【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
26話 てぇてぇはやる側が擦ると大体がコメディになる。
26話 てぇてぇはやる側が擦ると大体がコメディになる。
改めて言うが、初配信は上手く行った。
だが、ほたるの真価は……そしてAlter’dの真価はこれからだった。
ほたる自身もあの初配信には概ね満足していたのだが、唯一不満な点があったらしい。それが、
「やっぱり──もっとはっちゃけないとなって思ったよ」
とのこと。
「せっかく燎に『冒険家』っていうわたしにぴったりな表現とアバターをもらったんだもん、だったらもっともっと、積極的に冒険してかないと!」
そう、初配信後の全員での反省会でほたるは話していたため。
もっと積極的に様々なことに挑戦するつもりなのだろう。そう判断して燎も楽しみに待っていたほたるの翌日の配信は。
男性向けCERO-C。
つまり実質十五歳制限がかかった、相当センシティブ寄りの有名恋愛ゲーム配信。
配信タイトルは、『十五歳なんだから十五禁ゲームをやっても何も問題ないが??』
コメント欄は待機画面から大盛り上がりだった。
『おいwww』『どこに冒険に出かけてんだよw』『配信二日目の姿か……? これが』
『冒 険 開 始 二 歩 目 で 娼 館 に 向 か う 女』
『ギャルゲーをやるギャル』『マジもんのクラスのギャルがオタクくんのゲームを!?』
『本性表すの早ぇよw』『初配信では分かんなかったけどやっぱ”そっち”か』
「冒険ってそういうことじゃなくない!?」
思わず燎もコメント欄と一緒に突っ込んだ。
だが配信はこの上なく好評だったようで、かなりネタ寄りの配信タイトルとは裏腹に内容は極めて真剣に明るくほたるが可愛い少女たちを褒めたり、時に露出の多すぎる衣装に突っ込んだりして純粋に楽しむもの。
最終的には視聴者陣も『理想的なオタクに向けたギャルの反応じゃん』『俺らの心が汚れていた……』と浄化されたとかなんとか。
その後も、ほたるのソロ活動期間は極めて順調に進んでいった。
二日目のような愉快なネタ枠に加えて、真剣に何かに挑戦する企画も複数。RTAだったり、高難度ゲームの強敵撃破チャレンジだったり。
それら全部含めて『冒険』『挑戦』をテーマにするほたるの良さが存分に出ており、配信コメントや動画コメントでも、
『やばい普通に推せるぞこの子』『超笑えるし見てて超元気出る』
『一見良くあるぶっ飛んだ女性Vなんだけどそれだけじゃないというか』
『ギャグと格好良いの振れ幅が大きすぎて最早ギャグやってても格好良く見える』
『可愛い声とネタ全力要素では隠しきれない真っ直ぐな高校生感がすごく良い』
と、想定以上に若い層も中心に人気を高めつつあり。
そして、そうやって順調に視聴者を増やしている中……いよいよ。
最初の顔合わせ配信、燎のVTuberデビューの日がやってきたのだった。
◆
その日の配信タイトルは、
『【暁原カガリ初顔合わせ!】 ママと相性ゲーム! ラブラブ♡ なとこ見せます♡』
サムネイルはキラッキラなほたるの後ろで何故か顔を青くするカガリの画像。
待機欄にはほたるの固定コメントで、
『なんでか分かんないけどサムネ見せた瞬間ママが初めて見るレベルで苦い顔してた』
と書いてあった。
『おいなんだこれwww』『今日はギャグの日かぁ』
『もうこの二人の関係性大体分かったんだけどwww』
『絶対苦労人ポジだこれw』『うちのほたるがすみませんお母さん』
『なんだろう、こんな明るくて声の可愛い美少女と近しい立場なのに全然羨ましくない』
『本当に見ている分には面白いポジの子来たわ』『おいたわしや……』
待機画面コメント欄でも、ここ数日の配信でほたるがどんな少女か大体分かっている訓練された視聴者による概ね妥当な推測が溢れていた。
そんな(今日はネタ方面の愉快なことが起こる系の)期待の中、いよいよ配信がスタートし。
「はろ──!! 本日はテンション三割増しでお届けしております夕凪ほたるです!!」
『はろー!』『今日も可愛い!』『この挨拶だけ聞くなら普通に元気系の美少女なのに』
『今日はいつ本性表すんですか?』『先に言っておく、ママさんお疲れ様です』
「うーんここ数日でいじる系のコメント一気に増えたね! でも今日のわたしはそんなこと気になりません! な、ぜ、な、らぁ」
そこで一気に、声をなんかかなり意図的に甘ったるく変えて。
「わたしの大好きなママがぁ、いよいよ配信に来てくれたからでぇ」
『きっつ』『きっつ』『ごめんいくら十五歳でもこれはきつい』
「早速ですが、登場していただきましょう! カガリママ、どうぞ!」
そしていよいよ──暁原カガリの配信の第一声が配信に乗った。
「……はい……みなさん初めまして……Alter’dのイラスト担当で…………一応これの母親の……暁原カガリです……」
『テンションひっっっくwww』『相当のイケボなのにテンションがwww』
『そりゃこうもなる』『これからこの状態のほたる相手しないといけないんだもんな』
『”これ”の母親w』『ママさん初めまして! 頑張ってください色々と!』
『やっぱ男なのね』『男でもこの悪ノリ全開ほたるの相手はしたくねぇよな……』
「どうしたのママ、テンション低いよ! せっかくみんな見てくれてる花の初配信なのに第一声がそれでいいの!? もっと上げてこうよ!」
「誰のせいで下がってると思ってんの!?」
そして程なくして爆発した。
「何これ! ねぇ何これ! あなたこれまで配信で一回もハートマークなんざ使ってこなかったのになんで今!? 俺をどうしたいの初手から燃やす気なの!?」
「えーだってぇ、だーい好きなママと仲良しってこと見せたかったんだもん……あわよくば禁断の母と娘のカップルチャンネルにしようなんて……思ってない、よ?」
「よし分かった燃やす気だわ! 俺が火炎放射器から逃げ回るのが今日のメインってことね! こんな初配信は嫌だランキング上位を狙うのね!」
『頑張れママ』『#頑張れカガリ』『ハッシュタグもう決まったな』
『完璧に予想通りというか期待通りの関係性だわw』
と、オープニングの寸劇はそれくらいにして。
その後も二人のかけ合いを続け、同時に配信コメントを拾いながらの自己紹介も進めていく。それらを通して燎に対する印象も、
『ほたるに振り回される突っ込み役男子ね』
『マジで実質三ヶ月で素人からこのほたるをキャラデザしたのか、すげぇ』
『言葉の節々からすごい良い子感漂ってるのに、ほたるに目をつけられたせいで……』
辺りのコメントで固まってきた頃合いで。
「はい! こんな感じでもうラブラブなわたしとママなんですが! ガチ恋リスナーさんいたらごめんなさい!」
「ガチ恋リスナーさん、いたらなんとかしてください」
『仲良しなのは分かったわw』『ガチ恋リスナーです、安心したのでこのまま眺めます』
「そんなわたしがママと初配信でやっていくのは──こちら! 相性ゲームです!」
その紹介と同時に、配信がゲーム画面に切り替わる。
相性ゲーム。所謂『一致する答えを言え』ゲームであり、お題に合わせて二人の回答をぴったりと揃えられれば得点が加算され、最終的な得点と一致具合によって二人の相性がどれくらいかを決める、という流れだ。
「ま、わたしとママなら楽勝だよね! もう最上位判定間違いなしだ!」
「この流れで言うのは癪だけど……仲が良いのは確かだから。かなりいい線行く自信は俺もあるし、全力出さないのは冒険者失格だからね。本気で高得点狙いに行くよ」
『お』『仲良しなのは認めてるのね、てぇてぇ』
『是非息ぴったりなところを見せてくれ』『正直どっちでも面白いことになりそうw』
ゲームパートになると真面目になるカガリに、視聴者陣も様々な期待を寄せながら──いよいよゲームがスタートした。
最初は……やはり序盤らしく、簡単な質問から。
【ズバリ、『お二人そのもの』を表現する言葉はなんですか?】
「これは楽勝だね」
「まぁあれでしょ」
流石に最初で躓くようなことは微塵も思わず、二人は自信満々に。
ほたる、カガリの順で一挙に答えを提出する。
「母娘」「Alter’d」
「「そっち!?」」
『そっちかwww』『これは流れ決まった』『友情崩壊RTA始まります』
「はーこれはママが悪いね! どう考えても母娘一択でしょ! Alter’dは四人組そのものを表してるんだからこの場にはそぐわないです! まだ出てないユキヤとあおいちゃん先輩に謝れー!」
「いやいやいや俺そこまでVTuberの文化に馴染んでないんだって! 俺の中での認識はまだ普通にクラスメイトなんだからそう反射で母娘なんて出てくるわけがないでしょ!」
先ほどまでの会話とは一転、一挙に喧嘩調になるやり取りに視聴者も盛り上がる。
二人も気を取り直し、次の問題へ。
【二人の思い出の食べ物を教えてください!】
「うん、あれかな!」
「これは──うん、完璧」
二ヶ月強だが濃い時間を過ごしてきた二人だ、当然この程度で迷うはずはなく。
「ミルクティー」「学食のうどん」
「「なんで!?」」
『またも一致しないw』『これはほたるがギルティかな』
「視聴者さんも言ってるこれはほたるが悪い! 食べ物って知ってる!?」
「いやでも言って学食のうどんなんて何回か一緒に頼んだ程度でしょ!? 頻繁に購買でどっちかがまとめて買ってるミルクティーの方が愛着は深いよ!!」
『回答は全然仲良しじゃないのにwww』
『合間に挟まれるエピソードで仲良しを補強すなw』
『本当にクラスメイトって感じの会話でこれもある意味てぇてぇ』
如何にもなやり取りで視聴者の満足度が増す中、次の問題へ。
【三文字の果物と言えば?】
「いいかげん攻略法が分かってきたよ。つまるところ、しっかり二人で共通認識が持てる回答をすれば良いんだよね」
「ああ。そうなると俺たちの場合あの果物しかないよな」
クラスメイトでありVの親子なのだ、それを見つけるくらい造作もない。
「すいか」「かぼす」
「「しりとりやってんじゃねぇんだよ!!」」
『かw ぼw すw』『こんな芸術点高いことある?』
『きっちり同じ文字で攻め返してるしw』『どっちからでもしりとりになっとる……』
『後のハモリといい、回答以外は全部が仲の良さ証明してるのなんなんだよwww』
「いや待って視聴者さん言い訳させて! 今日の地理の授業で出てきたんだってかぼすが! 珍しい果物だから先生が結構熱心に解説してて! タイムリーさもあってこれしかないって思ったんだよ本当に!」
「それはわたしも覚えてるけどさ! でもここはどう考えてもわたしの昨日の配信でしょ! 思っきしスイカ作るゲームやってたんだからそこに合わせてよ!! ママのバカ! 嫌い! もう知らない!」
『思春期の娘かな?』『思春期の娘なんだよ紛れもなく』
『バカ助かる』『だだこねほたる可愛い』
……とまぁ、こんな感じで。
何故か近いところまでは行くのに最後の最後で二択や三択を絶対に外したり、逆にしょーもないところではしょーもない理屈で奇跡の正解を引き当ててしまったり……大変ぐだぐだな流れのまま進んでいき。
「何さ! あんなに一緒にいたのにママってわたしのことなんにも知らない──体のことしか知らないんだ! わたしのスリーサイズからパンツの色まで全部知ってるくせに、内面は全然見てくれないんだね!」
「アバターの話ね!? 人聞きを悪くする天才か貴様は!?」
それに比例するように二人の口論は増えていき……最終的に。
【これにて全ての質問は終了、結果を発表します! あなたたち二人の関係は──】
ゲームより判定された、カガリとほたるの関係値を表す言葉。
それは、下から三番目の──
【──ズバリ、『クラスメイト』です!】
「「そうだよ!!」」
と、見事なオチをつけさせられたのだった。
「さて……ママ、このゲームを通して分かったことが一つあるよ」
「ああ。どうやら俺たちは……思っていたほど、仲良くはなかったようだね!」
『いや超絶仲良しなのが分かったよw』
『むしろてぇてぇの新境地を見せつけられた気分だよ』
「思えば会ってからまだ二ヶ月ちょっとしか経ってないし……」
「そんな短期間なのに何回か喧嘩もしてるし……」
『だからそれは逆に仲良しなんだって』
『喧嘩するほどなんとやらの典型例じゃん』
『今の話聞いて余計に馴れ初めが知りたくなったんだけど』
「仲良くなれたと思っていたのは、勘違いだったみたいだね! というわけで──」
そうして、本日の配信の締めくくり。
大層可愛らしい声色で、こう叫ぶのだった。
「──ママなんて知らない! もう、絶交だ────!! ぐっない!」
そのまま画面切り替え演出から、エンディングムービーが入り声がフェードアウトする……直前に。
「……次のママの出番までに仲直りしておきまーす」
と小声で入り、暁原カガリの初配信は終了した。
『ぐっない!』『最後の補足までかわいいwww』
『当人が仲悪くなるのに反比例してリスナーにはどんどん仲良し認識されるという神回』
『暁原カガリ、おもしれー男だった……』
『ほたるとあんな言い合えるってだけで逸材でしょ』
『私あの二人と一緒のクラスになって教室での会話を延々聞いてたいんだけど』
『本人も面白いし、ほたるの新しい可愛い部分引き出してくれるしで最高』
『最初は巻き込まれ苦労人かと思ったけど、ちゃんとほたると張り合えるパワーあった』
『これと同レベル期待できるのが後二人いるってマ?』
『Alter’d、本格的に推したくなってきたか……?』
◆
「最高!」
「ありがとう!」
配信ののち。
燎とほたるは通話を繋いだまま配信の反省や感想を語る予定だったが……どうやら、ほたるから反省の方はそこまでなさそうである。
「色々展開は考えてたけど、その中でもいちばん綺麗な落ちになって良かった! 特に毎回回答が最高なんですけど! 『かぼす』のくだりとか笑うかと思ったよ!?」
「実際笑ってたよね」
言うまでもなく、相性ゲームに関しては一切の八百長がない。燎は全問題を本気でほたると揃えに行って──あの結果になったのである。これはもう、今回に関しては燎が配信の神様に忖度してもらったのだろう。
(……いや)
けれど、すぐに思い直す。
確かに、今日の自分は初配信にしては上手くできただろう。それが盛り上がりに一役買えたとは思えている。
しかしそれ以上に──ほたるがすごかったのだ。
予め配信の大枠の流れを考え、その流れに添いつつけれどアドリブでもしっかりと盛り上げる回しの上手さ。今回配信で抜粋したものだけでない、微妙な回答になった時も空気を白けさせず何かしらで笑いどころを作るトークセンス。
……それを実際の配信はほぼ初心者でありながらできる人間が、それだけいるだろう。
いつか、ほたると一緒に出かけた時に思った通りだ。
歌だけじゃない、彼女は多くの才能に恵まれている。その上に頑張り屋、配信活動でもきっとすぐ今以上に頭角を表すのだろう、そんな予感がある。
それを感じると……やはり、あの日と同じく。
遠いな、と思う。普段は同じクラスにいるはずのほたるが遥か遠くに感じ、実際あっという間に遠くに行ってしまう予感がある。
……でも、今は。あの日とは違って。
──
そうも同時に、強く思う。
以前のように闇雲に言っているのではない。多少なりとも何かを自分から表現する分野に関わって、彼我の差をある程度しっかりと認識した上での決意だ。
「……ん? どしたの燎?」
「いや、なんでもない。それより……明後日は雪哉の顔合わせ配信だろ。今回想像以上に上手く行ったからプレッシャーかかるね、って伝えといてくれ」
「あは、それはやる気出ちゃうね」
軽く雑談を挟んでから、通話も終え。
「…………よし」
彼女に追いつくべく、これまで以上に頑張るべく。
そして……とあるほんの少しの懸念を、ほたるの万全のためそれも払拭すべく。
燎は以前から考えていた、ある企画──とも呼べないくらい小さな思いつきを、本格的に進めることに決めたのだった。
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