幕間4 Alter'd雑談リレー配信 夕凪ほたる

 Alter’d、他メンバーが絶対聞かない雑談リレー。

 人気コーナーとなったこのリレー配信のトリになったのは、リーダーの夕凪ほたる。


「はろー! 夕凪ほたるです、ラストはやはりこのわたし!

 早速だけどみんな……この雑談リレー、ここまでの三人どうだった?」


 締めという立場からか、或いは普段から彼女が配信では一番喋っているからか、自然と総括のような流れになる。そんな彼女の問いかけに、視聴者も間髪入れずコメントする。


『超面白かった!』『四人配信では知られない一面を知れて大満足』

『もっとあの三人の話聞きたい!』


 届けられたのは、軒並み好感触の言葉。

 それを見たほたるは、とても喜ばしそうに頷いて続ける。


「うんうん、そうでしょー。あの三人のことをもっと知ってほしいって思ったのがこの企画思いついたきっかけだったからね。ほんとみんなすごくて、大好きな仲間たちだよ。──あ、今のはここだけの話ね! 他の三人には内緒だよ!」


『いやそこは内緒にする意味がないだろ』

『ほたるが仲間超大好きなのはみんな知ってるし多分三人にも伝わってるよ』

『いくら煽っても揶揄っても好きオーラが隠しきれてないんだよ諦めろ』


「あれぇ!?」


 そんなやり取りをしながら、まずは他三人の雑談配信の振り返りから。


『正直想定よりずっと波乱万丈だったんだなって』

『個性が強い分まとまるには時間がかかるかくらいに思ったけど、予想以上だった』

『本当何回も衝突したっぽいよね?』


「まぁそうだね。わたしだって何度もぶつかったし、結成までにすら全メンバーと一回は喧嘩して──あ、ごめんあおいちゃん先輩だけは別。あの人は会う前からわたしも好感度高かったし、出会った瞬間好き好きちゅっちゅー、ってしたら向こうも即落ちしてくれたから」


『草』『これはチョロい』『安定のチョロさ』『実家のようなチョロさ』


「でも、それ以外は基本全員何かしらぶつかってるんじゃないかな。ある意味ユキヤとあおいちゃん先輩が最初から今まで一番平穏説まであるよ」


『一番犬猿のとこで草』『でも分かるかも』

『確かに、犬猿寄りと言っても微笑ましい小競り合いばっかだしね』

『色々あった結果の今の絆ってことが分かって尚更てぇてぇが加速した』

『一番てぇてぇのはやはりAlter’dそのものだったか……』



 和気藹々と振り返りながら、この辺りで彼女も質問回答に移行する。

 基本は受け狙い寄りの質問を持ち前の明るさとトークで捌きながらいくつか回答したのち……こんな質問がやってきた。


「『どうして職業:冒険家なんですか? なんかパーティー的にほたるちゃんは勇者っぽい気がするんですけど!』。……お、これはちょっと真面目に答えたい質問が来たね」


『おお、いいじゃん』『新規で推してくれてる人っぽいね。ぜひ再説明を!』

『確かに、残り三人魔法使い戦士ヒーラーだもんな。典型勇者パーティーだし尚更』


「うん、理由はいくつかあるんだけど……まず単純に、勇者の称号はわたしには重いよ! だって最近の勇者ってあれでしょ、武勇も知略もちゃんと秀でた超絶美形で、勇者の剣を抜けなくても魔王を倒すとかいう努力家エピソードもあって、ちょっとナルシスト気味だけど嫌味にならないユーモアも完備してて、欠点が故人であることしかなくて回想で登場するたびに株を上げなきゃいけないんでしょ!?」


『どこと比べてんだw』『あれに勝てる勇者はいねぇよ』『比較対象が悪すぎるwww』

『あの人と張り合うつもりならそりゃ勇者は無理ですね……』


「それと、別に魔王を倒すことが目標じゃないってのもあるね。わたしたちの目的はあくまで冒険すること、冒険者パーティーのリーダーは普通に考えて冒険家です!」


『ちゃんとした理由はこっちね』『それはそう』

『確かに、よく考えたら冒険者パーティーなのに勇者がいる方がおかしいわな……』

『冒険者って単語が一人歩きしてるけど本来の意味で考えるならそうね』


 と、そこまで説明したものの。

 先ほどのコメント欄でもあったが、この辺りの回答──ほたるたちAlter’dが目指すものに関連することはここまでの配信で話している。

 新規の人には今のことで説明できたと思うが、せっかく自分たちをより知ってもらうための配信なのにここまで応援してくれる人にこれだけ、というのは忍びない。


 何か新しい話を。そう考えたほたるは……ほどなくして。


「後はその……今言ったのと比べればほんと些細なことなんだけど! ちょっとした小話っていくかそのくらいの立ち位置のお話なんだけど!!」


『お?』『どうした?』『ほたるちゃん照れてる?』


「わたしのAlter’dでの職業についてね、その……」


 大分気恥ずかしいが、ここまで言った以上やっぱなし、とはできない。

 数秒の葛藤ののち話す意思を固め、ほたるはまずこう告げた。



「……ママとの。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけエモいお話がありまして」



『超エモい話が来るぞお前ら備えろ!!』

『これはハイパーつよつよ青春エピソードの気配ッ!!』

『ここでもまた良質な母娘てぇてぇを接種させてくれるんですか!?』

『俺たちはこの後にてぇてぇ、と言うッ!』

『話せぇ! カガリとのどんな素敵なお話があったって言うんですか!』

『話してくれよ、待ちきれねぇよ……!!』


「コメ欄!! わたしの扱いを知っているようで何よりだほたるさんは嬉しいよ!!」


 一気に加速したコメント欄に、若干自棄になってそう突っ込む。

 だが、ここまで興味を持ってくれていること自体はとても嬉しい。それに、


「うん……そうだね、もともとこの企画は結成秘話を打ち明ける配信だし、確かにわたしだけ何も語らないのもちょっと違うか」


 そうだ。そのためにカガリの配慮から始まり前の三人、ほたるが関わる重要なエピソードは言及を避けてきた節がある。それをここまでのコメント欄から読み取っていた。


 で、あれば。

 言えない部分も、自分の中に留めておきたいことももちろんあるが。それを極力省いた上で──やっぱりこれも、自分たちを応援してくれる人に知ってほしい。

 そんな思いで、ほたるは口を開く。


「それなら、少し聞いてくれるかな。わたしの姿にも関係がある、ママとのお話」


 少しだけ照れたような、けれど自分の中で大切なことを打ち明ける、可憐で静かな声で。



「わたしが……ほんの少しだけ、へこんじゃった日にね──」

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