯カメラの映像も確認します」
ライブは続いていたが、バックヤードでは捜索活動が進行していた。スタッフたちは防犯カメラの映像を確認し、翔太の最後の姿を探し出そうとしていた。
「ここに映っているのが翔太君ですね。最後に見かけたのは西側の通路です」と一人のスタッフが報告した。
健二と美佐子は焦りながらも、その情報を頼りに西側の通路に向かった。通路は薄暗く、照明がところどころしか点いていなかった。
「翔太、どこにいるんだ?」健二が声を上げた。
その時、通路の奥から小さな声が聞こえた。「……パパ、ママ……」
美佐子と健二はその声を頼りに奥へ進んだ。暗がりの中で、小さな人影が見えた。翔太が一人で座り込んでいたのだ。「翔太!」美佐子が駆け寄り、息子を抱きしめた。
「どうしてここにいるの?」健二が尋ねると、翔太は涙を浮かべて答えた。「迷子になっちゃって、怖くて動けなかった……」
その時、スタッフの一人が何かを発見した。「ここに何かがあります」
暗がりの中で見つけたのは、小さな箱だった。健二がそれを手に取り、中を開けると、何か重要な書類が入っていた。「これは……スタジアムの設計図?」
スタッフは不審に思いながら、「どうしてこんなものがここに?」と尋ねた。
健二は深い息をつき、事情を説明し始めた。「実は、私はこのスタジアムの初期の設計に関わっていたんです。しかし、ある日突然解雇され、その後家族と共に姿を消すように脅されたんです。この書類はその時の証拠です」
スタッフたちは驚きながらも、その書類の重要性を理解し、適切な機関に報告することに決めた。家族は無事に再会し、翔太は両親に抱きしめられて安心した表情を浮かべていた。
ライブは続き、観客たちは感動と喜びに包まれていた。涼音と翔太も、その中で深い感動を味わっていた。「こんな素晴らしい夜になるなんて、本当にありがとう」と涼音が感謝の言葉を口にした。
「これからも一緒に素晴らしい時間を過ごそう」と翔太は微笑みながら涼音を抱きしめた。
その夜、長崎スタジアムシティは一体感に包まれ、多くの人々の心に残る特別な場所となった。そして、新たな一歩を踏み出すことを決意したスタジアムは、これからも地域のシンボルとして、多くの人々を迎え入れることだろう。
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