第3話 虹
奇妙な来客
音響トラブルが解決し、スタジアムは再び熱気に包まれていた。観客たちは次第にスタジアム内に集まり、期待と興奮が高まっていた。福山雅治の無料ライブが始まるその瞬間を待ち望んでいる。
一方、バックヤードではスタッフたちが再び緊張感を持って準備を進めていた。音響設備のチェックは無事に終わり、次は照明の最終確認を行っていた。
その時、控室に向かって歩いてくる見知らぬ男の姿が見えた。彼は少し薄汚れたジャケットを着ており、その顔には緊張と焦りが浮かんでいた。
「誰だ?あの人は」と音響担当の田中美佐子が訝しげに言った。
「知らない。スタッフじゃなさそうだな」と照明担当の佐藤大輝が応じた。
男は控室の前で立ち止まり、周囲を見回していた。その様子に気づいたスタッフの一人が近づいて声をかけた。「すみません、こちらにご用ですか?」
男は驚いた様子で振り向き、「私は福山雅治の昔の友人なんです。彼に会いたいんですが」と答えた。
スタッフは不審に思いながらも、「少々お待ちください。確認してまいります」と言って控室に入った。
その間、スタジアムの観客席では、ライブが始まるのを待ちわびる人々が賑やかに話し合っていた。清原涼音と佐々木翔太も、その中にいた。
「もうすぐ始まるね」と涼音が期待に満ちた声で言った。
「うん、楽しみだね。福山雅治のライブを生で見るなんて、本当に夢みたいだ」と翔太が応じた。
その頃、控室ではスタッフが福山雅治の友人だと名乗る男のことを報告していた。「福山さんの昔の友人だと名乗る方がいらっしゃっています。どうしますか?」
スタッフリーダーの山本拓也は眉をひそめた。「昔の友人?こんな時に?とりあえず話を聞いてみるか」
山本は控室の外に出て、その男に会った。「お待たせしました。福山さんの友人ということですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
男は深呼吸をし、「高橋健二と申します。雅治とは昔からの知り合いで、どうしても彼に伝えたいことがあって来ました」と答えた。
「わかりました。今はリハーサル中なので、後ほどお話を伺ってもよろしいでしょうか?」山本が尋ねると、高橋は少し戸惑った様子で頷いた。
「もちろんです。ただ、どうしても急ぎの用件で……」高橋の声には切迫感があった。
「それでは控室でお待ちください。リハーサルが終わり次第、お伝えします」と山本は答え、スタッフに高橋を控室に案内するよう指示した。
スタジアム内では、ついにライブが始まろうとしていた。照明が落ち、観客たちは一斉に歓声を上げた。福山雅治の演奏が始まり、その歌声がスタジアム全体に響き渡った。
最初の曲「虹」が流れ始めると、涼音と翔太は手を取り合って喜んだ。「この曲、大好き!」と涼音が目を輝かせた。
「本当に素敵だね」と翔太も感動して応じた。
しかし、バックヤードでは緊張感が続いていた。高橋の突然の訪問に、スタッフたちは戸惑いと警戒を感じていた。
「高橋さん、一体何があったんですか?」控室で待つ間、スタッフの一人が尋ねた。
高橋は深刻な表情で、「実は、長崎に来たのは家族の一員が行方不明になったからなんです。彼を探している最中に、どうしても雅治に助けを求めたくて……」と語った。
その話を聞いたスタッフは驚き、「それは大変なことですね。すぐに対応しますので、少しお待ちください」と答えた。
高橋の登場に何か意味があるのか、そして彼の家族の失踪にはどんな秘密が隠されているのか。ライブの熱気に包まれるスタジアムの裏で、新たな謎が静かに動き出していた。
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