クラスのギャルに『わたしのママになって!』と言われてVTuberのデザインを始めたら、いつの間にか俺も一緒にVTuberになって人気が爆発した件。
6話 天使の声と、歌唱力が戦闘力になるタイプの世界線
6話 天使の声と、歌唱力が戦闘力になるタイプの世界線
そして放課後。
「赤星くん、今は教室にいるみたいだって。にしても──」
勧誘に向かうため廊下を歩きつつ、ほたるが隣の燎に話しかける。
「ほんとについてきてくれるとは思わなかった」
「天瀬が来いと言ったのでは?」
「いやーそうなんだけどね。やっぱ仲間勧誘するならもう仲間になった人見せた方が確率上がるかなーって。でも……なんで? 絵で相当忙しそうだったけど」
きょとんとした顔で問いかけてくる。まぁその疑問ももっともか。
「先輩は今日編集さんとの打ち合わせとかで放課後部室に来れないらしい。だから若干時間はあるんだよ、それに……」
それに──と思い返すのは、先日蒼に言われたこと。
燎の目標に向けて、やるべきこと
「──『描く対象のことをよく知れ』って言われたんだ」
「ほう?」
「ある意味これが一番大事なことで、そのためなら練習の時間も切り詰めて良いくらい、だってさ。正直これも今一つピンと来なかったんだが……」
あれほど的確なアドバイスをする蒼のことだ、何か意味はあるのだろう。
そして、燎の最終目標はほたるを元にしたキャラクターをデザインすること。であれば、ほたるを知るということだ。そのため、時間のある時であればほたると行動を共にする。これも目標への一環ということになる。
聞き届けたほたるも燎同様明確に理解はしきっていない様子だったが、そういうものかという納得と共に「ともかく付き合ってくれるなら大歓迎だよ!」と持ち前の明るさで言ってのけた。
そうこうしているうちに、目標の教室に到着。
扉から中を見渡し──すぐに、一際目を引く一人の男子生徒を発見した。
否が応でも視線を集める色素の薄い髪に、女の子かと見紛うほどの中性的かつ整った顔立ち。一人集中して何かを聞いている様子は恐ろしいほど絵になっていて、事実この教室の中でも最も周囲の視線を集めている。
「どう見てもあの子だね、赤星くん」
「『一番目立つ人だからすぐ分かる』って言ってたらしいしな」
情報を教えてくれた人のその言葉を若干疑ってしまったことを心中で謝る。確かにあれほど特徴的な存在ならば間違いようがない。
そういうわけで、早速向かうことにする。自分たち以外の教室、となると若干入るのに緊張するものだが、ほたるは全くお構いなしにしれっと入っていった。
そのまま迷わない足取りで件の赤星生徒の元へと向かい。
「はろー、赤星雪哉くんだよね。今ちょっといい?」
にこやかに話しかける。無言ながらもイヤホンを外して聞く姿勢に入った彼に向かって、ほたるは一切物怖じせず。
「難しい前置きもあれだから単刀直入に。──わたしに曲、作ってくれない?」
(いやストレートすぎないか?)
若干驚きつつ、音楽界隈では普通なのかもしれない、とやや的外れな推測とともに成り行きを見守る燎。
そんな二人を見たのち……雪哉は、表情を胡乱げなものに変えて。
「…………またその手合い?」
ほたるが目を見開いた。
「入学してから何件目さこれ。そりゃ『高校では作曲活動にいったん専念する』って周りに言ったのは僕だけど、誰の依頼も受けるとは一言も言ってないんだけど?」
「……」
「それで、特別入試で入った作曲家ってだけでネームバリューがあるって勘違いしてそれにあやかろうとする気? ──ふざけんな、今の僕は僕が成長できるためにしか曲を作るつもりはない。半端な気持ちで勧誘するなら即刻帰って──」
「ちょ、ちょっと待って!」
捲し立てられたその内容に……いや、多分内容とは別のところで。
ほたるが口元を押さえつつ、もう片方の手で待ったをかける。
「……なに?」
「いや、えっとね。真剣に言ってくれてるのは分かるしまぁまぁ手酷く断られているんだろうなってのも雰囲気で分かるんだけど、ごめん、それより前に──」
そう、ほたるがここまで情緒不安定になっている理由は。
燎も驚いたそれを、ほたるは……大変申し訳なさそうに告げる。
「──声が可愛すぎて内容が頭に入ってこない」
「秒で人の地雷踏んだなぁお前! よーしそこに直れ、弁明した上で今の無礼を土下座して謝るまでここから帰さんからな!!」
「いや弁明の機会はくれるんかい」
あ、多分こいつも愉快なやつだ、と。
なんの根拠もなくけれど燎はそう直感するのだった。
◆
「ごめんて、本当にごめんって! わたし、今から始めようとしてる活動もあって『声』に今すっごい敏感なの! だから君の声聞いた瞬間に頭の中が『声かわいっ』で埋め尽くされて他に何も考えられなくなっちゃったんだよ、普通そうならない!?」
「どう考えてもあんただけだよ! というかすごいな君、他の人は大体僕の声聞いたらその場は取り繕って後々陰で言うんだけど、真正面から言うか普通!? 潔すぎて逆に感動したんだけど!!」
謎の好感触? を得たことを自ら白状した雪哉は、続けて隣で聞いていた燎にも目を向けて告げる。
「で、君は? このわけわかんない女のお仲間?」
「ただの付き添いです」
「マブダチだよね! 夕暮れの教室で言葉で殴り合って仲を深めたもんね!!」
「絶妙に嘘じゃないライン突いてくんの小癪だなぁおい! 嫌だよ俺こんなのの仲間だと思われたくないよ! ついてきたこと後悔してるよ早くも!」
「なんでさ一緒に居てよ! わたしこの奇跡のショタボを前にして冷静にいられる自信ないからやばそうな時は君が止めて欲しいんだけど!」
「正直僕も居てほしいかな! この女だと真っ当な意思疎通ができなくなる可能性があるしまだ常識人っぽい君が残っててくれると助かりそう!」
「なんで突っ立ってるだけの俺の方が好感度上がってんの!?」
ともあれ、燎も残ることとなり。まずは三人とも落ち着こうということで落ち着いたのち、ほたるがついでに作曲依頼をしたい理由を説明した。
「……なるほど、バーチャルライバーね。もちろん知ってるけど」
「そゆこと。歌をメインに活動していきたいから、諸々曲と……叶うことなら、『わたし』を表現するようなオリジナル曲も依頼したい」
「話は分かった。それで……そこの夏代がイラスト担当ってこと?」
「うん、燎はまだ始めて一ヶ月で実力も全然なんだけどね。絵柄にビビッときてさ、ちゃんと描けるように今猛特訓中」
「……へぇ」
それを言ったのは、ひょっとしたら悪手だったのかもしれない。
事実、その言葉を受けた途端に雪哉の雰囲気が冷え込み、雰囲気そのままの視線で燎を見やって告げてきた。
「──つまりは、なんの覚悟も無い素人の手習いね」
……痛烈な一言であり。
同時に、雪哉の持つ雰囲気が場全体に伝播した感覚。そのままほたるが続けて。
「んー……初対面であんなこと言っちゃったわたしが言えた言葉じゃないと思うんだけど、赤星くん。今のは燎に謝って欲しいかも」
「なんで謝る必要があるの? その男が現状素人同然なのは事実だろ」
「それを脱却するために今燎は頑張ってる。なんで覚悟が無いって決めつけるの?」
「頑張ってるから何? 話を聞く限り、本気でこの活動しようとしてるんだろ? だったらその先は『頑張ったで賞』が存在する世界じゃないって分かってるはずだ」
「っ」
「そんで、覚悟があるか無いかを決めるのは口じゃなくて結果だ。経済的にプロに頼む余裕がないことは理解したけど、だとしても他にやり方はいくらでもあっただろ。それを無視してわざわざ素人を──」
「だからわたしが──」
「はいストップ」
その辺りで、燎が止めに入った。
多分、これ以上はほたるもヒートアップする。それは現状勧誘している身として本意ではないだろう。
そして、燎が残った理由はきっとこういう時のためだ。なのでとりあえず二人の間に割って入り、まずは雪哉の方に向かって。
「お互い熱くなりすぎそうだったからそこまで。まず赤星──あんたの言う通りだ」
「!」
「俺が素人なのも、他人を動かせるだけの結果を出せていないのも事実。そんで覚悟の無い素人じゃないって証明するためには、しっかり鍛え上げて納得させるに足る成果を出す他ない。……全部、あんたが正しい。俺に関してはいくら言ってくれても構わない」
改めて確認するが、雪哉は特別入試組。つまり中学までに音楽で突出した成果を出してきた人間であり、そういう人間からすれば燎を腹立たしく思う面もあるだろう。
それには文句ない。けれど……そんな自分でも、分かることはある。
「でも──今、あんたを勧誘してるのは天瀬だ」
雪哉が目を見開いた。
「だから、まずは『天瀬の理由』を聞いてくれないか。判断するのはまずそこだろ」
「それは……そうだな、そこは君が正しい」
「ん。つーわけで天瀬、怒ってくれるのはありがたいけど、まずは勧誘を優先してくれ」
「んぅー……まぁそだね、燎が気にしてないなら」
幸い、お互いちゃんと理性的で。そこで双方矛を納め、まずはほたるの……確実にあるだろう、『雪哉を真っ先に勧誘した理由』を聞く。
「うん、もちろん色々あるよ。例えば……今赤星くんがサイトに上げてる曲全部聞いて良いなって、燎の時と同じくわたしに合う曲を作ってくれそうって思ったのとか、その上で
「はっ──!?」
いきなりとんでもない推測を並べ立てられて思わず雪哉が高い声を上げた。
……しかも、その反応を見るに図星のようだ。改めて思うが、このほたるの洞察力は少々エスパーの域に入っているのではないだろうか。
そこから、ほたるは続けて。
「そんな感じで、多分『作曲に集中する』って言ったのも壁を突破したいからで、その為に依頼も完全には断ってないんだけど──でも今まで積み上げてきたプライドがあるから半端な依頼では納得できずきゃんきゃん可愛い声で吠えてるポメちゃんなのかなって」
なんか後半怪しくなかった?
「あの、天瀬さん?」
「んー何かな燎くん? 君が怒ってないのは分かったからさっきは怒らなかったけど……それはそれとして自分自身も友達を馬鹿にされてかちんと来てるほたるさんに何か?」
「そっかその二つ別なのかー……」
まぁ、どう見ても本質は感情タイプのほたるにその辺りを抑えろと言うのがまず酷か。無論理知的な判断も彼女は優れているとは知っているが、その上でここは感情を優先すべきと思ったのだろう。
喜べばいいのかどうか若干複雑な燎を尻目に、ほたるは更に告げる。
「ま、色々言ったけど……わたしは赤星くん、勧誘受けてくれると思ってるよ。だって作曲依頼自体は受け付けてるんだし。つまりは作ってみたい、この人の曲を作れば成長できる、そう思ったら作ってくれるってこと。そんで、わたしも自分ならって思ってる」
「……なるほど。さっきもそう言ってたしな」
「でも、今は意地で引っ込みつかなくなってるだけ。なら──」
そこで、静かに笑って。
「──
それなら、燎誘った時よりよっぽど楽かな」
「……あ?」
……何やら若干世界観が違うような挑発を言い出し。
そして、雪哉もそれを受けて静かにほたるを睨みつける。
「あは、ちゃんと乗ってくれるんだ。いいね、今ので君のことちょっと好きになったかも。じゃあこの後空いてる? 早速三人でカラオケでも行こうよ」
「いいよ、そこまで言うなら聞かせてもらおうじゃん」
「青春の象徴である『この後カラオケ行く?』をこんなバチバチのシチュエーションで聞くとは思わなかった──って待って三人? 何故俺も? この流れで俺要る?」
「何言ってんの、わたしの脳内は今『こいつ分からせたい』と『それはそれとして声可愛い』と『声可愛い』が渋滞して大変なことになってるんだよ、通訳が必要です」
「まだそっちが優勢なんだ!」
「多分僕とこの女今二人にしたら下手すると取っ組み合いまで発展するよ? 正直君の印象今あんま良くないけどそれはそれとして仲裁として居てよ」
「さっきから思ってたけど今確信したわお前さては面白いな!?」
そのまま、何故か燎が引きずられる形で。
赤星雪哉勧誘計画は、『歌で分からせる』というなんとも脳筋な方向へと進むのだった。
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