【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
24話 準備をしている時も、一番楽しいものを
24話 準備をしている時も、一番楽しいものを
燎たちが、四人組のVTuberとして活動を始めると決めてから。
そこから二週間は──それはもう死ぬほど大変だった。
まずは燎。ほたるに加えて、燎たち三人もVTuberデビューするとなれば。
それは必然──
改めて言おう。地獄だった。
ほたる一人を描くだけでもあれだけ苦労したキャラデザを、あと三人。頼みの綱の蒼は『クオリティに差が出るでしょうが。天瀬さんの分をやったんなら責任持って残りも全員分やりなさい』と手伝ってくれない。
とりわけ難産だったのは、暁原カガリ──つまりは自分のアバター。
何せ燎は、男性キャラを描く特訓をしてきていない。中性的な容姿のユキヤならともかく、普通に男の子として描くと決めた自分のデザインは尚更難航を極めた。
更には……何故かは分からないが、寄ってくるのだ。
臨時的にAlter’d四人の集合場所となった漫研部室で、燎が自分のデザインに悩んで唸っていると──他の三人がどこからともなく寄ってきて。
「まだ悩んでるのー? 大丈夫燎ならできるよ、もっと可愛く格好良くあとはちょっとへにゃっとした感じで描けば完璧! そういうのじゃないとわたしがキレる!」
「いえ待ちなさい、それだけだとこの子を表現する手段としては弱いわ、もっと不屈の闘志系の熱い要素も必要なんじゃないかしら」
「どう考えても後ろで見守る系のタイプ。なんだかんだで周りにしっかり気を配って立ち回るメンタルケア強者要素を押し出す以外ないでしょ」
「はい?」「何かしら」「文句あんの?」
「なんで全員若干厄介オタクっぽくなってんの!? この世で一番巻き込まれたくない論争に巻き込まれてるよ俺今!」
謎の燎についての解釈論争を起こしたりしていた。
多分三人とも悪乗りが入っていたと思うが、それでも死ぬほど居心地が悪かった。
……とまぁ、そんな困難やら珍事やらがありつつも。
そんな中でもどうにかこうにか限られた時間の中持てる手札をやりくりし、時には突貫工事で手札を増やして。一つ一つ可能な限りの誠意を込めた、ほたるのように見た人が『自分だ』と思えるようなものを目指した。
それは、すごく大変で。正直もう一回やりたいかと言われれば普通にごめんだと言うくらいではあるのだが。
何故か同時に、ずっとこんな場所にいたいとふとした瞬間思えるような、そんな……月並みな言葉ではあるが、充実していた時間でもあって。それを蒼に話すと、
「順調に創作にハマってきてるじゃない」
と、大層嬉しそうに言われた。
……それに、きっと燎がそう思った理由は自分のことだけではない。
燎だけでなく、蒼も雪哉も、そして言うまでもなくほたるも。燎に負けず劣らず忙しい日々を過ごしていたのだ。
雪哉はほたるがデビューに先駆けて出す予定のオリジナル楽曲の制作で燎と同じくらい頭を悩ませて時折ほたるや自分にも聞きにくる。
蒼はキャラデザを燎に一任した分それ以外の……そう、それ以外にも発生したイラスト関連の仕事を『もう自分も当事者だから』と引き受けてくれた。
ほたるは初配信のアイデア出しやスケジュール調整、その後しばらくの配信内容決めや準備諸々を急ピッチで進めており。
これまで、さまざまなことがあった四人が。ほぼ全員がどこかでぶつかって、一時はバラバラにすらなりかけたこの四人が。
今ここで、一つの目的に向かって各々のできることを全力でやっている。
それを見ると……上手く言えないけれど、頑張ろうと思えるのだ。
そんな感慨を抱きながら頑張っていると、二週間はあっという間に過ぎ去り。
いよいよ、その日がやってきた。
◆
七月初旬のある日。
その日、インターネットに一つのちょっとした話題作が誕生した。
内容は、大手動画サイトで最近徐々に注目されつつあったネットシンガー、十五歳という若さと始めたてとは思えない歌唱力でマイナーながら人気を獲得していた女性歌い手が、これまでのカバーではない初めてのオリジナル曲を出したというもの。
それだけならば、若い人が新しいことに挑戦したというよくある話だったかもしれない。
だが、それだけに収まらなかった理由が二点。
一点は、それが非常にクオリティの高いMVの入った、四人の少年少女が登場するストーリー性の強いオリジナル曲だったということ。
そして二点目が、概要欄で示された──
楽曲の内容は──ファンタジー色の強い、冒険を目指して旅に出た少女のお話。
彼女は今まで事情によって家から出られなかったのだが、ようやく外に出られるようになって、『今までできなかった分いっぱい冒険するんだ!』と可愛らしく意気込んで意気揚々と街へと繰り出す。
彼女は、一緒に冒険する仲間が欲しかった。
……けれど、街の人にもそれぞれの生活があって。少女の言う『冒険』に付き合ってくれるような人は、中々現れなかった。
しょんぼりしながら歩いていた彼女はそこで──真っ白な、何もない部屋でぼんやりと佇む一人の少年を見つける。
不思議に思った少女は問いかけた。
「どうして外に出ないの? 君は元気そうなのに」と。
少年は答えた。
「だって、外は怖いよ」と。
それを聞いた少女は、なんとか少年に話しかけ続け。
「確かに怖いかもしれない。でも、それ以上に楽しいから!」と説得し。
二人一緒に、外に出た。
……けれど、少女は分かっていなかった。
外がどんなに怖い場所か、ずっと家にいた彼女は本当の意味で理解していなかったのだ。
その、外の脅威を知ってしまい。怯えた少女は、少年と一緒に彼を見つけた真っ白な何もない部屋へ戻ってきてしまう。
やっぱり、自分が冒険なんて無謀だったのだろうか。
そう思って落ち込む少女に──けれど、今度は少年が手を差し出す。
あの日彼女にもらった勇気を今度は自分が渡すように。
「今度こそ大丈夫。二人なら」と。
それで勇気を取り戻した少女は、今度は二人で力を合わせて脅威を退け、冒険を続ける──ここまでが一番目。
以降は、二人が様々な場所を巡って仲間を集めていく。
山で出会った、遥か遠くの星に辿り着くことを目指しているけれど、あまりの遠さに折れそうになっている戦士の少年。
森で出会った、大きな力を持ちながら一度それで失敗し、それ以降怖くなって森の図書館に篭りきりになってしまった魔法使いの少女。
そんな子たちと出会い、交流し、悩みを解決し。
最後には一緒に大きな困難を乗り越え、ついに四人は一緒に冒険をする仲間になる。
そうして、どこまでも行けそうな大空と平原の下。
四人の中心で最初の少女が、眩しいほどの笑顔でこう告げるのだ。
「さぁ──次はどこに行こうか?」と。
楽曲名は『
最後にそのタイトルが現れ……それがばらけて一部の文字が収束、『Alter’d』という謎の文字列を形作り。
『Alter’d Coming soon!』の一文とともに暗転するという意味深な演出で終了する。
まずもって非常に高い楽曲のクオリティ、ストーリー要素強めな難しい楽曲を見事に歌いこなす彼女の歌唱力と、見るものを引き込むイラストとMV。
そして楽曲に登場する謎の四人の少年少女の存在。それらも相まって、元々歌い手としての彼女のファン層を中心に『どういうことだ!?』と話題を呼び。
結果として──楽曲そのものも初めての投稿以降の最高再生回数を更新した上に。
更には、その四人のうち中心となる少女のアバターをサムネイルとして用意し。SNSで楽曲告知と同時に『VTuberデビューします!』と告知した彼女の初配信には、想定していた以上の視聴者が詰め掛けることになったのである。
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