【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
21話 はろー。彼女はきっと、冒険家。
21話 はろー。彼女はきっと、冒険家。
そうして、自分の全てでもって描き上げた翌日。
朝早く登校した燎は、同じく早くに来たほたると空き教室に集合し。
約束通り、完成した彼女のアバターデザインを見せる──
「……やっぱ見せなくてもいい……?」
「おいこら舐めてんのか」
──前に、燎が全力で抵抗していた。
「待って、やっぱもうちょっと待って! 一晩明けて冷静になるとなんか見せるの超怖くなってきたんだって!!」
「わたし知ってるそれもうちょっとが無限に続くやつ! 気持ちは分かるけど腹をくくって見せろや貴様!」
詰まるところ、初めて自分がゼロから作った作品を他人に見せる怖さが急に出てきたのである。そんな燎のタブレットに力一杯手をかけ逃走も併せて阻止するほたる。
「ちゃんと全力でこれ以上ないってくらいの描いたんでしょ!? だったらちゃんと見せてよ、何より私が一秒でも早く見たいんですー!」
最終的には、そんなぐうの音も出ない正論をぶつけられ。燎も観念して、タブレットを開いてアプリを立ち上げ、ほたるに差し出す。
彼女の間の前でアプリが起動し。そこに現れた姿を見て、ほたるが目を見開く。
「……これは」
そこに写っていたのは、明るい服装をした一人の少女。
髪色はオレンジ寄りの赤、加えて毛先に微かなグラデーションを持たせることで見た目のインパクトにより華やかさを与えている。
服装は動きやすさを重視した実用性の高そうなもの、けれど適度な丈の短さと明るい色合い、所々にあしらわれた装飾によって無骨な重い雰囲気は一切ない。
腰元にはポーチ、ベルト、後はよく分からない飾りも複数あり、不思議で面白そうなイメージを与えるように。
手には軽い指ぬきのグローブ、足にはブーツ。それ以外の手足の露出は多めで、総じて重すぎず、活発さと身軽さ、そして可愛らしさを強調した外見の。
見ているだけで元気だと分かり、こちらも元気になるような、そんな女の子。
その外見と服装からの印象、そして何より……キャラクターの右下に明確に書かれた、これをデザインする上でのテーマ。
それを、ほたるが呟く。
「……冒険家……?」
「……ああ。それが俺から見た、『天瀬ほたる』にぴったりのテーマだったんだ」
可能性を信じて突っ走る姿や、誰よりも前で挑戦を続ける姿勢。
そんな彼女を表す単語は──やっぱり、『冒険』しかないと思ったのだ。
それを聞き届けた上で……再度、ほたるは燎のデザインを……自分のアバターとして描かれたデザインを見て、しばし沈黙する。
「…………」
……そしてその沈黙は、待つ側の燎にとっては凄まじいプレッシャーだ。
彼女の表情は未だ驚きが多く含まれており、その内側にあるものは読み取れない。それが……どうしても、ほたるの満足する基準に達していない証左に思えてしまって。
「……どう、だ?」
そんな考えに耐えきれず、燎が口を開いて──
「……やっぱり、あんまり、上手くは」
「はいストップ。それ以上は良くないよ」
他ならぬほたるによって、その弱音が止められた。
今度はこちらが驚く燎に、ほたるは申し訳なさと意志の強さが入った口調で。
「……あ、いや、黙っちゃったのは申し訳なかったんだけど……でも、これに良くないことを言うのは燎でも──燎だから尚更、ね?」
その意味を理解する前に。
「それじゃ、感想を言わないとだね」
ほたるが口元を綻ばせ、告げる。
「まず──びっくりした。なんでかって言うとね」
最初の表情の理由。驚いて言葉が遅れてしまった理由を、笑って。
「──
「!」
ほたるの言った意味。
それがじわじわと染み込んでくる燎に向けて、彼女は続けて。
「……まぁ、さっき燎が言いかけた通り……確かに、上手くはないかもしれない。それこそ桜羽先輩みたいに技術的に、画力的に『すげぇ!』って思うような印象はない、というかあったら怖いよ。──でもね、その上で」
燎の不安を見て、その部分はしっかりと素直に述べてから。
その上で──まずは、くるりと。アバターが描かれた場面を燎に向けて、その上でタブレットごと抱きしめる。まるで、それを自分と重ねるように。
そして、にっ、と表情を一番に綻ばせて。
心から嬉しそうに、感謝と喜びを全面に出した可憐な笑顔で、告げる。
「わたし、これ好き。これがいい。
すごく可愛くて格好良くて──何より、今までで一番『わたし』って感じがする」
「──」
その言葉を……想像だにしなかった言葉を、聞き届けた瞬間。
燎の中で、何かが。
「いやほんとすごい、やばい驚きが完全に通り過ぎた影響か遅れてテンション上がってきた! え、ほんとにこれ使って配信して良いの!? 超好きなんですけど!」
「……」
「まず可愛い、わたしに全然見劣りしてない! あとこういう動ける系の服大好きだし、何より『冒険』ってテーマがすごいしっくり来たっていうか──って燎!?」
遅れて、ほたるも気付いたようだ。
「え、ちょ、なんで泣いてんの!? どしたの、二日間無理させすぎたとかそんな感じ──な雰囲気じゃないよね。……えっと……?」
まぁ、そりゃ驚くだろう。
いきなりクラスメイトの男が目の前で泣き出したのだ、そういう反応にもなる。すぐに止まる程度だったものの、溢れ出したのは確かで。
そして、燎原自身も泣いてしまった理由は曖昧だ、だからそれを整理するのも兼ねて、もう一度口を開く。
「いや、ごめん……まず、安心したのと、嬉しかったのでさ。二日間死に物狂いで描いてきたのが報われて……しかも、俺自身も思ってなかった一番嬉しい感想もらって、ほんと感謝してる、それと……」
そう、きっと今抱いている感情はそれだけではない。
安堵と、喜びと──ああ、そうか。
自分のことだ、すぐに思い至ったその感情を……燎原は、告げる。
「……
「え?」
「ごめん、本当はさ……描いてる途中、何度もあったんだ。ああ、これ以上は今の俺の実力じゃ、画力じゃ表現できないって部分が。『上手い』絵はどうしても描けないって自覚した部分がさ。もちろんそこを嘆いてもどうにもならない、今の俺のできることで全力を尽くして作ったのがそれだ、そこは間違いない」
「……」
「でも……やっぱり。もっと早く始めてたら、もっと頑張れてたら、もっといいものをあげられたんじゃないかって思って。今の全力とは言え理想には届かないものを提出したのが不甲斐ないのと、それでこんな喜んでもらえて──そこで安心しちゃった自分も情けないのとで……ごめん、上手くまとまんない」
これ以上は、彼女に言うべきことではないだろう。
「喜んでもらえて、嬉しい。それは本当だ。でも、その上で──」
言うべきことは、後悔じゃない。もっと他にある。
そう思った燎は、未だ涙の残滓の残る顔で、それでもほたるを正面から見て。
「──もっと、上手くなるから」
「!」
「もっと勉強して、修行して……次何か描くときは、今回以上にすごいって思ってもらえるものを、絶対、描けるようになるから。だから……」
続きの言葉を、言う必要はなかった。
その前に──きゅっと。ほたるが緩やかに腕を回してきて。
「ん。楽しみ!」
様々な感情のこもった声で、そう締めくくったのだった。
そのまま、しばし何故か燎に抱きついていたほたるだったが。
突如、正気に戻ったようにはっと体を震わせたかと思うと、ぱっと離れて。
「は、はいサービスタイムは終了です残念でした!」
「……余韻って単語知ってる? いや必要とは言ってないんだけど」
顔を見ると、何やら自分でも予想外のことをしてしまったと言った雰囲気で軽く顔を紅潮させあわあわしていた。
そのまま、誤魔化すようにびしりとこちらを指さして。
「いや、というか今の流れで燎はなんでそんな冷静なの!?」
「どっちかというとびっくりが先に来たんですよ」
「だとしてもなんか釈然としない! 美少女の、わたしのハグだよ!?」
「なんか三日前も同じこと聞いた気がする」
「男の子なら全員喜んでわたしにお金を払うくらいのご褒美じゃないの!? これくらいなら妥当な評価だよね!?」
「そりゃ三日前の女神レベルと比べればまともだけど! でも十分高評価だよ、自己評価でドアインザフェイス仕掛ける奴初めて見たんだけど!?」
何やら最後はいつもの掛け合いで綺麗に誤魔化されてしまった気がするが。
「とりあえず……これでアバターの大元は完成だね! ほんとにありがと!」
「……そりゃどうも」
そう真正面から笑顔を向けられると、若干燎も照れ気味になる。彼とて、先ほどの一件で完全に冷静というわけではないのだ。
けれど、幸いというべきかほたるはそれに気付いた様子はなく──或いは、それ以上にやることがあると思っているのか。
「うん。だから……今度も次は、わたしの番だね」
後者なのだろうと、その表情と瞳を見て思った。
その予感に違わず、ほたるは決意を宿した声で、こう告げるのだった。
「まずは今日の放課後、赤星くんのところに行く。
もう一回話して、ぶつかって、それで──もう一度、連れ戻すんだ」
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