第4話 転生者ゴドー・トジオ
「……倒せる。だが、それでも、そもそも、おれの知識や魔術では限界がある」
「だから、わたしがいる。だから、もっとわかりやすく、怪獣について教えてくれないか」
「『化学怪獣ラジュード』は、当時日本で問題視されていた公害をテーマにしている。工場や工事現場からあふれた廃水や、煙突から登る有害物質、光化学スモッグなどがモチーフになっている。そういう怪獣だ。映画では、そういう有害物質を無害な結晶に変えたり、分解して別のものに変えたり、砂漠でも植物が育つような、土壌改善を目的とした新しい薬剤〈オムニエンザイムディスラプター〉で、怪獣は最後、大きな土くれになって死ぬ」
ゴドーは改め特撮映画『化学怪獣ラジュード』のあらましを説明した。
「うーん、わかった……その、やっぱりよくわからないことが」
魔族はあっさりと匙を投げた。ゴドーは、映画『化学怪獣ラジュード』について詳しいだけである。それに登場した架空の道具の仕組みについては、映画で語られた以上のことは知らないし、そもそも作っている側にだって確たる知識はないだろう。公害を無効化し、汚染を除去できる夢のような道具とは、当然架空の存在であり、理屈から仕組みまで、全部が全部、嘘なのだ。
「ごめん。怪獣についてはよく知ってるけど、SF的なところはわからない……本当は、ラジュードは化学の進歩や公害問題に対する警鐘だけじゃなくって、映画業界がテレビや、監督である中屋さんがアメリカで見た試作品のレーザーディスクの影響でどんどん衰退するんじゃないかっていう、漠然とした恐怖心や不安感がベースになっているって話もあるんだけど……」
後に販売された、当時の関係者の証言を集めた書籍にも、ゴドーは当然目を通している。それを考えると、ラジュードを倒すという意味合いは、公害との闘いだけにとどまらないと思うのだが、口に出して無意味だと気付いた。怪獣が今目の前にいる以上、それらは無意味な特撮オタクの知識でしかない。
「ややや。とりあえず、今日は寝る。寝たら、何かが思いつくかもしれない」
魔族はそういって、狭い椅子の上、ゴドーの隣で丸くなって寝始めた。すでに寝息まで立てている。椅子の手すりに頭を置き、大きく長い角を床に放っている。一瞬冗談かと思ったが、本当に寝ているようだった。
「こいつ、自由か……」
ゴドーはそっと、彼女が目を覚まさないように身を離し、その辺に放られていた毛布を掛けてやる。自身も相当に眠かったが、その前にもう一度、魔族の寝顔を盗み見る。白い肌に、長い睫毛。丸くなっているその姿は人間と変わらぬ、無防備さ。
「魔族と、人間のハーフ……」
人間の実験から生まれた、魔族でも人間でもない孤独な怪物。彼女がこのまま、世界を放浪し続ければ、それは使われることのない〈オムニエンザイムディスラプター〉と同じである。それは、それでいいのかもしれない。彼女の体に眠るその資料としての貴重さを考えると。だが、なによりもそれを彼女は望んでいない。彼女は、自身の存在に、意味を求めているのだ。否、『決めた』のだ。
五行博士は、〈オムニエンザイムディスラプター〉が悪用される未来を恐れ、それを封印することに決めた。映画の中では、何度も〈オムニエンザイムディスラプター〉が、核やダイナマイトの様にならない高い安全性を誇張し、その上で博士の恐れを浮き彫りにしていた。そこが、ゴドーがこの映画を好んでいる点でもある。
『作ったわたしが、世界で一番この、土壌酵素破戒剤〈オムニエンザイムディスラプター〉が安全だということを理解している! これは必ず、世界を救う救世主になることだろう! だが、それがどんなに安全でも、やさしい道具でも、人間には悪魔のような側面があって、あらゆる手を用いてそれを人殺しに使うのだと、わたしの中の悪魔が囁くのだ! それが人間だと! わたしは、わたしが恐ろしい。子供たちをあやすために作られた、ただのテディベア一つですら、殺人の道具にする、そんな人間が、そしてそれと同じ、このわたし自身が!』
――人間は、人間と魔物の交配すら行い、それで異種族の暗殺を企てる悍ましい生き物らしい。異世界においても、人間は恐ろしい生き物なのだ。博士の言う通りだ。
だが、〈オムニエンザイムディスラプター〉に、もしも意志があったのなら、博士の決定に何と言っただろう。自分のお陰で、救われる命があったのに、封印するとは何事か、と声高に叫んだのだろうか。もっと活躍したかったのに、とか、何のために生まれたのか、と思っただろうか。役に立たせてほしい、と涙声で訴えたりしただろうか。
――わたしは、決めたのだ。
目の前に、橙の美しい髪と、魔族らしい曲がりくねった大きな角を持ち、人間と変わらぬ顔と姿をした怪物がいる。人間が持っていれば暗殺の道具で、魔王にとっては忌むべき怪物。
ゴドーはしばし、彼女の寝顔を見つめていたが、そのまま工房の壁に設置された戸棚の内、引き出しを開けて一枚の紙を取り出した。それを机の上に広げ、すぐ傍の椅子を引いて座り込む。昔書いた魔術式〈オムニエンザイムディスラプター〉の設計図である。
一つだけ、ずっと引っかかっていたことがある。自分が、生き残ってしまったことへの自責の念だ。怪獣のただの一歩で崩壊した町を、一人走って逃げたことを思い出す。直後、怪獣から放出された汚染物質により、口を覆って害を免れたゴドー以外は、数十分以内に死んだと言われているが、それでも、助けられた命があったかもしれない。それが、ずっとゴドーの脳裏を離れない。
――改めて考える。
『化学怪獣ラジュード』は映画だ。全部嘘である。ラジュードも、〈オムニエンザイムディスラプター〉も、五行博士も大和教授も、全部架空の物語、存在だ。
でも、理屈だけは語られていた。人間の手で汚染された世界を、元に戻す奇跡の技術で、世界を破壊する公害怪獣を分解するのだ。
ゴドーは、机の上で朽ちるように転がっていたペンを手に取り、必要な魔術的素材の一覧や、必要な詠唱のメモを紙切れに書き出した。そう、一つ、思いついたことがあったのだ。怪獣を倒すヒントは、今日確かに目撃していた。
そうしているうち、気付けば朝になっていた。
「しまっ……」
テーブルの上には、ゴドーの涎が染みになって広がっていた。寝落ちしていたらしい。慌てて唾液を拭うが、そこで違和感に気付く。
「メモが、ない……?」
寝落ちする直前まで執筆していた新しい対ラジュード用の魔術のメモ書きがなくなっていた。
はっと振り返ると、椅子の上で丸くなっていたはずの半人半魔の少女、エアもまたいなくなっていた。嫌な予感がして立ち上がった時、外で怪しげな破裂音がした。慌てて外に出ると、巨大な一対の角を持った彼女が、真っ黒な煙の前で立ち尽くしていた。
「とりあえず材料を集めたが、何がしたかったのかさっぱりわからん」
「それは、こっちのセリフだ。何をしているんだ!」
首を傾げているエアに向かって、ゴドーは怒鳴った。
「ややや。起きたのか。よかった。お前の書いた魔術を再現したのだが、なんだこれは」
ひらひらと、ゴドーが枕代わりにしていたはずの紙切れをエアは振っている。
「昨日、お前が崩れた建物を元に戻しただろう。あれをやろうとしたんだ。だけど、時間操作か? そんな魔術、見当もつかなくて」
ゴドーの言葉に、エアは訝しむ様な表情を浮かべた。確かに昨日、ゴドーの恩人の骨を見つけるために、建物を一時的に元に戻したことを覚えてはいた。
「なんでそんなことをする必要がある?」
「ラジュードは、汚染されて変化した土壌や微生物の集合体だ。だから、難しいことはない、それを元に戻せばいいんだ。そうすれば、ラジュードは無害な土くれや微生物に戻る」
その言葉に、魔族は目を丸くした。
「そうか、よくわからないが、汚染されて変化したものが怪獣、つまりその、ラジュードなら、汚染を除去すれば元に戻る! 昨日は分解とかなんとかといっていたが、そうか、除去などせずに、元の形に戻せばいいのか!」
「そうだ。ついでに元に戻した後、再度汚染で変質する前に、別のものに作り替えられればもっといい。それこそ、砂漠に緑が広がるように」
「わかった! やっぱりお前が、怪獣を倒すんだ!」
エアは目に涙を浮かべ、ゴドーに抱き着いた。あまりの速さに、ゴドーは反応が遅れた。思ったよりも柔らかい感触にゴドーは包まれ、別の方向で彼は動揺した。匂いまで、どこか甘く爽やかに感じる。やはり、角や牙以外は、普通の人間と大して差はないようだ。寧ろ、今まで触れた覚えのない女性らしい柔らかさが、仄かに彼の体を内側から熱した。
「ゴドー、あれは、記憶操作の魔術だ。その物体のもつ過去の記憶を想起させ、魔力を注いでそれを固定する。ああそうだったと思い出させて、元の場所に戻らせる。そういう魔術だ。魔力を与え続けている間はその状態を維持できる。ただし、相手の魂の強度が高いとまるで通じない」
「そんな魔術が……?」
魔術はゴドーも当然知っているが、そんな術は聞いたことがなかった。そもそもモノに対しての記憶というのがわからなかった。
「多分、人間の感覚では掴めないものだ。だが、魔族は魔力の流れを魂で感じることができるし、触れることもできる」
当然わたしもだ、と彼女は体を離し、あたりを見回して、枝を拾い上げる。しばしそれを見つめた後、自身の角を削って作った粉を吹き付けた。すると、みしりと音を立て、枝から葉が生え、全体の皹も収まり、まるで木から生えている様な瑞々しさを取り戻した。それはテープの逆回しのよう。ゴドーは火を食べる怪獣の特撮を思い出していた。
「そういうわけだ。問題は、結構これ、疲れる」
枝にだけ集中してしまったが、よく見るとエアは肩で呼吸をはじめ、頬を汗が流れていた。そういえば、瓦礫を退けるときもかなり消耗していたのを思い出した。
「ごめん、そういえばこれを使うと大分消耗するって……」
「ややや。気にするな。大したことではない。だが、これを使えばラジュードには効果があるのなら、進歩だ。確かに、小さな虫程度だったら十分に操作が可能だし、より小さい生き物ならなおさらだ」
相手は微生物、あるいはバクテリアや細菌の話だ。木の枝に効果があるならなんとかなると思った。
「問題は相手の量だな。あんなに大きいと、さすがのわたしも大変だ。だからと言って、わたしに協力してくれる魔族はいないだろう。人間にこの術は使えないだろうし……」
「その魔術を箱か何かに詰めて、道具みたいにできないか? 事前に集めた魔力を道具に装填しておけば、エアが消耗する必要はない」
ゴドーは工房の入り口を指した。
「ああ、人間がよくやるやつか! そうか、わたしができなくても、これができる道具を作ればいい! 道具にすれば誰でもどこでも使える。なるほど、人間らしい!」
感心したようにエアはいう。人間のことを学習したとは言うが、やはりどちらかといえば根っこは魔族なのだろうか、とゴドーは頭の片隅で思考した。そういえば、会った時も平気で人間に魔術も使っていたし。人間と魔族の橋渡しがしたいと言っていたが、やはり思考や文化に溝を感じる。
「あと、量については、精霊で補えないか。彼らを直接魔力に転換することはできる。それを道具に組み込めば、エアは消耗しなくて済む」
ゴドーはつい熱くなってそういった。だが、エアの反応は対照的だった。
「人間、怖……精霊をそんな、モノみたいに……」顔を青くしてエアが言う。
「あ」失言だとゴドーは素早く認識し、口を塞いだ。
「ごめん。魔族にとって精霊は……」
「お前達があれを魔力に転換するとき、ぐちゃぐちゃに混ぜるだろう。趣味が悪い。あれは生きたまま喰うのが一番いいのに」
ちょっと違う観点で彼女は不満なようだった。
「……だけど、運搬したり鮮度を考えると、加工した方がいい。っていうかそもそも道具に組み込むんだ。誰かが食べるわけじゃない」恐る恐る提案してみる。
「それは……わかっているが……」
エアは顎に手を当てて考え始めた。文化の違いや倫理観の相違は、場合によっては話し合いの余地がありそうだった。
「その、あとは草木や苔を呼び込む方法について相談したいんだけど……ラジュードの体が元に戻らないように」
記憶操作の魔術がどういうものかはわからないが、瓦礫が放っておけば戻ってしまうように、枝だってしばらくしたら、葉は枯れて元通りになってしまうだろう。そうなる前に、ラジュードの体は土くれからさらに別の物質に変える必要があるはずだ。
……というのは建前で、ゴドーは映画の中のラジュードが、最後は草木にまみれた姿になっていたのを思い出していた。もしも、この世界にいるラジュードを、映画の最後の姿に戻す必要があるならば、今から作る魔術もそうでなくてはならない。
彼の提案に、エアは小さく唸った。そして、首を振った。何も思いつかないようだった。
「その前に、寝起きだろう。どうだ、朝食は魔族も人間も摂るはずだ」
誤魔化す様にエアはそういった。否定する理由もなく、ゴドーはその提案に同意した。
「結局、転生者ってなんなんだ」
保存食が工房の中にある。ゴドーはそれを食べられるように加工していたが、エアはいかなる術か、あっさりと鳥を二羽撃ち落とし、ばさばさと食肉に加工して持ってきた。魔術で適当に火をおこし、それを炙りつつ、調味料で味を調えた。それを二人で食べていると、出し抜けにエアは話題を持ってきた。
「転生者は、前世の記憶がある人間のことだと思うけど……特に、前世の記憶があまりにもはっきりしているというか、死んだ後の延長線で生きている感じがある人だと思う」
ゴドーは素直に答えた。
「そうなのか? わたしの聞いた話では、なにやら珍妙なスキルを持っていて、それが厄介だったと聞いているが」
「まあ、そういうのもいるって読んだけど、この世界の転生者はわからない。機密扱いだし」
読んだ、というのは、主に前世のラノベや漫画、アニメで、ではある。そして、機密、というのは、この世界の書籍や新聞、或いは伝聞からの知識である。転生者の活躍は、噂と伝説がごちゃ混ぜになって、本や演劇の題材になることも少なくない。
「でも、この世界がメートルやグラムみたいな単位を使っているのは転生者のおかげだと思う」
「だとしたら、やはり転生者は世界を変えるな」
「そうかな?」
「当然だ。別の転生者は単位を作れて、お前は怪獣の倒し方を知っている。これは大きなことだ」
「そんな大層なものじゃない。おれは、前世で怪獣映画が好きだっただけだ」
それも、死ぬほど。
「映画か。役者がいらない、どこでも見れる芝居といったな。もしもあったら、確かに楽しいかもしれない」
エアはふと、中空を見つめていった。
「芝居は楽しかったのか?」
「勿論だ。一度しか見たことはないが、よく覚えている。人間だって、芝居は好きだろう。幼いわたしをそっちのけで、恩人達も舞台に釘付けになっていたしな」
不思議と、エアの言葉に不満が滲んでいるとゴドーは思った。
「何故にやけている。わたしの顔に何かついているか?」
ゴドーの様子に気づいたエアが、自らの頬をごしごしとぬぐった。
「いや、なんでもない」
「そうか。だが、そのにやけ面は気になる」
ゴドーは素早く顔を引き締めた。にやけたつもりはなかったが、恩人たちを思い出し、芝居に嫉妬していたように見えた彼女が可笑しかったのは認める。
「急に真顔になるな。人間はわからん」
エアはやはり不満を口にしつつ、朝食をバリバリと咀嚼し、一息ついた。そして、
「精霊を使った魔力の補填方法を考えたい。あと、道具にした時の箱も考えなければな」と言って立ち上がった。
「切り替えすげえな」その様子に、ゴドーは思わず独り言つ。
「とりあえず、この本に先生の記録がある。それで精霊を使った魔力の補填を学んでくれたほうがいいと思う。おれの魔術の才能より……エアのほうが向いていると思う」
ゴドーは慌てて本棚から一冊の本を取り出し、エアに手渡した。だが、エアのほうは、なぜか呆けてゴドーを見つめていた。
「どうした?」
「今、わたしの名前を呼んだか?」
しまった、とゴドーは思った。もしも魔族の文化や感覚的に、名前を呼ぶのがタブーだとしたら、これから何をされるのかわからないからだ。
「ごめん、なにか気に障ったなら……」
「いや、違うんだ。名前を呼ばれたのが……久しぶりだったんだ。かれこれ二十年はお前を探して旅をしていたから……」
「二十年?」
ゴドーは大声を上げた。
「そうだ。どうかしたか? ああ、怪獣についてか? 確かに予言で聞いていたが、まさかあんな怪物だとは思わなかった。新聞で見て驚いた。どんなものか知っていれば、人間に警告を出したほうが良かったとは反省しているが……」
「違う。いや、思ったより長生きだなって」
エアは、頭から生えた長大な角などを除けば、かなり人間然としているからだ。年も、せいぜい十代後半、否、ゴドーと大して変わらないように見えた。
「確かに、人間的にみると、随分子供みたいにみられるかもしれないな。だが、わたしはまだ百歳と少しだ」
人間のように数えたかったが、もう忘れてしまった、と付け足す。
「まじか」
まだまだ未熟、だなんて表情でそう語るエアに、ゴドーはただただ驚くばかりであった。
「といっても、ハーフだからな。いつ急に死ぬかわからん」
「そういうジョークはやめてください」
ゴドーは真顔でそう伝える。すると、エアはふふ、と笑い、続いて、そうだな、と頷いた。
「とりあえず、ガラス瓶とか、術を納めるのに使えそうな箱を買ってくる。あと、何よりも食料を」
「ややや。買い物か。それくらいならわたしにもできる」
「その角で?」
ゴドーは反射的に問うていた。さすがに市場などに行けば、どう見ても目立つ。
「失礼な。これくらいは簡単に隠せる」
彼女は両角をがっしりと掴み、ゴリゴリと側頭部にねじ込んでいく。
「うぎ、ああああ、えっ、ああ、げげげげげ」
悲鳴をきっと噛み殺していたであろう唸り声を除けば、あっという間に大きな角が彼女の頭の中に納まった。さらに、目立つ橙色の髪が真っ黒に染まった。
「どうだ、これで人間に、馴染める。別人みたい、だろう」
言葉だけなら随分と自信がありそうだが、彼女の顔は苦悶に歪み、眉間に皺が深く刻まれ、口の端時から涎が垂れ落ち、目は腫れ、潤み、確かに色んな意味で別人になっていた。
「わかったから、元に戻していいです。怪獣を倒すなら、エアが勉強したほうがはるかに効率がいいので」
ゴドーがそういうと、そうか、と案外あっさり彼女は引き下がって角を戻した。彼女のすっきりした表情に、やっぱり苦しいんじゃないか、という言葉を飲み込む。
「とりあえず、読むことにする。ありがとう」
そういって、すぐにエアは椅子に腰かけ本を開いた。
ゴドーはすぐに外套を羽織り、鞄を片手に外に出た。有り金はあまりないが、一週間は持つ。それまでに、〈オムニエンザイムディスラプター〉が完成すればいい。
「……わからん。なんにもわからん」
二人が〈オムニエンザイムディスラプター〉を研究し始めて二週間。ゴドーを絶望が包んだ。そしてそれは、エアも同じだった。
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