第2話 桜坂

事件の始まり


長崎スタジアムシティの開業前夜、空には満天の星が輝き、ライトアップされたスタジアムが幻想的に浮かび上がっていた。観客たちは期待に胸を膨らませ、入場を待っていた。


「見て、あの光の演出。本当に綺麗ね」と若い女性が友人に話しかけた。


「うん、これからどんなライブが始まるのか楽しみだ」と友人が応じた。


スタジアムの中では、スタッフたちが最後の準備に追われていた。音響設備のチェック、照明の調整、そしてセキュリティの確認。すべてが順調に進んでいるように見えたが、突然、音響設備に異常が発生した。


「音が出ない!どうなってるんだ?」音響担当の田中美佐子が焦りの声を上げた。


彼女は機材の前で必死に原因を探っていたが、状況は改善されなかった。スタジアムのバックヤードは暗闇に包まれ、緊急照明だけがわずかに光を放っていた。


「まさかこんなタイミングで……」照明担当の佐藤大輝も困惑し、周囲を見渡していた。


「リーダー、どうしますか?」若いスタッフがリーダーの山本拓也に尋ねた。


山本は深呼吸をして冷静に答えた。「まずは原因を突き止めよう。音響設備の全てを再チェックするんだ」


スタッフたちは暗闇の中で懸命に動き始めた。一方、スタジアムの外では、観客たちが開場を待ちながら広場で談笑していた。清原涼音と佐々木翔太もその中にいた。二人はこのライブを楽しみにしており、特に涼音は福山雅治の「桜坂」を心待ちにしていた。


「涼音、このライブが終わったら、桜坂でプロポーズするよ」と翔太が耳打ちした。


「本当?楽しみ!」涼音は嬉しそうに微笑んだ。


スタジアム内でのトラブルは一向に解決しないままだった。音響設備は依然として動かず、原因は謎のままだった。山本はスタッフたちに指示を出し、全力で問題解決にあたるよう促した。


「暗闇の中で作業するのは難しいが、絶対に解決するんだ。福山雅治のライブを成功させるために、全力を尽くそう!」山本の言葉に、スタッフたちは士気を高め、懸命に作業を続けた。


その時、一人のスタッフが重要な手がかりを発見した。「ここだ!このケーブルが断線している!」


「よし、急いで交換しよう!」リーダーの山本が指示を出し、スタッフたちは迅速に対応を進めた。ケーブルの交換が終わり、音響設備が再び正常に動き始めた。


スタジアム内の照明が一斉に点灯し、音響設備が再び動き出した瞬間、観客たちから歓声が上がった。スタッフたちは達成感に満たされ、安心した表情を浮かべた。


涼音と翔太もその歓声を聞いて笑顔を交わし合った。「これで準備は整ったね」と翔太が言った。


「うん、ライブが始まるのが楽しみだね」と涼音が応じた。


しかし、これはまだ始まりに過ぎなかった。スタジアムにはまだ予期せぬ出来事が待ち受けていた。その一夜が静かに幕を開けようとしていた。

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