【一章完結!】クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
19話 恥ずかしいくらい、生きていた僕らの声が
19話 恥ずかしいくらい、生きていた僕らの声が
そこからは、純粋に自転車の旅を楽しんだ。
ほたるが騒いで、燎が突っ込んで。お互いの過去のくだらない思い出を開示しながら笑い合って。
何も考えず、ただはしゃいで。初夏の風を感じながら、どこまでも駆け抜けた。
言うべきこと、抱えていたもの、これまで重たかったものは、全て今までで言い切って、この場でだけは置いてきたから。この時は、そのご褒美だとばかりに。
今この瞬間、ほたるとはしゃぎながら自転車で走るのが──どうしようもなく、楽しかった。ずっと先にも思い出すだろうと思えるくらい、素敵な時間だった。
……きっと、なんだってそうなのだろうと。これまでの諸々を思い出しつつ考える。
以前ほたるは言った。高校生活はたったの千日しかないと。
それは確かに事実だ。そう考えると、少し寂しいものがある。
でも……そればかりを、『残り』のことばかりを考えるのは悲しい。
かと言って、逆に『時間はいくらでもある』なんて考えていては、きっと日々はあっという間に過ぎ去ってしまう。
だから──『今』を生きるのだ。
今、この瞬間を何よりも大切に。まずは第一に、今何するかに焦点を当てて。
やろうと思えばなんでもできると、馬鹿みたいに信じて。でもやろうとしなければできないと理解して、そのために必要な目の前のことに全力で。
どこにだって行けるし、なんだってできる。
そう信じて、今この瞬間を進み続ければきっと。
どこにでもではないかもしれないけれど、今よりずっとずっと遠くに行ける。なんでもはできないかもしれないけれど、今より遥かに多くのことができる。
そうしているうちに、限界はどんどん遠ざかり──だから結局、信じて進めば何だって。
そう、思えた。燎もそう、信じてみたいと思った。
背中に乗る、呆れるくらい全力の少女のおかげで、そう気づけたのだ。
だから、今も燎は全力でペダルを漕ぐ。
──日よ、まだ沈んでくれるな。
それに気づけた成果として、変わったことの証明として。
幼い日の自分、かつての自分の弱さの証明、挫折の始まりを今、否定したいのだ。
いつしか、二人とも無言になっていた。
目的地が近いと、そして制限時間も少ないと、二人とも理解したから。
そこからは必死に足を動かす燎の荒い息と、それを応援するように服の裾を強く握るほたるの静かな息遣いだけが響く。
そのまま、走って、走って。
どこまでも行けと願いながら走り続けて──その、先に。
「…………ついた」
自転車を降りて、呆然と、燎は呟く。
目の前にあるのは、ひたすらに進んだ突き当たり。夕焼けを受けて真っ赤に輝き、眩しいくらいに光を反射する雄大な景色。
あの日の自分が、本当に行きたかった──
「……はは、なんだ」
やっぱり、と安堵半分、呆れ半分で燎は呟く。
「──世界の果て。案外簡単に行けるじゃん」
眼前に広がる光景──海を、見据えて。
「なーるほどねー」
同時に、隣に立つほたるの声が響く。
「学校を出る時、いきなり『世界の果てに行く』ってのたまった時は何言ってんだこの男ついにわたしになったか? と思ったけど」
「おかしいの代替語として自分を使うのはどうなの?」
相変わらずの言い回しに突っ込むが、ほたるは構わず緩やかな口調で。
「納得した。……あくまで、小さい頃の自分の後悔の解消。だから、小さい頃の燎が想像できる果て──過去に自分が行きたかった場所に、今、もう一度行ってみたかったんだ。それが必要だったんだね」
「……改めて冷静に分析されると恥ずいんだけど」
「なんで? 素敵なことじゃん。それに……ちゃんと、吹っ切れたんでしょ?」
「……ああ」
それに関しては、間違いない。
幼い頃にできなかったこと……そこから、無意識のうちに必要以上に無理だと思い込んでしまっていたこと。
その過去を、吹っ切った。きっと思った以上に、走り出してしまえば遠くまで行ける。それを、自分の中で実感として理解できた。
「じゃあ、それが最高だ。だから──」
不思議な達成感と共に夕景を眺める燎を、眩しそうに、微笑ましそうにほたるが見やってから。
「次は、わたしの番だね」
そう告げて、燎の目の前まで駆けてからくるりと回ってこちらを向き。
「というわけで燎くん! 突然だけど、素敵な夕焼けだね!」
「え? あ、ああ」
「こんな夕焼けを見たら、まず何を差し置いてもやるべきことがあるとほたるさんは思うのですよ。すなわち──」
ぴっと一つ指を立てて、悪戯げかつ得意げに微笑むと。
「──ずばり、夕日に向かってばかやろーと叫ぶ」
「古いわ」
思わず半眼でそう告げるが、これも構わずほたるは続けて。
「まぁまぁ……これが、今のわたしに必要なことだから──見ててよ!」
「あ、ちょっ」
そのまま、海に向かって駆け出す。
反射的に燎が止めようとするが、すぐにやめた。燎にとってのこの旅と同じく、彼女にとって必要なこととと言われたのもあるが……何より。
見惚れたのだ。
焼けるような夕焼けの海辺、太陽のような印象を持つ少女が笑顔で海に駆けて行く。
長い髪が夕日を反射してきらきらと輝き、浮かべた笑みが呆れるほどに眩しく綺麗で。
そんな彼女が海辺で走る姿は、それこそ一枚の絵画と見紛うほどに完成されている。
それを見てしまえば……息を呑んで見守る以外のことなど、できようはずもない。
そうして見守る中、ほたるは波打ち際へと辿り着き。
片手を拡声器のように口の横へやり、大きく息を吸い込んで──
「わたしのば──────か!!」
思いっきり、叫んだ。
「らしくない、本当にらしくないなぁ我ながら! なーにシリアスにへこんだりしちゃてんの、病弱薄幸美少女キャラは中学校に置いていくって決めたのに何をキャラブレしとるんじゃ貴様は!!」
言い回しはいつもの彼女らしく、けれど声色は真剣に。
「そうだよ、一から十までぜーんぶ燎の言う通りだ! どこにだって行けるし、なんだってできる! 本当にそうじゃないってことくらいこの歳なら誰だって理解できるわ、何をそこで悩んでんだ! そうじゃなかったとしても、無理も不可能もあったとしても!」
今までの自分を吹っ切るように、そう誓った時の自分を取り戻すように。
「そうじゃないって! 誰よりも、世界で一番!
──
もう、そこでは迷わない。そう改めて宣誓するように、叫ぶ。
「そう信じて、誰よりも走り続けるのがわたしだ! そういう自分が、あの日のわたしみたいな子に元気を与える存在で、一番楽しいと思えて、一番好きになれるわたしだから! そうなるって決めたんでしょうが!」
……ああ。それが彼女なんだ、と。
燎も、その宣誓を聞いて再確認した。
迷わないわけじゃない、悩まないわけじゃない。
弱くなってしまう瞬間だって、きっと進み続ける分人並み以上にある。
でも、それでも。そんな中でも──できる、と信じて。
誰よりも、可能性を信じて。周りにも光を与えるくらいの笑顔と共に、走り続ける。
それが、天瀬ほたる……いいや、きっと。
これからVTuberとして活動する上での、『ほたる』の理想の姿なのだろう。
だから、彼女は。今この瞬間も、そうあろうとしているのだ。
「はは。……かっけぇな」
それを認識して……同時に、燎の頭で何かが嵌まったような感覚がすると同時。
「なのに──何を燎に追い越されとるんじゃこら!」
なんか聞き捨てならないことを叫び始めた。
「よりにもよって燎ってのが腹立つなぁ! あいつはわたしに触発されて素直に後ろを走るよく懐いた大型犬ポジでしょうが普通に考えて! なのにそれに気付かされるって何ー!? わたしはわたしが悔しいよ! よりにもよって、燎! ごときに!」
「よーしお前そこで待ってろ今から殴りに行く!」
「この距離でも律儀に突っ込んでくれる君が好きだよ! そしてやるか!? 海辺の定番その二、波打ち際での『捕まえてごらんなさーい』やるかぁ!?」
「だからなんでそこだけ微妙に古いんだよ!」
そのまま燎も走り出し、ほたるの言う波打ち際の青春の一コマ──の割には少々お互いガチすぎた徒競走を経て。結局どちらが勝ったかはプライドのため割愛する。
膝に手を置いて息を整える燎。それを終えて顔を上げると、ほたるの美しくも晴れやかな顔が真っ先に目に入った。
「よし! これでわたしの儀式も終了! 天瀬ほたる、完全復活です!」
続けてほたるはその美貌に、確かな意思を宿した笑みを浮かべ。
「──諦めないよ、わたしも」
そう、燎の前で宣言する。
「まだ、諦めない。バラバラになっちゃったみんな、もう一度わたしが集める。赤星くんとも仲直りして、ちゃんと悩みも一緒に解決して。それで、燎から聞いた話だけでもう絶対好きな桜羽先輩ともお話しして、できるならその人も仲間に加えて」
荒唐無稽でも、無謀でも。一切恥じることなく、真っ直ぐに目指すものを語る。
「それで──みんなで。楽しいこと、素敵なこと、毎日たくさん。飽きるくらいに、でもずっと楽しめるくらいに、いっぱい経験するんだ」
「……ああ」
それを、当然燎も笑わない。彼女のこれまでを知って笑えるわけがないし、実際やってしまえるんじゃないかという期待と確信がある。
それに……と、燎もその決意に応えるように。
「俺も──思いついた」
この旅で得たもの、もう一つの課題の光明を告げる。
ほたるが目を見開いた。
「思いついた、って」
「あんたのアバター制作のとっかかり。……ずっと、何をどう描いたら良いか分からなかった。天瀬を表現する上で、どういうものを描けばあんたに相応しいものになるのか、ずっと見えなかった──けど」
この旅で、ほたるをしっかりと知った。
抱えているものも、過去も、それを乗り越えた上での今の在り方も、知った。
そしてつい今、ここで。彼女の内にある、確かな信念を聞き届け。
パズルのピースが嵌まり、一つのアイデアが形を持った。
この場で聞いた、彼女の信念。ほたるがどういう存在か。
誰よりも、可能性を信じて。誰よりも前で、目指すものを追い求め。
困難にあっても、壁に当たっても。周りに可能性を示すように明るく笑って、楽しくどんな場所にだって笑顔と共に飛び込んでいく。
そんな彼女に、ぴったりの言葉。彼女を表現するのに、相応しい存在。
それが──今。燎の中で、確かな一つのアイデアとしてある。
これで……きっと、燎の内側の不足を埋めるものになるはずだ。
「帰ったら、それをテーマに描く。死ぬ気で、今俺が持ってるもの全部を使って描く。上手くいくかはまだ分かんねぇ、けど……」
一度、言葉を詰まらせる。
この先のことを、自分が言う資格があるのか。ここまで散々無様を見せた自分が、こんなことを言って薄っぺらくならないか、と躊躇う。
けれど、それも一瞬。──だからこそ言うべきなのだ、と思い直して。
「……絶対。俺の最高のものを……満足してもらえるようなものを作ってくるから。もう少しだけ、待っててくれ」
そう言い切った燎を、ほたるはしばし驚きの表情で見ていたが。
やがて……ふにゃりと。困ったように、けれど心底喜ばしそうに顔を綻ばせ。
「……もー」
期待と安堵、さまざまな感情を宿して声で、締め括った。
「楽しみ、もう一個増えちゃったじゃん」
「それじゃ、戻ろっか」
「だな」
これできっと、この旅でやるべきことはやり終えた。
だから後は戻るだけ──なのだが。
「というわけで、帰りについてなんだけど」
「奇遇だね燎、わたしも同じこと言おうとしてたと思う」
砂浜の向こう、堤防の下。空を見上げて。
……とうに夜の帳が降り星も見え始めている、大分真っ暗な夜の海辺で。
極めて真剣に、告げる。
「──流石に帰りも二人乗りはやめようか」
「だよね! 正直この暗さで後ろに乗るのはいくらわたしでも怖いかも!」
一瞬で合意を得て、結局ほたるだけは電車を乗り継いで帰ってもらうこととなった。
とまぁ、なんとも閉まらない終わりとなったが……それも含めて、らしいと思える。
ずっと先でも思い出す、紛れもない特別な夜の旅が終わり。
そして──きっとこの瞬間から。
燎の……そして燎たち四人の『活動』が、本格的に動き出すのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んで下さってありがとうございます!
次回から、いよいよ『四人』が集まるためのお話が始まります。是非この先も読んでいただけると!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます