27話 配信向きすぎる特性持ち、奇跡の三人セット

 そこからは、Alter’dの残り二人である雪哉と蒼の顔合わせ配信が続いた。

 トップバッターである燎の配信が少々過剰なくらいに上手く行ってしまったので、後続のプレッシャーになってしまわないか、尻すぼみにならないか等が懸念されたが……


 結論から言うと。

 ──何一つ、全くもって。その心配の必要は皆無だった。




『【昼神ユキヤ初顔合わせ!】 リズムゲーム対決! どっちの声が可愛いか勝負!』


 雪哉改め、昼神ユキヤの初配信タイトルはこの通り。

 恐らくは狙い通り、待機画面コメントには声に関する言及や性別が果たしてどっちなのかという疑問が散見され。


「はろー! Alter’dのリーダーにして一番声が可愛い女! みんなのっ、アイドルーっ! 夕凪ほたるでーす!! ……やっば想像の百倍くらい恥ずい」


『誰???』『どなた???』『声作りすぎで草』

『いつもの可愛いほたるちゃんを返して!』

『やるなら最後までやり通せよw』『流石のほたるもこれには羞恥心の限界か』


 そこでほたるが初手から尋常ではなく作ったわたし可愛いアピール全開の声で視聴者の突っ込みと笑いを誘ってから、いよいよユキヤの第一声。


「は、はろー。昼神ユキヤです。……この女の声の方が可愛いってことでいいんであの、不毛な争いはやめてくれ」

「負けたぁ──ッ! 声が可愛い!!」

「ねぇ初配信最初の挨拶を遮るとかある!?」


 その流れで、そしてここまで演出するのも納得のユキヤの声を聞いてコメント欄も『かわいいいい』『え、マジで可愛いんだけど』『本当に男の子なの!? 奇跡!?』等々、彼の配信上での最大の特徴を活かした掴みが決まってからは早かった。


 リズムゲームというほたるのチョイスも秀逸で、バンド経験者であるユキヤのリズム感覚で非常に上手いサクサクプレイが楽しめる上に。


「んったーんたったはい、はい、はいっ! よし!」

「は!? 何今の声素なの!? 女の子だと許されないレベルのあざとさだよ!?」


 真剣なプレイにリズムを取る掛け声が恐ろしいほどに可愛らしく、『配信者のリズムゲーム』の醍醐味の一つに視聴者からもとにかく『可愛い』の声が続出。

 その声とは裏腹に、当人の気が強くて挑戦心溢れる性格とのギャップや、ほたるとの(何故か定期的におねショタを狙おうとする)掛け合いの軽快さも相まって、一気にこれも初配信としては大成功の部類になった。




 最後の蒼は、ある意味で一番分かりやすかった。


『【夜紡あおい初顔合わせ!】 協力プレイ! 漫画家先生はゲームも上手い……?』


 こちらは前二人と比べれば普通のテンションで始まった。

 テンポ良く挨拶と自己紹介を済ませ、ペンネームをそのまま使っていることから高校生漫画家ということを話して視聴者から驚きと敬意を集めつつ、プレイ画面へ。

 やるゲームは、タイトル通り協力プレイ型の名作。うさぎの着ぐるみを被った二人組が手を取ったり相方を投げたりしながら障害物やトラップを避けゴールに向かうあれだ。


 ここまでは、もちろんほたる主導によるコミカルな面白さは安定してありながらも、前二つよりはシンプルな可愛らしい少女二人の和気藹々とした初配信。

 流石に三連続で変わり種は胃もたれするからか──と思ったのは束の間。

 視聴者もすぐに、その真の理由に気づく。そもそも彼女に関してはそんな演出など必要ない、とある圧倒的な極めて配信エンタメ向きの特徴があったのだ。

 そう、それは。



 夜紡あおいは──圧倒的にゲームが下手だったのである。



「先輩! だめです、そっちはだめです!! いいかげんわたしを崖から引き戻して下さいませんか! 引っ張るだけでいいんですよ!」

「それができないからこうなってるんですけど!? 引っ張るってどうやるの、えっと、えっと……これね!!」

「あっ──すぅ……先輩、今までありがとうございごふっ」


『なんでワンボタンすらおぼつかないんだよwww』『そこで落ちることある……?』

『絶妙にスローモーションで死んだw』『やばい既にお腹痛い』


「せんぱ──い! やめて下さい、やめて下さい!! わたしを掴んで壁にゴリゴリするのはもう! 血が出てます、血が出てますからぁ!!」

「私だってやめられるものならやめたいわよ! でもどうやっても手が止まらないの、この子が勝手にこう動いちゃうのよ!!」

「そんなことあります!? そんな、わたしはこんなに先輩のこと好きなのに!」

「私だって好きよ! でもこれが止められないのよ、仕方ないじゃない!!」


『てぇ……てぇ……?』

『なんだろ、女子高生二人の微笑ましいてぇてぇのはずなのにそれどころじゃない』

『可愛いやり取りなのにゲームの絵面が猟奇的すぎてそういうシチュにしか見えん』

『ゲームが下手すぎて意図せずヤンデレになってるの何w』


「だからなんでそれが飛べないんですか先輩!? 説明書きを見る限り間違える要素も難しい要素も一つもないはずですよね!」

「指が思うように動かないのよ! 私は手先が器用じゃないんです!!」

「先輩漫画家ですよね!? しかも高二で既に連載経験あるっていう控えめに見ても将来有望すぎるお方ですよね!?」

「それはその、多分あれよ! ペンを持ってる時だけバフがかかる感じ!」

「能力者!? ていうか何これ、なんでわたしがこんなにツッコミに回ってんの!? 自分で言うのもなんだけどわたしかなりボケ寄りのキャラのはずだよね!?」


『草』『夜紡あおいのゲームプレイングそのものが特大のボケすぎる』

『コントローラーを握るだけで無限にボケを生み出す女』

『あの夕凪ほたるをツッコミに回らせる女』

『こいつは恐ろしい逸材だ……』


 一生こんなやり取りが続き、結局死に物狂いでクリアできたのが一面だけという始末。

 お互い満身創痍で配信を終了し……最早言うまでもなく、大好評を獲得したのだった。




 こうして、二人とも負けず劣らずのインパクトを残して初配信は終了し。

 元々ほたるを見に来た人たちも、三者三様に個性的かつ……何より夕凪ほたるの新しい一面を引き出してくれるということで三人を評価する。

 かくして燎たち三人、『夕凪ほたるの仲間たち』はほたるが獲得したリスナーにも受け入れられ、彼女のチャンネルはさらに順調な伸びの片鱗を見せることとなる。


 その三日後。

 初めて四人が揃う配信であり、奇しくもとある良い報告も同時にできる配信。


 そして──『Alter’d』にとって。

 一つの重要な契機となったその配信の時が、やってきたのだった。

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